大林組、第三者委は「決裁権者を牽制する仕組みづくり」に重点をおく提言
――相次ぐ独禁法違反に経営幹部への牽制欠如を指摘、法務部への忠言も――
いわゆるスーパーゼネコンとして業界を代表する建設・土木大手の大林組は1月31日、2018年9月1日付で設置された第三者委員会による調査結果を「調査報告書(開示版)」として公表するとともに、提言内容に基づく再発防止策をただちに実施していくと表明した。
JR東海発注に係るリニア中央新幹線工事の入札に関する独占禁止法違反事件について社外有識者による発生原因の究明を果たし、実効性のある再発防止策の提言を得るために昨年8月31日、弁護士3名を委員とする第三者委員会の具体的な設置が公表されていたもので、調査報告書では同委員会が9月1日から約4か月にわたって実施した調査の結果を取りまとめている。
本事件をめぐってはスーパーゼネコン5社のうち4社が関与したとされており、大林組は法人として独禁法違反(不当な取引制限)の罪に問われてこれを争わず、東京地裁(鈴木巧裁判長)による昨年10月22日付の有罪判決(求刑どおり罰金2億円)が確定した。
調査報告書による事実認定を通じて本事件の特色として挙げられるのは、次の諸点となる。(ア)「公共工事における談合」に相当する「民間工事における受注調整行為」が問題となった事案であること、(イ)代表取締役副社長執行役員兼土木本部長(土木部門のトップ)の要職にあった経営幹部により実行された犯罪であること、(ウ)過去に相次いだ談合事件を受け「業界内でも最も厳格な部類に属するコンプライアンス体制を構築するに至っ」(調査報告書52頁)ており、本件受注調整の発覚時点においては(a)「企業倫理プログラム」が策定され、これに基づく委員会の設置など様々な取組みが行われている、(b)一環として「独占禁止法遵守プログラム」等の個別分野規定が策定され、個別分野ごとに具体的な施策が講じられている、(c)内部通報制度を整備して職制を通じずに通報できる体制が取られており、また監査役会による「談合等監視プログラム」に基づく監査や内部監査の実施により企業倫理プログラムの実施状況をモニタリングする体制も取られているなどの状況があったにもかかわらず、本件受注調整を防止または早期発見できなかったこと。
調査報告書では、この最大の要因として「従来の独占禁止法遵守プログラムの想定しない態様のものであったことが挙げられる」と指摘(調査報告書73頁)。具体的には、従来の同プログラムが基本的に公共工事における組織的談合の防止に力点がおかれていたこと、経営トップクラスが違反行為に関与することがおよそ想定されていなかったことを指しており、提言された再発防止策の重点も「決裁権者を牽制する仕組みづくり」(調査報告書91頁)におかれている。加えて「各種相談・通報窓口に対する信頼感の不足が原因で、これらの制度が本来期待される機能を果たさなかったこと」も原因の一つと指摘した。
「決裁権者を牽制する仕組みづくり」の具体的な施策は(1)応札可否等の判断プロセスの改善、(2)企業倫理通報制度の実効化、(3)監査項目の改善、(4)「コンプライアンスヒアリング」の改善の4点となる。とくに(1)では「応札可否等の判断プロセスの『見える化』と事後検証」が筆頭に掲げられており、①応札に係る情報を本部長等の決裁権者一個人に集約させるのではなく、一定数のメンバーで構成する会議体で共有する、②会議体には各部門の実務責任者を含める、③会議体で共有された判断の基礎となる情報、判断および判断理由を書面化するといった新しい仕組みの採用を提言。判断プロセスや判断理由が複数人の間でガラス張りになることで相応の抑止力が期待できるとともに、不自然な意思決定がなされた場合には内部監査等による監査対象になるなど事後的な検証が可能となるとした。
提言は「事業部門と法務部との相互理解の促進」(調査報告書96頁)にも及ぶ。法務部が独占禁止法に関する相談窓口を担当するなど再発防止において極めて重要な役割を担っている一方で、役員・従業員に対するアンケート結果からは「敷居が高い」「実際の業務の役に立たない保守的なアドバイスしか得られそうにない」等の理由から、事業部門の営業職・営業支援職(見積部門、施工計画部門)において法務部に相談しようとする意識は低いといわざるをえないとし、法務部が担う重要な機能を十分に発揮させるため、会社には「(土木部門を含む事業部門と法務部との)相互理解に配慮した人員配置等に努めるべき」と求めるとともに、法務部に対しては「本件アンケートの結果を真摯に受け止め、見直すべき点があれば見直しに努めるべき」と指摘している。