ドイツ付加価値税法と消費税法
第九話 軽減税率、非課税、ゼロ税率
付録 ドイツ付加価値税法翻訳 石川 紀(2024/11/05)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第一話 電子インボイスの義務化について 石川 紀(2024/11/05)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第二話 輸出免税と免税店 石川 紀(2024/11/28)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第三話 プラットフォーム課税 石川 紀(2024/12/27)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第四話 リバース・チャージ――EU型付加価値税はいつまでEU型であり続けることができるのだろうか 石川 紀(2025/01/21)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第五話 小規模事業者を巡る問題 石川 紀(2025/02/18)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第六話 内外判定と輸入消費税 石川 紀(2025/03/26)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第七話 納税義務の拡大――責任の規定と前段階税額控除の否認規定 石川 紀(2025/04/23)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第八話 課税手続 石川 紀(2025/06/25)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第九話 軽減税率、非課税、ゼロ税率 石川 紀(2025/08/06)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第十話 旅行サービスに関する特別規定など 石川 紀(2025/09/26)
ドイツ付加価値税法と消費税法――補遺 段階的なインボイス電子化義務、時限的付加価値税減税など 石川 紀(2025/11/11)
はじめに
付加価値税の中には、有償の財・サービスの提供であっても課税されないもの、課税されるにしても優遇されるものもある。優遇の方法として、軽減税率のように、税率で対応するものもあれば、非課税とすることもある。最近ではゼロ税率も採用されるようになっている。
これらの措置は国の実情によっても異なるものでもあり、一律に考えることはできないと考えられるが、消費課税の趣旨から、軽減税率、非課税、ゼロ税率の関係を良く考える必要がある。
軽減税率は一般的には逆進性緩和のための措置と言われているが、実証的には証明は容易ではない。非課税については、前段階税額控除ができないために、はたして優遇措置なのかという根本的な問題がある。非課税は前段階税額控除が認められないために、前段階税額が消費者に転嫁されることとなるため、軽減税率ほどには負担軽減の効果がはっきりしていないものとなっている。
この非課税では解決できない問題を解消するために、ゼロ税率が導入されることとなった。これは、非課税とは異なり、前段階税額控除が認められるものとなっている。こちらの方が非課税よりは付加価値税の体系に整合的ではあり、税の累積負担効果は生じないが、優遇の効果は極めて大きいために、どの分野に適用するかが問題となる。
付加価値税は、所得税や法人税のように歴史的に発展してきた税ではなく、欧州統合のために理論的に考えられ構築された人工的な税ではあるが、前身が前段階税額控除のない売上高税であったということがある。これは税制の常であるが、白地に絵を描くようなことはできず、常に既存の税制との連続性を考えなければならない。既存の税制で生活している納税者がそこにはいるのである。我が国は1977年に古典的な完成形となったEUの第六次付加価値税指令をモデルとして消費税を導入したために、前段階税額控除のない売上高税から付加価値税に至る苦難の道のりを経験することなく、軽減税率も非課税も継承した。この二つは果たして付加価値税の中の制度として整合性があるのかという根本的な問題があり、現在でも、論争が続いているということについて考えてみたい。
1 軽減税率のなかった売上高税
読者の方には意外に思われるだろうが、1919年にドイツ財務省が前段階税額控除のない売上高税を企画立案し、導入した際には軽減税率は存在していなかった。[1]
なお、1918年に売上高税法は成立しているが、この税法ではフリーランスの役務の提供が課税対象とはなっていなかった。そういう意味では1919年の売上高税が包括的な消費課税の始まりということができる。
前段階税額控除のない売上高税の場合、tax on taxが生じるために、税負担が累積することとなり、食料品などが、多段階で消費者の許に至る場合、多額の税負担が生じるが、それでも当初は軽減税率は導入されなかった。
代わりに規定されていたのは、低所得者向けの給付金の規定である。下記のような規定となっていた。
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ドイツ連邦銀行の推計によると、当時のマルクは現在の約0.5ユーロ相当なので、現在の円に換算すれば課税所得が163万円以下の家計に手当を支給する仕組となっていたといえる。
この逆進性緩和のために手当を支給するという議論は常に繰り返されることとなるが、売上高税の創設当時に売上高税法の中に規定されていたという歴史的な事実は重要と思われる。(なお、翌1920年にはこの制度は廃止されている。)
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亜細亜大学経済学部 特任教授
1983年東京大学法学部卒業。旧大蔵省に入省。ドイツ税制の調査に従事。独フライブルク大学留学。1989年の消費税導入時に白河税務署長を勤める。1992年から独フランクフルト総領事館にて、ドイツの財政・金融政策を担当。平成の金融危機時には金融機関の破綻処理、不良債権処理に従事し、その間、海外の破綻処理法制についての論考も執筆。2006年~2008年国税庁徴収課長を勤めた後、2010年から在ベルリン日本大使館公使としてドイツの財政・金融政策を担当。帰国後は、名古屋税関長、関信国税不服審判所長、神戸税関長等を勤めた。2019年に財務省退官。2025年4月から亜細亜大学経済学部で教鞭をとる。