欧州委、市場アクセスの拡大と宇宙安全の強化を目的とした
EU宇宙法案を提案
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 清 水 亘
弁護士 山 田 智 希
弁護士 新 庄 絢
１ はじめに
欧州委員会は、2025年6月25日、宇宙産業に関する規制の見直しを含むEU宇宙法案を公表した[1]。
宇宙空間における活動および宇宙空間をめぐる安全保障環境の急速な変化に伴い、官民ともに宇宙技術開発への関心が高まっているところ、EU宇宙法案は、EUにおける宇宙活動の許認可、登録、監督等に関する規制を統一すること、宇宙技術の利用による経済的発展の機会を最大限に活用し、関連する政治的・社会的リスクに対処することを目的としている。適用対象には、EU域内の宇宙事業サービスを提供する企業のみならず、EU域内でサービスを提供する第三国の事業者および国際機関も含まれる。EU宇宙法の制定によって、EUおよび加盟国の競争力を強化し、安全性、サイバーセキュリティのレジリエンス強化、持続可能性という3つの主要目標を実現することが期待されている。
EUにおける現在の宇宙活動は、1967年に採択された宇宙条約に基づいて規制されている。宇宙条約は宇宙活動における締約国の国際的責任を定義しているが、ドイツを含む一部のEU加盟国はかかる責任を国内法に反映していない。また、EUレベルでの宇宙に関する法的枠組みの整備は不十分であり、サイバーセキュリティに関するNIS 2指令[2]（Directive (EU) 2022/2555）の適用対象が宇宙分野にも拡大した程度にとどまる。
そこで、欧州委員会は、宇宙活動に関する加盟国の法制度が断片化している現状を是正して、EUにおける統一規制の制定を目指し、EU宇宙法案を提案した。本法案は、EU加盟国に立法を求めるDirective（指令）とは異なり、EU加盟国に直接適用されるRegulation（規則）として制定されることが想定されており、2030年1月1日から加盟国に適用される見通しである。
本稿では、EU宇宙法案の主要目標、および2050年までにEUを宇宙経済の世界的リーダーとして位置付けることを目的とした初のイニシアチブである欧州宇宙経済ビジョンの概要を紹介する。
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（しみず・わたる）
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。東京大学法学部卒業。2005年弁護士登録（第一東京弁護士会。2012年愛知県弁護士会に登録替え）。主な取扱い分野は、知的財産法、テクノロジー法。
（やまだ・ともき）
アンダーソン・毛利・友常法律事務所シニア・アソシエイト。2017年東京大学法学部卒業。文部科学省勤務を経て、2018年弁護士登録（第二東京弁護士会）。2024年英国King’s College London, University of London (LL.M.)。2025年英国弁護士（Solicitor, England and Wales）登録。コーポレートガバナンス・グローバルコンプライアンス、国内外のM&A・組織再編のほか、宇宙・航空・海洋分野を中心とする国際法・国際取引法関連や地方自治体関連案件に積極的に取り組んでいる。
（しんじょう・あや）
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2020年慶應義塾大学法学部卒業。2022年東京大学法科大学院修了。2023年弁護士登録（第二東京弁護士会）。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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