◇SH0989◇最三小判(山崎敏充裁判長)、クロレラチラシ配布差止等請求事件 永口 学(2017/01/31)

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最三小判(山崎敏充裁判長)、クロレラチラシ配布差止等請求事件

岩田合同法律事務所

弁護士 永 口   学

 

1 はじめに

 最高裁は、標記判決(以下「本判決」という。)において、新聞折込チラシの配布も消費者契約法(以下「法」という。)上の「勧誘」に含まれ得るとの判断を示した。消費者による意思表示の取消し等が認められる余地を広げるものであり、インターネット上の広告を契機とする取引が一般化している中で重要な判決であると考えられるので、法における「勧誘」の位置づけに触れつつ検討したい。

 

2 「勧誘」の位置づけ

 法は、事業者が消費者との間で締結する契約について「勧誘」をするに際し、不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知、不退去・退去妨害の各行為を行い、それによって消費者が当該消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をしたときは、消費者保護の観点から、消費者がこれを取り消すことを認めている(法4条1項乃至3項)[1]。さらに、適格消費者団体(法2条4項)は、消費者被害の抑止の観点から、事業者等が、上記締結について「勧誘」をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して上記各行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者等に対し、当該各行為の差止請求等をすることができる(法12条1項、2項)。

 上記「勧誘」の意義につき、最高裁は、本判決(事案の概要については、末尾の囲みを参照されたい。)において、消費者庁や原審とは異なる判断を示した[2]

 

3 「勧誘」を巡る議論の状況と最高裁の判断

 従前、消費者庁は、広告やチラシの配布といった不特定多数向けのものへの働きかけについては、客観的に見て特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接に影響を与えているとは考えられないとして、「勧誘」に含まれないとの見解を示していた[3]。本判決の原審(大阪高判平成28年2月25日金判1490号34頁)も同様の見解を採用している。

 一方で、かかる消費者庁の見解に疑問を呈する見解も多く、例えば、「消費者の側からすれば、事業者の行為が不特定多数人に向けられた行為であるかどうかによって、受ける影響が変わるものではない」として、広告等についても、客観的にみて特定の契約締結の意思形成に影響を与え得るものについては「勧誘」に該当すると解すべきとの見解が寄せられていた[4]

 本判決は、「消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得る」との理由を挙げ、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが「勧誘」に当たらないということはできないと判断した。最高裁は、従前の消費者庁の見解の不採用を明らかにし、広告等が不特定多数人に向けられたか否かにかかわらず、特定の契約締結の意思形成に影響を与え得るかどうかに鑑みて「勧誘」への該当性を個別具体的に判断する、という姿勢を示したものと評価できる。

 

4 実務への影響

 本判決では、不特定多数の消費者に向けられた事業者等による働きかけが「勧誘」に該当する場合についての具体的な判断基準は示されていないが、冒頭に述べたとおり、本判決を受け、広告、特にインターネット広告に起因する消費者被害の救済に法が積極的に用いられることが想定され、事業者が広告を利用する際には、今後一層、消費者への配慮が求められよう。本判決が及ぼす実務への影響について注視していきたい。

以 上

 

  1. 事案の概要
  2. 1. Yは、以下のようなクロレラの効能、薬効等が記載されている新聞折込チラシ(以下「本件チラシ」という。)を京都市内に配布。
     (ア)「病気と闘う免疫力を整える」、「細胞の働きを活発にする」
     (イ) 腰部脊柱管狭窄症、肺気腫等の慢性的な疾患の症状の改善
  3. 2. Xは、Yによる本件チラシの配布は、消費者契約の締結について「勧誘」をするに際し法4条1項1号(不実告知)に規定する行為を行うことに当たるとして、新聞折込チラシに上記の記載をすることの差止め等を請求。
  4. 3. 本件チラシは、平成27年1月22日以降配布されておらず、Yは、同年6月29日以降、上記1記載に係るクロレラの効能や薬効の記載がないチラシを配布している上、今後も本件チラシの配布を一切行わないことを明言。

 



[1] 本年6月3日からは改正法の施行に伴い、過量な内容の契約の取消しが加わる(同条4項)。

[2] もっとも、最高裁は、事案の概要の3記載の事情に鑑み、被上告人(被告・控訴人)が法4条1項1号等の行為を「現に行い又は行うおそれがある」(法12条1項、2項)とはいえないとして、上告自体は棄却している。

[3] 消費者庁消費者制度課編著『逐条解説消費者契約法〔第2版補訂版〕』(商事法務、2015)109頁

[4] 後藤巻則ほか『条解消費者三法』(弘文堂、2015)35頁

 

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