「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が閣議決定・国会提出
――バーチャルオンリー株主総会の実現の特例、債権譲渡の第三者対抗要件の特例など――
「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が2月5日に閣議決定され、同日、国会(衆議院)に提出された。
経済産業省においては同日、同法案の趣旨・概要とともに「法律案要綱」「法律案・理由」などの詳細を公表した。公表資料によると、法案の提出理由は「新型コロナウイルス感染症の影響、急激な人口の減少等の短期及び中長期の経済社会情勢の変化に適切に対応して、我が国産業の持続的な発展を図るため、情報技術の進展、エネルギーの利用による環境への負荷の低減等に対応する事業変更を行おうとする者についての計画認定制度の創設、経営革新計画の承認制度等の対象事業者に係る要件の見直し、下請中小企業の取引機会を創出する者の認定制度の創設等の措置を講ずる必要がある」とされている。経産省の公表文では法案の趣旨をより分かりやすく「『新たな日常』に向けた取組を先取りし、長期視点に立った企業の変革を後押しするため、ポストコロナにおける成長の源泉となる①「グリーン社会」への転換、②「デジタル化」への対応、③「新たな日常」に向けた事業再構築、④中小企業の足腰強化等を促進するための措置を講じ」ると説明した。
今般の法案では(A)産業競争力強化法(平成25年法律第98号)、(B)中小企業等経営強化法(平成11年法律第18号)、(C)地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律(平成19年法律第40号)、(D)中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成20年法律第33号)、(E)下請中小企業振興法(昭和45年法律第145号)、(F)独立行政法人中小企業基盤整備機構法(平成14年法律第147号)の6法律に加え、ほか11法律の改正が予定される。(B)~(F)の改正では中堅企業への成長、海外で競争できる企業の育成を図るため(1)規模拡大を通じた労働生産性の向上、(2)大企業と中小企業との取引の適正化に向けた措置に加え、(3)中小企業の事業継続力の強化に取り組む中堅企業を金融支援の対象に追加する。
具体的な措置としては(1)により、①中小企業から中堅企業への成長途上にある企業群への支援施策の対象拡大、②中小企業経営資源集約化(M&A)税制、③集約化手続の短縮(所在不明株の買取り)を盛り込んだほか、上記(2)によっては、①下請中小企業振興法の対象取引類型の拡大・明確化を図るとともに、②国が下請中小企業の振興を図るために必要があると認めるときは振興基準に定める事項に関する調査を行うとする規定を新設。また、③「中小企業の強みを活かした取引機会等を創出する」観点から、法人・個人から委託を受けて中小企業者に再委託する「下請中小企業取引機会創出事業者」の認定制度を創設する。
上記(A)の産業競争力強化法の改正における柱は(a)グリーン社会への転換、(b)デジタル化への対応、(c)新たな日常に向けた事業再構築、(d)バーチャルオンリー株主総会の実現のための特例、(e)ベンチャー企業の成長支援、(f)事業再生の円滑化、(g)規制のサンドボックス制度の恒久化の7つ。これらのうち(d)~(g)は、より大きく「『新たな日常』に向けた事業環境の整備」とも括られるもので、この視点からの各措置は(ア)規制改革の推進、(イ)ベンチャー企業の成長支援、(ウ)事業再編の推進、(エ)事業再生の円滑化の一環とそれぞれ位置付けられる。
上記(ア)に整理される具体的な措置が、①バーチャルオンリー株主総会の実現、②規制のサンドボックス制度の恒久化(生産性向上特別特措法(平成30年法律第25号)からの移管)、③債権譲渡における第三者対抗要件の特例(民法等の特例)。①は、今般の改正案により「会社法上、株主総会を招集する場合には『場所』を定めなければならないとされており、バーチャルのみでの株主総会の実施は困難なところ、上場会社が経産大臣および法務大臣による確認を受けた場合は、バーチャルオンリー株主総会を実施できる特例」として措置されるものである。
改正案により、現行の産業競争力強化法における特許料等の減免特例を廃止し、これを定める第3章「第4節 事業活動における知的財産権の活用」を「第4節 場所の定めのない株主総会等の活用」と改める。そのうえで、改正後の産業競争力強化法66条1項において(i)上場会社は、株主総会(種類株主総会を含む)を場所の定めのない株主総会(種類株主総会にあっては、場所の定めのない種類株主総会)とすることが(ii)α:株主の利益に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、β:経済産業省令・法務省令で定めるところにより、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、(iii)株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることができると規定する。
上記③の債権譲渡における第三者対抗要件の特例(民法等の特例)は「民法上、債権譲渡の債務者への通知等については『確定日付のある証書』(内容証明郵便等)でなければ第三者対抗要件を満たさないとされているところ、認定新事業活動実施者が認定新事業活動計画に従って提供する情報システムによる通知等については、第三者対抗要件が具備されているとする特例」を設けるものである(改正後の産業競争力強化法11条の2等)。
なお、上記(イ)の「ベンチャー企業の成長支援」に位置付けられる措置として、①ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度の創設、②国内ファンドによる海外投資拡大のための特例、また同様に(ウ)の「事業再編の推進」として、①事前認定不要の株式対価M&Aの株式譲渡益の課税繰延べ、②株式対価M&Aにおける株式買取請求の適用除外、さらに(エ)の「事業再生の円滑化」として「事業再生ADRから簡易再生手続への移行円滑化」も示されているところであり、改正案に織り込まれた改正項目がきわめて多岐にわたる点に格別の留意が必要である。