SH5628 ドイツ付加価値税法と消費税法――補遺 段階的なインボイス電子化義務、時限的付加価値税減税など 石川 紀(2025/11/11)

組織法務監査・会計・税務

ドイツ付加価値税法と消費税法
補遺 段階的なインボイス電子化義務、時限的付加価値税減税など

石 川   紀

 

付録 ドイツ付加価値税法翻訳 石川 紀(2024/11/05)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第一話 電子インボイスの義務化について 石川 紀(2024/11/05)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第二話 輸出免税と免税店 石川 紀(2024/11/28)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第三話 プラットフォーム課税 石川 紀(2024/12/27)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第四話 リバース・チャージ――EU型付加価値税はいつまでEU型であり続けることができるのだろうか 石川 紀(2025/01/21)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第五話 小規模事業者を巡る問題 石川 紀(2025/02/18)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第六話 内外判定と輸入消費税 石川 紀(2025/03/26)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第七話 納税義務の拡大――責任の規定と前段階税額控除の否認規定 石川 紀(2025/04/23)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第八話 課税手続 石川 紀(2025/06/25)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第九話 軽減税率、非課税、ゼロ税率 石川 紀(2025/08/06)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第十話 旅行サービスに関する特別規定など 石川 紀(2025/09/26)
ドイツ付加価値税法と消費税法――補遺 段階的なインボイス電子化義務、時限的付加価値税減税など 石川 紀(2025/11/11)

 

はじめに

 これまで、テーマ毎にドイツ付加価値税法と消費税法の比較検討を行ってきたが、本文の翻訳は前回で終了し、今回は、経過規定とこれまで翻訳してこなかった附属書を翻訳することとしたい。これをもってドイツ付加価値税法の翻訳は完成する。

 そういう意味では、あらためて紹介するほどのテーマはないが、第一話で述べたインボイスの電子化について、経過規定を紹介するとともに、その付加価値税を超え、税制全体に与える影響について紹介することとしたい。また、我が国でも近時議論されている消費税の時限的減税に関する規定についても紹介したい。

 

1 インボイスに対する幻想

 筆者が大蔵省に入省したのはもう40年以上も前の話となるが、その当時からドイツ付加価値税の調査に従事している。当時の大蔵省の雰囲気としては、大平内閣における一般消費税の廃案もあったものの、付加価値税の導入は不可避と考えられていた。それは包括的な間接税が将来の安定財源として重要ということだけではなかった。

 クロヨンやトウゴウサンピンという言葉が当時は流布していた。トウゴウサンピンとは、給与所得の補足率が10であれば、事業所得が5、農業所得が3、政治家が1ということを意味し、クロヨンは給与が9とすれば事業が6、農業が4ということを意味している。中小零細企業と農業における所得の把握には難しいものがあり、欧州の付加価値税を導入することにより、インボイス制度も導入され、このインボイスの情報を税務当局が取得できることにより、中小零細企業や農業においてもそのキャッシュフローが把握できるようになるということが期待されていた。

 このインボイスによるキャッシュフローの把握は納税者側からみれば、消費税導入に対する反発のすべてではないものの、消費税導入に対する不安を掻き立てる要因となっていたものと考えられる。

 インボイスを前提にした売上税が中曽根内閣において一度も審議されることなく廃案となったことも、やはりインボイス導入がその原因の一つではなかったかと考えられる。消費税はその導入当初インボイスの規定はなかった。これは売上税の失敗に学んだものと思われ、インボイスによるキャッシュフローの把握を放棄することで、消費税導入に対する抵抗感をやわらげようとしたものと思われる。

 近時、日本においてもようやくインボイスが導入されたものの、紙をベースとしており、電子化も可能という規定となっている。電子化といってもデータとしては相互運用性が全くなく、様々なデータ様式が乱立する状況となっている。Jpgといった画像データの形式でも電子インボイスとなり、データとしての相互運用性はない。紙で発行されるものと本質的な差異はない。紙で蓄積されたデータから事業者のキャッシュフローを把握することは理論的には可能だろうが、容易なことではない。そもそも、本来の付加価値税の課税標準の把握も容易ではないと思われる。

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(いしかわ・おさむ)

亜細亜大学経済学部 特任教授
1983年東京大学法学部卒業。旧大蔵省に入省。ドイツ税制の調査に従事。独フライブルク大学留学。1989年の消費税導入時に白河税務署長を勤める。1992年から独フランクフルト総領事館にて、ドイツの財政・金融政策を担当。平成の金融危機時には金融機関の破綻処理、不良債権処理に従事し、その間、海外の破綻処理法制についての論考も執筆。2006年~2008年国税庁徴収課長を勤めた後、2010年から在ベルリン日本大使館公使としてドイツの財政・金融政策を担当。帰国後は、名古屋税関長、関信国税不服審判所長、神戸税関長等を勤めた。2019年に財務省退官。2025年4月から亜細亜大学経済学部で教鞭をとる。

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