◇SH1442◇最二小決、地方公共団体は、その機関の保管文書について、文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たる 飯田浩司(2017/10/18)

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 最二小決、地方公共団体は、その機関が保管する文書について、
文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たる旨を決定

岩田合同法律事務所

弁護士 飯 田 浩 司

 

1.

 最高裁判所は、平成29年10月4日、「地方公共団体は,その機関が保管する文書について,文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たる」として、香川県による許可抗告申立を棄却する決定を下した(平成29年(行フ)第2号事件。以下「本決定」という。)。

 本件の本案は、香川県議会の議員の政務活動費に関して不当利得返還請求をするよう香川県知事に対して求める住民訴訟であり、その際、香川県議会の議員らが議長に提出した領収書等(以下「本件文書」という。)についての文書提出命令の申立てが、「地方公共団体」である香川県(抗告人)についてなされた。

 本件では、本件文書の「所持者」が地方公共団体である香川県か、当該議長であるかが問題となった。

 

2.

 民事訴訟法219条は、「書証の申出は…文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない」として、訴訟当事者に文書提出命令の申立てを認めているところ、文書提出命令の名宛人は「文書の所持者」である。

 文書提出命令における「文書の所持者」については、「社会通念に照らして当該文書に対して事実的支配力を有している者」(その判断によって提出を決定できる者)という理解が伝統的に有力であるが、「文書の所有権者」という理解も近時有力とされる[1]

 また、国・地方公共団体の機関が保有する文書については、平成16年行訴法改正前は文書の閲覧について決定権限を有し、行政訴訟の被告となる「行政庁」とする理解が有力であった[2]。しかし、現在は、行政訴訟の被告適格が国・地方公共団体に移ったことや、民事訴訟法220条4号ニが「国又は地方公共団体が所持する文書」と規定していることもあり、公法上の権利義務の主体である国・地方公共団体それ自体(例えば、香川県それ自体)が名宛人であるという理解が有力とされている。

 

3.

 本決定は、

  1.  「文書の所持者は,文書提出命令によって,その文書を裁判所に提出すべき義務を負うこととなる。そして,地方公共団体の機関が文書を保管する場合において,当該地方公共団体は,当該機関の活動に係る権利及び義務の主体であるから,文書提出命令の名宛人とされることにより,当該文書を裁判所に提出すべき義務を負い,同義務に従ってこれを提出することのできる法的地位にあるということができる。したがって,地方公共団体は,その機関が保管する文書について,文書提出命令の名宛人となる文書の所持者に当たるというべきである。」

とする。

 本決定は、まず、文書提出命令に基づく「義務」を発想の出発点として、地方公共団体が文書保管者である地方公共団体の機関の活動に係る権利義務の主体であることを主たる理由として、「地方公共団体」を「文書の所持者」に該当するものとしている。これは、国・地方公共団体の機関が保有する文書に係る「文書の所持者」についての近時の有力説に沿ったものに見える。

 また、本決定は、「義務の主体」の問題にとどめず、敢えて「同義務に従ってこれを提出することのできる法的地位にあるということができる」と記載していることから、当該文書について、社会通念上の支配ではなく、法的な処分権を有することを求めているように読め、その意味において、文書の所持者を「文書の所有者」と考える近時の有力説に近いように見える。もっとも、本決定は文書の「所有権」そのものには言及しておらず、かつ、「提出することのできる」法的地位という伝統的な有力説に沿った記載もしていることから、社会通念上の支配を重視する伝統的な有力説を排斥しているとまでは言い得ない。

 本決定は文書提出命令における「文書の所持者」該当性について判断を行った初めての最高裁判例と考えられる。

 

4.

 本決定は、直接は、地方公共団体の機関としての議会の議長が保管する文書の「所持者」について判断したものである。

 ただ、本決定に記載の「これ(※文書)を提出することのできる法的地位にある」といった考え方は、私人を名宛人とする文書提出命令において、名宛人が社会通念上当該文書を保有(支配)するものの、法的な処分権限は有しないという場合(例えば、文書保管業者に対する文書提出命令の申立てを行う場合などが考えられる。)の判断に影響する可能性がある。

 本決定の実務上のインパクトとしては、文書提出命令に関する最高裁判例が出たことにより、従前よりも「文書の所持者」該当性について、例えば「文書を提出することのできる法的地位にある」か否か等の争いが増えるのではないかと想像される。

 


[1] 山本和彦ほか編『文書提出命令の理論と実務〔第2版〕』(民事法研究会、2016)124頁。

[2] この考え方に立てば、本件の本案は住民訴訟であり(「行政庁」概念は用いられない)、訴訟の被告は「県知事」であるため、文書の所持人は「県知事」であるという主張が考えられる。もっとも、文書の実際の保管者は県議会議長であるという不都合があり、本件においても相手方は文書の所持人は「議長」であると主張している。

 

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