◇SH1957◇公取委、独占禁止法に関する相談事例集(平成29年度)を公表 青木晋治(2018/07/10)

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公取委、独占禁止法に関する相談事例集(平成29年度)を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 青 木 晋 治

 

1 はじめに

 公正取引委員会は、平成29年4月から平成30年3月までの間に同委員会に対する主要な相談の概要を取りまとめた「独占禁止法に関する相談事例集(平成29年度)」を、平成30年6月27日に公表した。

 本稿では、当該事例集のうち、公正取引委員会が特徴的な事例とする事例8について概観する。

 

2 本事例の概要

 本事例は、家電製品メーカー6社が、将来における物流業務の共同化の実現性及びそのスキームを検討するために各社の物流業務に係る情報を共有することについて検討されたものである。

 各社において共有することとなる情報は以下のとおりであるが、共同運送の可否等の検討は限られた部門・人員で行い、検討に必要な情報は当該部門・人員内のみで共有するよう適切な情報遮断措置が取られることとされている。

  1. ① 各在庫拠点の納品先の名称及び納入条件、配送業者の名称及び契約条件
  2. ② 各在庫拠点において保管・配送する家電製品の容積
  3. ③ 各在庫拠点における家電製品の大きさ(大・中・小)ごとの荷役、保管及び配送の原価
  4. ④ 家電製品の引渡し方法、納品伝票の様式等

(出典:独占禁止法に関する相談事例集(平成29年度)(公正取引委員会ホームページ)

 

3 独占禁止法上の考え方

 事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる。

 本事例では、各社の物流業務に係る情報を共有するものであることから、家電製品の製造販売分野における競争を実質的に制限するものと認められるか問題となった。

 

4 公正取引委員会の判断

 公正取引委員会は、本事例について、

  1. ① 家電製品A、B及びCの製造販売市場における相談者の合算市場シェアは約20パーセントから約70%にまで及ぶものの、6社それぞれ製造販売する家電製品の販売価格に占める各社の物流経費の割合(共同化割合)はいずれも約5パーセントと小さいことから、家電製品それぞれ(A、B又はC)の製造販売分野における競争を実質的に制限するものではないこと
  2. ② 家電製品の価格又は数量に関する情報は共有しないこと
  3. ③ 共同配送の可否等の検討は限られた部門・人員で行われ、検討に必要な情報は当該部門・人員内のみで共有されるような適切な情報遮断措置が講じられること

から、独占禁止法上問題となるものではないとの見解を示した。

 

5 実務上の留意点

 家電製品メーカーに限らず、物流業務の効率化を図ることは企業にとって重要な関心事である。物流業務の共同化の検討にあたっては各社の物流コストを開示せざるをえない場合があり得るところ、本事例は、その検討段階において、競合するメーカー間で、既存の配送業者との契約条件等についての情報共有を、一定の条件下において可能とする旨の判断を示すものとして参考になる。

 公正取引委員会が公表する過去の相談事例集においても競合するメーカー間の配送の共同化について検討された事例があるが[1][2]、いずれも販売価格、販売数量、取引先等に関与しないこと、販売価格に占める物流経費の割合が小さいこと、配送上の都合上、物流子会社において配送先や販売数量について情報共有をする場合でも物流子会社間のやり取りに限定し、メーカーに当該情報が伝わらないよう情報遮断措置を採られていることなどが、競争を実質的に制限することとなるか否かの判断要素として示されていたところである。

 この点、本事例においても、販売価格そのものや販売数量については情報共有をしないことが適法化の条件として強調されているため、同種事例を検討するにあたっては、少なくとも、販売価格等の情報が共有されることとなっていないか、又は価格情報等が推知されるような情報共有の態様になっていないか留意する必要があると思われる。

以 上



[1] 公正取引委員会「独占禁止法に関する相談事例集(平成27年度)」事例6(競合するメーカー間の配送の共同化)

[2] 公正取引委員会「独占禁止法に関する相談事例集(平成28年度)」事例7(競合するメーカーによる配送の共同化)

 

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