◇SH2978◇金融庁、「金融商品取引業等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」を公表 飯田浩司(2020/01/23)

未分類

金融庁、「金融商品取引業等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 飯 田 浩 司

 

 金融庁は、令和2年1月10日、「金融商品取引業等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」を、そのHP上で公表した(以下「本公表」という。)。

 金融商品取引業者等は、金融商品取引契約を締結しようとするときは、原則として、あらかじめ、顧客に対し、所定事項を記載した書面(契約締結前交付書面)を交付しなければならない(金商法第37条の3第1項)。

 本公表によれば、本公表に係る金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業等府令」という。)の改正案は、

  1. ①「契約締結前交付書面を過去に交付したことがある顧客に対して、金融商品取引業者等がウェブを活用して契約締結前交付書面の情報を提供することを可能」とし、併せて、
  2. ②「契約締結前交付書面の記載事項の合理化を図る観点から、記載事項の一部について見直し」を行う、

ものとされる。

 ここでは、同改正案のうち、より重要な上記①のポイント(以下「本改正案」という。)を概観する。

 

  1. (1) 背景・趣旨
  2.    本改正案の「背景・趣旨」について、金融庁は、本公表において、「上場有価証券やプレーンな債券については、現在多くの金融商品取引業者等において契約締結前交付書面を冊子にまとめて、全顧客に年1回交付する実務運用が行われてい」るが、「このような運用は、顧客にとって必ずしも合理的な情報提供となっていないと考えられるところ、本件の改正では、契約締結前交付書面の趣旨を損なうことなく、その内容をより合理的で分かりやすく顧客に提供する観点」で、改正を行うものとしている。
     
  3. (2) 本改正案に係る提供方法を利用できる有価証券の範囲
  4.    本改正案により、ウェブを活用した契約締結前交付書面の情報等の提供(以下「本提供」という。)ができる「有価証券の範囲」は、上述のように「上場有価証券やプレーンな債券」に限られる[1]
     
  5. (3) 情報提供の内容
  6.    本改正案に基づく「情報提供の内容」については、上述の「上場有価証券」などについては上場有価証券等書面に記載すべき事項(業等府令80条1項1号)で足り、他の「プレーンな債券」については契約締結前交付書面記載事項そのものが必要となる(業等府令案80条1項5号柱書、同項6号柱書)。
     「上場有価証券」等については、従前より、業等府令80条1項1号により契約締結前交付書面記載事項よりも少ない事項の情報提供で足りるとしていることと、平仄を合わせたものと考えられる。
     
  7. (4) 情報提供の方法
  8.    本改正案による、(ウェブを活用した)「情報提供の方法」については、「電子情報処理組織を使用して顧客の閲覧に供する方法」で足りる(業等府令案80条1項5号柱書、同項6号柱書)。
     契約締結前交付書面の電磁的方法による提供については、従前より金商法37条の3第2項が定められているが、同項に基づく提供の場合には、顧客の承諾が必要となり、また、提供方法も業等府令に定める方法に限定されている。それに比べると、本改正案による情報の提供方法は、顧客の承諾も必要なく、また、「顧客の閲覧に供」していれば足りるなど、金商業者等にとって使い勝手がよい。
     ただし、後述のように、顧客が書面交付を請求した場合には改めて書面交付をする必要があり、請求できる旨の説明も予め顧客にする必要がある(業等府令案80条1項5号柱書、同号イ、同項6号柱書、同号イ)。
     なお、表示形態は、顧客にとって見やすい箇所に業等府令79条に規定する方法に準じて表示することを要する(業等府令案80条1項5号ハ、同項6号ハ)。
     
  9. (5) 対象顧客
  10.    当該情報提供の方法についての「対象顧客」は、当該金商業者から、上場有価証券等書面(上述の「上場有価証券」の場合)、又は、当該金融商品取引契約と同種の内容の金融商品取引契約に係る契約締結前交付書面(上述の「プレーンな債券」の場合)の交付を受けたことがある顧客に限られる(業等府令案80条1項5号柱書、同項6号柱書)[2]
     
  11. (6) 事前の説明・情報提供
  12.    顧客に対して、大要、ウェブにより情報提供すること、当該情報提供事項記載書面の請求ができることの、適切な方法による「事前説明」が必要となり(同項5号イ、同項6号イ)、また、当該情報提供事項の提供を受けるために必要な「情報の提供」が、適切な方法で、当該金融商品取引契約の締結前過去1年内になされることも必要となる(同項5号ロ、同項6号ロ)。
     
  13. (7) 5年間、常に容易に閲覧可能な状態に置く措置
  14.    原則、該当する有価証券の取引を行った日以後5年間、当該顧客が常に容易に当該事項を閲覧することができる状態に置く措置が取られていることを要する(同項5号ニ、同項6号ニ)。

 

 本改正案が成立、施行された場合、一般論としては、ウェブによる情報提供の方が、契約締結前交付書面を冊子にまとめたものよりも安価であるため、金融商品取引業者がウェブによる提供を選ぶ可能性がある。そうした場合には、顧客も自らが取引する特定の上場有価証券などに焦点を当てた情報を取得できることにより、契約締結前交付書面を冊子にまとめたものを受け取る場合よりも、効果的に情報を吟味できるようになる可能性がある。

 他方、本提供の対象となる顧客は、上述のように、従前、上場有価証券等書面などの書面を当該金商業者から受け取ったことがあり、また、過去1年内に、当該情報提供事項の提供を受けるために必要な情報の提供がなされている必要があるなど限定されているため、新たな顧客情報の管理及びそのためのシステム対応等が必要となる可能性がある。従前の実務運用が今後も許容されるとした場合、顧客本位原則等を考慮して、本提供の方法がどこまで利用されるかは、なお予断を許さないように思われる。

以上



[1] 具体的には、本提供が可能な「金融商品取引契約」の範囲は、「上場有価証券等売買等」(金融商品取引業等に関する内閣府令80条1項1号参照)又は「債券売買等」(業等府令案80条1項6号)に係る金融商品取引契約に限られる。

[2] 金商法37条の3第2項に基づく提供を受けた顧客も解釈上含まれるとされるかについては疑問もあるため、パブコメに対する回答も注視する必要があると思われる。パブコメ事項としては、他に業等府令案80条1項5号・同項6号の「当該顧客から上場有価証券等書面/契約締結前交付書面の交付の請求」がなされるタイミングは「契約締結時」までであるのかが、契約締結前交付書面の交付という行為規制の遵守と関わるため、パブコメで解釈が明らかにされる必要があろう。同項5号ハ・同項6号ハの「前条に規定する方法に準じて表示される」の解釈についても明らかにされることが望まれる。

 

タイトルとURLをコピーしました