◇SH3204◇監査役協会、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・統合版」を公表 山田康平(2020/06/19)

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監査役協会、
「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・統合版」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 山 田 康 平

 

1. はじめに

 日本監査役協会・会計委員会は、2019年6月11日に「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」を、同年12月4日に「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」をそれぞれ公表していたが、2020年6月8日、これらの内容を統合するとともに、修正・追加等を行った「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・統合版」(以下「本Q&A集」という。)を公表した。

 本Q&A集は、金融庁・企業会計審議会が、2018年7月5日付で「監査基準」を改訂し、金融商品取引法上の監査人の監査報告書に「監査上の主要な検討事項」(KAM: Key Audit Matters)[1]を記載することを義務付けたことを踏まえて、KAMの円滑導入に向けた監査役等の実務支援ツールとして作成されたものである。また、本Q&A集は、当初、2020年3月期決算の監査からの早期適用に向けた検討を行う場合の対応を勘案し、前後編の2分割構成として作成されたが、今般公表されたものは、2021年3月期以降の本格適用に向けて、今後の参照の便宜のために、統合版として改訂されたものである。

 本Q&A集は、KAMの2021年3月期以降の本格適用に当たり、有価証券報告書等提出会社が参照すべき資料の一つであるため、その構成を改めて紹介するとともに、今般の主な追加事項を紹介することとしたい。

 

2. 本Q&A集の構成

 本Q&A集の構成は、以下のとおりである(★は今般新たに追加された項目である。)。

 

1. KAMの概要

 (1) 概要(Q1-1-1、Q1-1-2)

 (2) 導入の背景(Q1-2)

 (3) KAMとして考えられる事項はどのようなものか(Q1-3-1~Q1-3-10)

   ★Q1-3-9 有価証券報告書に記載する事業等のリスクとKAMの記載項目の関連性

   ★Q1-3-10 有価証券報告書に記載する監査役会等の活動状況の記載内容とKAMとの関連性

2. 導入に向けて(Q2-1)

  ★Q2-1 KAM導入に向けたスケジュールと準備

3. 実務上のポイント

 (1) 監査契約(Q3-1)

 (2) 監査計画(Q3-2-1~Q3-2-6)

 (3) 期中(Q3-3-1~Q3-3-4)

   ★Q3-3-3 KAMに関するコミュニケーションの手順

   ★Q3-3-4 KAMに関するコミュニケーションにおける監査役等の役割

 (4) 期末(監査報告書作成時)(Q3-4-1~Q3-4-4)

 (5) 株主総会に向けた対応(Q3-5-1~Q3-5-3)

4. その他(Q4-1)

 

3. 主な追加事項について

(1) 有価証券報告書の記載事項との関連性(Q1-3-9、Q1-3-10)

 KAMに選定された項目は、有価証券報告書に記載する「事業等のリスク」と、結果として整合することになると思われる(Q1-3-9)。

 一方、有価証券報告書に記載する「監査役会等の活動状況」との関係では、KAMに選定された項目との整合性は、必ずしも求められていないと考えられる(Q1-3-10)。

 

(2) KAM導入に向けたスケジュール(Q2-1)

 新規上場により新たにKAMの記載が義務付けられることとなる場合のスケジュール、準備事項等が解説されている。

 本項においては、従前は、KAMを2020年3月期から早期適用する場合のスケジュール等が解説されていたが、KAMは2021年3月期から本格適用されることから、早期適用に関する解説は本Q&A集には収録されていない。3月決算ではない有価証券報告書等提出会社で、現在早期適用を検討している場合は、従前の本Q&A集(「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」)を参照されたい。

 

(3) KAMに関するコミュニケーション(Q3-3-3、Q3-3-4)

 KAMの選定に当たっては、まずは、監査人と執行側で議論を行い、その結果に基づいて監査人又は執行側から、監査役等への説明と協議を行うという手順が想定される。そして、最終的には、監査役等・監査人・執行側の三者間のコミュニケーションの結果を集約し、5月中旬頃の会社法上の会計監査人の監査報告書が提出される段階で、KAMのドラフトの確認を行い、三者の認識を共通化させる必要がある(Q3-3-3)。

 また、監査役等には、三者の連携を主導する立場から積極的な役割を果たすことが期待されている。例えば、監査役等は、監査人の監査の方法や内容に関する経理部門の指摘事項等について執行側から情報を得るなど、問題点や指摘事項について共有が進んでいないと思われるような場合には、監査人・執行側それぞれに対して主導的に働きかけることで、情報の共有や緊張感の維持に努めることが期待されている(Q3-3-4)。

 

4. おわりに

 KAMの選定に当たっては、監査人及び監査役等が中心となることが想定されるが、監査役等・監査人・執行側の三者間のコミュニケーションが重視されており、執行側との連携や企業の情報開示の促進など全社的な取組みが求められていることには留意が必要である。本Q&A集は、企業運営全般に係る事項についても有益な情報を提供するものであり、監査役等に限られず、企業法務に携わる者にとって参照すべき価値の高いものであるといえる。

以 上

 

 


[1] KAMとは、「当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項」をいう。KAMは、監査人の監査意見ではなく監査プロセスに関する情報提供であり、監査人の監査報告書上も、監査意見とは明確に区別して記載される(本Q&A集Q1-1-1参照)。

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