◇SH2911◇東京株懇、提案書「今後の対話型株主総会について~ヴァーチャル総会の利用も視野に~」公表 関口彰正(2019/11/29)

未分類

東京株懇、提案書「今後の対話型株主総会について~ヴァーチャル総会の
利用も視野に~」公表

岩田合同法律事務所

弁護士 関 口 彰 正

 

1 「今後の対話型株主総会について〜ヴァーチャル総会の利用も視野に〜」について

 全国株懇連合会は、「今後の対話型株主総会について〜ヴァーチャル総会の利用も視野に〜」を取りまとめ、11月18日に提案書として公表した(以下「本提案書」という。)。

 コーポレートガバナンス・コード(以下「CGC」という。)が制定され、各種ステークホルダーとの対話の重要性が意識される現在、株主総会そのものを対話の場として位置付ける取組みが重要であるとされる。そして、個人株主を含む株主全員の株主総会へのアクセス機会を増やすことで、出席株主の増加への対応や広く情報提供の場へとしての役割を有意に果たすとともに、株主総会の運営に工夫を加え、経営への規律付けに効果を持たせることが有用であることから、ヴァーチャル総会の選択肢を提供するべく本提案書が策定された[1]

 本提案書では、後記2以下のとおり、現行法をベースとした場合の実現可能性等を検討している。

 

2 ヴァーチャル総会の種類

 ヴァーチャル総会は、主に以下の3種類に分けられる(本項における図は、いずれも本提案書6~7頁からの引用である)。

 

【PV(Public Viewing)型】

 物理的に株主総会の場を設け、取締役や監査役、株主が集う形態を前提に、株主(視聴を許可する場合は非株主を含む)は自宅等物理的株主総会会場以外の場所(会社が用意する中継会場を含む)に居ながらにして物理的株主総会を視聴することができる形態をいう。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

 

 

【HB(Hybrid)型】

 物理的に株主総会の場を設け、取締役や監査役、株主が集う形態を前提に、株主は自宅等物理的株主総会会場以外の場所(会社が用意する中継会場を含む)と物理的株主総会会場とを結び、情報伝達の双方向性と即時性が確保された形態をいう。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会

 

 

【VO(Virtual Only)型】

 物理的な株主総会の場は設けず、取締役や監査役は自社会議室等に居て、株主が自宅等取締役や監査役が居る場所以外の場所から株主総会に出席する形態であり、取締役や監査役が居る場所と各株主との間は、情報伝達の双方向性と即時性が確保された状態にある形態をいう。

バーチャルオンリー型株主総会

 

3 各ヴァーチャル総会の特徴及び現行法上の整理

 3種類のヴァーチャル総会の特徴と現行法上の整理は以下のとおりとなる(本提案書47頁以下)。

  1. 【PV型】
  2.    PV型のヴァーチャル総会は、物理的株主総会の様子を視聴するものにとどまり、ヴァーチャル総会自体は会社法上の株主総会ではない。そのため、ヴァーチャル総会に参加した株主は株主総会に出席したことにならず、議決権行使もできないことから、議決権行使を行うためには議決権行使書等による事前の行使が必要となる。
  3.    また、会社法上の株主総会ではないため、その採用にあたって取締役会決議を要しないが、とはいえ、ヴァーチャル総会の会場からの質問があった際にどのように取り扱うか等の問題点が存在する[2]
     
  4. 【HB型】
  5.    HB型のヴァーチャル総会は、PV型と異なり、ヴァーチャル総会自体も会社法上の株主総会に該当することになる。物理的株主総会の場と情報伝達の双方向性及び即時性が確保されている環境にあれば、かかる方法による株主総会への出席も会社法上許容されると解されている。
  6.    会社法上の株主総会に該当する以上、株主はHB型のヴァーチャル総会においても議決権を行使できることとなる。そして、HB型のヴァーチャル総会の採用にあたっては、その重要性に鑑み、取締役会決議を取得することや、その詳細については株主総会議事運営規則等で定めHP等で開示することが提案されている。
  7.    また、HB型のヴァーチャル総会の実施にあたっては、①事前議決権行使を行った株主がヴァーチャル総会へ出席した場合に、事前議決権行使の効力をどのように取り扱うか、②入場にあたっての本人確認及び退出の確認の方法、③質問・動議への対応方法、④採決の方法等をどのようにすべきか等多くの法的論点が生じ得る。
     
  8. 【VO型】
  9.    VO型のヴァーチャル総会は、物理的株主総会も開催しないことになるが、会社法上、株主総会の開催にあたっては、「株主総会の……場所」を定める必要があるとされ(会社法第298条第1項第1号)、当該規定の存在から現行の会社法においてはVO型のヴァーチャル総会の採用は困難と解されている。

 

4 総括

 以上のとおり、現行法をベースとすると、HB型が、会社法上の株主総会に該当する唯一実現可能なヴァーチャル総会である。HB型のヴァーチャル総会は、CGC原則1-2(株主総会における権利行使)の「株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべき」との要請に資するであろうと評価されている(本提案書68頁)。もっとも、HB型のヴァーチャル総会においても上記のとおり整理すべき論点は多々あるが、本提案書においては当該論点についても詳細な検討が加えられている。ヴァーチャル総会の導入にあたっては、本提案書の記載を踏まえながら、導入を希望する会社の具体的ニーズと会社法上の整理を十分に検討する必要がある。

以上



[1] 全国株懇連合会「今後の対話型株主総会について〜ヴァーチャル総会の利用も視野に〜」2頁

[2] なお、PV型のヴァーチャル総会はソフトバンクグループ株式会社が実際に行っている。

 

タイトルとURLをコピーしました