経産省、「限定提供データに関する指針(案)」に対する
パブリックコメントを実施
岩田合同法律事務所
弁護士 工 藤 良 平
経済産業省は、本年12月21日を締切日として、「限定提供データ」にかかる不正競争につき、該当行為の具体例や解釈指針等が盛り込まれた「限定提供データに関する指針(案)」(以下「本指針案」という)のパブリックコメントを実施している。
本年の不正競争防止法改正において、気象データ、地図データ、機械稼働データ、消費動向データなどのいわゆる「ビッグデータ」の創出・収集・分析・管理等に向けた投資を行う事業者等において、適正な対価回収の機会が確保されるよう、これらのデータにつき「限定提供データ(法第2条第7項)」という概念として定義されたうえ、「限定提供データ」に係る不正取得、使用・開示行為が新たに不正競争として位置づけられることとなった(改正後不正競争防止法第2条第1項第11号~第16号)。来年7月1日に予定されている改正不正競争防止法の施行に先立ち、経済産業省は、不正競争防止小委員会での審議を経て、本年11月22日、本指針案を公表したうえ、意見公募を行っている。
本指針案では、営業秘密と同様に「技術上又は営業上の情報」である限定提供データに関する不正取得等の不正競争について解釈の指針が示されている。もっとも、改正前から設けられている営業秘密に関する不正競争に関する規定の解釈については、本指針案の影響が及ぶものではない旨明示されている。また、事業者等が取引等を通じて第三者に提供することを前提としている「限定提供データ」と、企業内で秘匿することを前提としている「営業秘密」とでは、法文における保護の客体・行為主体・対象行為等に類似の文言が使用されている場合であっても、両制度の保護目的が異なることから、それぞれの規定の趣旨に従った解釈がなされるべきである旨も述べられている。
したがって、「営業秘密」と「限定提供データ」それぞれの不正競争にかかる法文上の文言が同一又は類似であったとしても、営業秘密にかかる不正競争における従前の解釈が、限定提供データにかかる不正競争における解釈に必ずしもそのまま妥当するものではないという点に留意する必要があろう。
【図1:「営業秘密」と「限定提供データ」の客体と対象行為の比較(経済産業省「不正競争防止法平成30年改正の概要(限定提供データ、技術的制限手段等)」)】
また、不正競争防止法上の営業秘密該当性の要件である「秘密管理性」のあるものは、「限定提供データ」の定義から除外されるものとして、「営業秘密」と「限定提供データ」それぞれの保護範囲の重複回避が図られている。すなわち、「ビッグデータ」が第三者に不正取得等されてしまった被害企業が、被疑侵害者に対する差止請求等を行っていく場合、秘密管理性要件が必要となる「営業秘密」該当性の主張と、秘密管理性のある情報が定義から除外されている「限定提供データ」該当性の主張は、単純には両立するわけではないものと考えられる。
被害企業側において、不用意に何ら留保なく「限定提供データ」該当性の主張と同時に又は事後的に、「営業秘密」該当性に基づく請求も予備的又は選択的に追及しようとする場合、主張の内容によっては、被疑侵害者側から、『限定提供データ該当性の主張により、「営業秘密」としての秘密管理性はないことが自認されている』等の反論を招くという可能性もあり得る。被害企業側としては、被疑侵害者に対する請求開始前に、本指針案で示されている解釈・具体例を検討のうえ、請求の構成・併合態様等を慎重に検討する必要があろう。
パブリックコメントの結果を踏まえ、経済産業省による最終的な「限定提供データに関する指針」の策定・公表が行われる予定である。
【図2: 限定提供データにかかる不正競争の行為図(本指針案5頁)】
以 上