改正著作権法による新63条5項の放送同時配信等許諾推定の
解釈・運用でガイドラインが公表
――2022年1月1日施行以後の契約に適用、放送事業者・権利者に求められる条件・留意事項を明示――
文化庁および総務省は8月25日、先の通常国会において5月26日に可決・成立した著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号。以下「改正著作権法」という)による改正後の著作権法63条5項の解釈・運用を巡り「放送同時配信等の許諾の推定規定の解釈・運用に関するガイドライン」を策定したとし、公表した。Ⅰ~Ⅴの5つのパートで構成されており、全体で5ページに収められている。
改正著作権法では(1)図書館関係の権利制限規定の見直し、(2)放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化が図られた。うち(2)の改正項目は2022年1月1日に施行されることから、文化庁著作権課・総務省情報通信作品振興課では新たに設置した「許諾推定規定のガイドラインの策定に関する検討会」において6月7日・同月28日・7月9日と検討。7月9日会合を経て取りまとめられた原案については7月14日から8月3日までの間、意見募集が行われた。
改正後の著作権法63条5項によれば、大要「権利者が、放送同時配信等を業として行っているなどの要件を満たす放送事業者と、放送番組での著作物等の利用を認める契約を行う際に、権利者が別段の意思表示をしていなければ、放送に加え、放送同時配信等の利用も許諾したと推定する」こととなる。本ガイドラインは「放送同時配信等の権利処理の円滑化に当たっては、視聴者・放送事業者・クリエイターを含む権利者の全てにとって利益となることが重要である」との観点から、「規定の運用に当たって、権利者側の懸念を払拭しつつ、放送事業者が著作物等を安定的に利用することを可能とし、視聴者の利便性に資するよう、法第63条第5項についての解釈・運用の指針を示すこと」(本ガイドライン「Ⅰ.ガイドラインの趣旨・目的」参照)を目的として策定された。なお、放送同時配信等(改正後の著作権法2条1項9号の7)とは(ア)同時配信、(イ)追っかけ配信、(ウ)一定期間の見逃し配信をいい、これらに限られる(上記「Ⅰ」脚注1参照)。
本ガイドライン「Ⅱ.放送同時配信等の許諾に当たっての基本的事項」では「放送同時配信等での利用に当たっても、その旨を明示して許諾の交渉を行うことが原則である」ことを第1項に明記。また「放送までの時間が限られており、放送番組での著作物等の利用の契約に際して、やむを得ず放送同時配信等についての具体的な契約を交わすことができないような場合」「放送同時配信等の可否を明示的に確認できないような場合」などの事情がない場合には「放送事業者は、原則に立ち返って、放送同時配信等で用いることを明示して契約を締結する必要がある」とし、さらに「上記のような事情がある場合でも、可能な限り、利用範囲を明示して許諾の交渉を行うことが望まれる」とする。
そのうえで「Ⅱ」では、放送事業者における契約の確認・締結し直しの対応、放送事業者・権利者による対価の話合い、権利者が「別段の意思表示」を適切に行う必要性などに言及。これを踏まえ、本ガイドライン「Ⅲ.許諾の推定に係る条件等について」においては、より具体的に「1.放送事業者側に求められる条件・留意事項」「2.権利者側の別段の意思表示の在り方」を規定していく。
上記「1.放送事業者側に求められる条件・留意事項」によると、新63条5項の適用に当たって求められる条件・留意事項とし、次の3点がまず掲げられる(本ガイドラインより抜粋。ほか、番組制作会社が権利者と契約を行う場合、許諾交渉に当たっての留意点、事後的なトラブルを回避する観点から望ましい方法など重要な指針が続いて示されるかたちとなっており、関係者におかれては是非一読されたい。以下「2.権利者側の別段の意思表示の在り方」などについて同様)。
- ① 放送同時配信等を業として行っていること又は放送同時配信等事業者が業として行う放送同時配信等のために放送番組を供給していること。[法令上のルール]
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② ①の事実を権利者が把握することができるよう、放送事業者自らのホームページにおいて放送同時配信等を行っている放送番組の名称、時間帯や期間、配信プラットフォーム(ウェブサイトやアプリケーション)を公表していること。
放送事業者が放送同時配信等事業者を通じて放送同時配信等を行っている場合には、放送同時配信等事業者のホームページにおいてこれらの情報を掲載し、かつ、当該ホームページのリンク又はURLを、放送同時配信等の実施状況に関するものであることを明示して放送事業者のホームページ上に掲載し、公表することも可能であること。[法令上のルール] - ③ 利用の許諾の際に放送のみを行う(放送同時配信等を実施しない)旨を明示していないこと。なお、単に放送を行う旨を伝えただけでは、放送のみを行う(放送同時配信等を実施しない)旨を明示したことに当たらないこと。[解釈上のルール]
また、上記「2.権利者側の別段の意思表示の在り方」によれば、権利者が「放送同時配信等を明確に拒否する意思」や「条件面に関する意思」等を有しているときは、事後的なトラブルを回避する観点から、あらかじめ「別段の意思表示」を適切に行う必要があるとされており、この場合に求められる条件・留意事項は次の3点である。
- ① 「別段の意思表示」は許諾時に行うこと。[法令上のルール]
- ② 書面で契約を行う場合、「別段の意思表示」も書面で行うこと。仮に、書面によらない契約を行う場合でも、事後的なトラブルを回避する観点から「別段の意思表示」の内容を明確に記録に残したうえで当事者で共有することが望ましいこと。[運用上のルール]
- ③ 「別段の意思表示」は、放送同時配信等を拒否する旨の意思表示のほか、放送同時配信等を行うに当たっての条件等を伝える意思表示が含まれること。[解釈上のルール]
本ガイドライン「Ⅳ.許諾をしていないと証明し得る場合の対応について」では、その第2項において(a)権利者側が許諾をしていないと証明し得る場合で「放送同時配信等の差止めを行う」ためには、放送同時配信等が終了する前に主張する必要があること、(b)「放送同時配信等の終了後、当事者間の協議等の結果、許諾があったとは認められないことが確定した場合」には、適切な額による金銭的な解決を基本とすることが想定されることを述べている。
最終パートとなる「Ⅴ.その他(留意事項)」では、新63条5項が改正法の施行日である2022年1月1日以後の契約について適用されるとしたうえで、まず(ⅰ)施行日以前の契約に基づく著作物等の利用については本規定に基づく推定の効力は及ばないことを示した。一方で(ⅱ)過去に放送(リピート放送を含む)やオンデマンド配信の許諾を包括的に得ていた場合などにあっては、その契約解釈として、リピート放送の放送同時配信等を許諾したと認められることも有り得るとしている。「Ⅴ」の最終項においては、許諾の推定規定や本ガイドラインの周知について、文化庁・総務省だけでなく、放送事業者・権利者においても積極的に努めるべき必要性を指摘した。