厚労省、マイナンバー制度について(労災保険関係)
岩田合同法律事務所
弁護士 永 口 学
10月に入って、マイナンバーを記載した「通知カード」の発送が始まり、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「マイナンバー法」という。)に基づいて平成28年1月から開始されるマイナンバー制度の準備が着々と進んでいる。
マイナンバーは、現時点では、社会保障、税及び災害対策の分野に限って利用されることが想定されているところ、この度、厚生労働省より、労災保険におけるマイナンバー制度に関して公表があった。
これによれば、例えば、業務上被災した労働者又はその遺族(以下「労災保険請求者」という。)が労災保険の給付を受けようとするときは、所轄の労働基準監督署長に対して、保険給付請求書を提出して給付を請求するところ(末尾図参照)、平成28年1月からは、障害補償給付支給請求書等、特定の請求書についてはマイナンバーの記載が求められることになる。
労災保険の請求手続は労災保険請求者である個々人が行うものであるが、今後は、事業主も、労災保険請求者のマイナンバーが記載された請求書を目にする機会は少なくないと思われる。例えば、事業主においては、①労災保険請求者が保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、その手続を行うことができるように助力しなければならず(労働者災害補償保険法施行規則23条1項)、また、②労災保険請求者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは速やかに証明をしなければならず(同条2項)、更には、③保険給付の請求については、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができる(同法施行規則23条の2第1項)とされており、各種の場面において労災保険請求手続に関与することが想定される。
そのような場合、事業主としては、労災保険請求者のマイナンバーの取扱いに当たり、マイナンバー法の規制に触れないよう、留意が必要である。
すなわち、マイナンバーは、個人番号利用事務等を処理するために必要があるときに限り、その提供を求めることができるとされているところ(マイナンバー法14条1項)、労災保険請求手続においては、事業主は個人番号利用事務等実施者に該当しない。そのため、事業主は、労災保険請求者に対してマイナンバーの提供を求めることはできない。
その結果として、事業主は、マイナンバーの収集や保管もできないことになるが(同法20条参照)、公表されている厚生労働省の見解によれば、ここでいう「収集」には、マイナンバーを閲覧することは含まれず、マイナンバーが記載された請求書などを見ることはマイナンバー法上の問題は生じないとされ、また、管理上、請求書の写しが必要な場合には、マイナンバーの部分を復元できない程度にマスキング又は削除した上で保管することは可能とされている[1]。
そのため、事業者において、労災保険請求者のマイナンバーが記載された労災保険請求書の提示を受けること自体がマイナンバー法に直ちに抵触することはない。もっとも、事業者が、労災保険請求者との間のやり取りの記録のため、又は、労働基準監督署長に意見を申し出るために、労災保険請求書の写しを保管する場合には、上記のとおり、マイナンバーの記載についてマスキング又は削除が求められることになる。
事業主においては、今回の厚生労働省の公表内容を踏まえ、労災保険請求手続に関する自社のマイナンバー制度対応について、改めて確認することが有益であろう。
以 上
障害補償給付の請求手続 |
[1] 労災保険給付業務における社会保障・税番号制度への対応に係るQ&A(平成27年10月20日時点版、http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000101750.pdf)Q6に対する回答参照