◇SH3203◇総務省、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(第2回)――電話番号を発信者情報開示請求の対象に追加することも議論に 蛯原俊輔(2020/06/18)

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総務省、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(第2回

――電話番号を発信者情報開示請求の対象に追加することも議論に―

岩田合同法律事務所

弁護士 蛯 原 俊 輔

 

1 はじめに

 現在、総務省に設置された「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(以下「本研究会」という。)において、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)に定める発信者情報開示の在り方について、検討がなされており、その一環として、開示対象に電話番号を追加することも議論されている[1]。以下では、発信者情報開示の制度内容に触れつつ、かかる議論等について解説する。

 

2 発信者情報開示の制度概要等

 インターネット上のウェブページ、電子掲示板、SNSの書き込み等といった特定電気通信(プロバイダ責任制限法法2条1号)による情報の流通によって自己の権利を侵害された(名誉棄損等)とする者は、後記(ⅰ)及び(ⅱ)両方の要件を満たしたときは、特定電気通信役務提供者(プロバイダ、サーバの管理・運営者等。)に対し、後述の発信者情報の開示を求めることができる(同法4条1項)。

 

(ⅰ) 侵害情報(特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報。同法3条2項2号。)の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき
(ⅱ) 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき

 

 また、同法は、発信者情報開示の対象となる発信者情報につき総務省令で定める旨規定しており(同法4条1項)、それを受けて総務省令[2]において、以下の情報が開示の対象となる旨定められている(表中の号数は、同省令中の号数。)

1号 発信者の氏名又は名称
2号 発信者の住所
3号 発信者の電子メールアドレス
4号 侵害情報に係るIPアドレス
5号 携帯電話端末等の利用者識別符号
6号 SIMカード識別番号
7号 タイムスタンプ(侵害情報が送信された年月日及び時刻)

 

 上記のとおり、電話番号はプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求による開示の対象とはされていない。これは、開示の対象となる発信者情報は、被害回復に必要な最小限度とすべきとの観点から、現行の総務省令制定時に、一般的に開示請求先となる特定電気通信役務提供者において、発信者の電話番号を把握している場合には、その氏名及び住所等も把握していると考えられるため、開示の対象としないとされたことによる[3]

 

3 本研究会における検討状況

 本研究会は、令和2年4月30日の第1回会議以降、インターネット上における権利侵害情報の流通の増加を踏まえ、開示の対象となる発信者情報の見直しや、発信者情報開示手続を円滑にするための方策等を検討している[4]

 そして、同年6月4日に開催された第2回会議では、以下のような、電話番号を開示対象に追加することの有用性、必要性及び相当性といった観点を踏まえ、発信者情報に電話番号を追加することが議論された模様である[5]

①有用性

  1. •  近年、SNS等のサービスを提供する主要なコンテンツプロバイダの中においては、ショートメッセージサービス(SMS)を用いて、二段階認証を要求することが一般化しつつあり、これらのコンテンツプロバイダがSMSの連絡先(携帯端末の電話番号)を保有することが増加
  2. •  権利侵害を受けたとする者は、コンテンツプロバイダから発信者の電話番号の開示を受けることができれば、電話会社に対して、弁護士会照会(弁護士法23条の2)等を通じて、発信者の氏名及び住所を取得可能になる

    など

②必要性
  1. •  コンテンツプロバイダの中には、1つのドメイン名に複数のIPアドレスを割り当てる方法を活用するなどしているものがあり、IPアドレスを起点として発信者を特定することが困難な事例が増加
  2. •  これらのコンテンツプロバイダに対しては、ログイン時のIPアドレス等の開示を受ける方法を採ることも考えられるが、かかる開示が認められるか否かについては裁判例で判断が分かれている

    など

③相当性
  1. •  電話番号それ単体では、特定個人を識別できないなど、必ずしも、既に開示の対象とされている他の情報(メールアドレス等)に比して、特に高度のプライバシー性があるとまではいえない

    など

 

4 終わりに

 本研究会は、令和2年11月頃、検討に係る最終取りまとめを行う予定である[6]

 これまで、コンテンツプロバイダに対する発信者情報の開示請求(仮処分など)によってアクセスプロバイダ(ISP、携帯キャリア)のIPアドレス、タイムスタンプを取得し、その上で当該アクセスプロバイダに氏名、住所の開示請求(訴訟提起)を行うという2段階の裁判手続が必要であったが、電話番号が開示対象となることにより、アクセスプロバイダへの訴訟提起に代えて、一般により簡便な方法といえる電話会社に対する弁護士会照会等を利用することが可能となる。SNS上における誹謗中傷に係る投稿に関する社会的関心が高まっている現状も踏まえれば、今般の改正の方向性が実現することによって、発信者情報開示制度は更に利用されることが予想されるところであり、本研究会の検討結果が注目される。

以 上



[1] 総務省発信者情報開示の在り方に関する研究会「発信者情報開示の在り方に関する研究会(第2回)配布資料」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/information_disclosure/02kiban18_02000093.html

[2] 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令

[3] 総務省総合通信基盤局消費者行政第二課『改訂増補第2版プロバイダ責任制限法』(第一法規、2018)102頁

[4] 総務省発信者情報開示の在り方に関する研究会「発信者情報開示の在り方に関する研究会」開催要項」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/000685596.pdf)1ないし3

[5] 総務省発信者情報開示の在り方に関する研究会「『電話番号』を発信者情報開示請求の対象に追加することについての検討」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/000691023.pdf)参照。なお、本稿執筆日(令和2年6月15日)現在において、第2回会議の議事概要は公表されていない。

[6] 総務省発信者情報開示の在り方に関する研究会「今後のスケジュール(案)」(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/000685597.pdf

 

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