SH5454 米トランプ2.0関税の全体像と企業の対応~2025年5月上旬までの動きを整理~(1) 宮岡邦生/児玉みさき(2025/05/19)

組織法務経済安保・通商政策

米トランプ2.0関税の全体像と企業の対応
20255月上旬までの動きを整理~(1)

 森・濱田松本法律事務所外国法共同事業

弁護士・NY州弁護士 宮 岡 邦 生

NY州弁護士 児 玉 みさき

 

 ※ 本稿における説明は2025年5月16日(日本時間)時点の情報に基づいている。トランプ政権の政策はめまぐるしく変化するところ、最新の情報については米国政府の発表やニュース等を併せて参照されたい。

 ※ 本稿に記載された日付は特に断りのない限り2025年である。

 ※ 本稿で扱う内容は米国法の問題であるところ、当職らは本稿において法的アドバイスを提供するものではなく、具体的案件については個別の状況に応じて専門家に相談されたい。なお、本稿のうち意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であり、その所属する組織の見解ではない。不正確な点や誤りがあれば責めはすべて筆者らに帰する。

 

1   はじめに

 2025年1月20日に発足した米国の第2次トランプ政権は、「米国第一主義の通商政策(America First Trade Policy)」を旗印に、他国からの輸入品に対し次々に高率の関税を課している。トランプ氏の「関税好き」は1980年代に遡るとされ[1]、2017年に発足した第1次政権当時から既に、通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ関税や通商法301条に基づく中国製品に対する追加関税を導入していた。しかし、第2次政権ではこの傾向が一層加速し、就任から約100日の間に、関税措置発動に関する大統領令(Executive Order、EO)や布告(Proclamation)が30近く発出され、さまざまな措置が文字どおり乱発されている。

 これら「トランプ2.0関税」には、異なる根拠法に基づくさまざまな措置が含まれ、国によって税率や適用関係が異なる上、発表直後に適用が猶予されたり、対象品目や税率が変更されたりと、企業活動にとって大きな不確定要素となっている。

 本稿では、ビジネスにおける対応の参考とすべく、現在までに発表された各種関税措置について、その内容や相互の適用関係を含めた全体像を整理する(下記)。加えて、中国をはじめとする各国の対抗措置等も簡潔に概観する(下記)。最後に、これを踏まえ、日本企業の対応ポイントについて述べる(下記)。

 

2   トランプ2.0関税の概要

⑴ これまでに発表された関税措置の一覧

 トランプ大統領は、第2次政権発足の当日(2025年1月20日)に「米国第一主義の通商政策」を発表し、①不公正・不均衡な貿易の是正(第1節)、②対中経済・通商政策(第3節)、③経済安全保障に関する追加的措置(第4節)──を柱として打ち出した[2]。関税は、これらの政策を実現するための中核的なツールと位置づけられている。

 本稿基準時点までにさまざまな関税措置が発表・導入されているが、主なものとして、①フェンタニル等の違法薬物の米国への流入を理由とする中国・カナダ・メキシコに対する追加関税(2月1日発表、以下「フェンタニル関税」という)、②鉄鋼・アルミ製品に対する追加関税(2月10日発表)、③自動車・自動車部品に対する追加関税(3月26日発表)、④米国の貿易赤字縮小などを目的とする相互関税(4月2日発表)──が挙げられる。そのほかにも、検討中の措置を含め多数の措置が存在する。

 これらの関税措置を根拠法別に一覧化すると図表1のとおりである。

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(みやおか・くにお)

弁護士・ニューヨーク州弁護士、森・濱田松本法律事務所外国法共同事業パートナー
2004年東京大学工学部卒業、2007年東京大学法科大学院終了、2013年米国コロンビア大学(LL.M.)修了。2009年森・濱田松本法律事務所入所。2014~2016年経済産業省通商機構部国際経済紛争対策室(参事官補佐)、2017~2020年世界貿易機関(WTO)上級委員会事務局法務官を経て現職。WTO/FTA、関税、貿易救済、輸出管理、経済制裁、ビジネスと人権、環境・気候変動など、国際通商法を広く扱う。近著として『国際通商法実務の教科書』(日本加除出版、2024年)。

 

(こだま・みさき)

ニューヨーク州弁護士。2005年名古屋大学法学部卒業、2007年名古屋大学大学院国際開発研究科博士前期課程修了、2009年ベルン大学 World Trade Institute(Master of International Law and Economics)修了、2014年Fordham School of Law(LL.M.)修了、2014年名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程(Ph.D.)修了。2015年ニューヨーク州弁護士登録(外国法事務弁護士未登録)。2010~2011年在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、2014~2018年米国大手法律事務所、2018~2023年経済産業省通商政策局国際経済紛争対策室にて執務。2023年森・濱田松本法律事務所入所。主な業務取扱分野はWTO/国際通商法務、アンチダンピング。

 

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