◇SH1387◇弁護士の就職と転職Q&A Q15「司法試験の合格順位の低さは取り戻し可能なのか?」 西田 章(2017/09/11)

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弁護士の就職と転職Q&A

Q15「司法試験の合格順位の低さは取り戻し可能なのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 司法試験の合格発表がなされると、合格者は、とりあえず、法曹としてのキャリア養成の「次のステージ」に進むことが認められて、ホッと息をつくことができます。しかし、合格発表後の就職活動においては、「順位」によって自己を値踏みされてしまうという場面も待ち受けています。そこで、今回は、司法試験の合格順位が、その後のキャリアに与える影響を整理してみたいと思います。

 

1 問題の所在

 旧司法試験時代は、「司法試験は合格すれば修習生はみな平等」の思想が支配的でした。そもそも合格順位は、本人にも開示されていなかったので、司法試験の合格順位を気にしているのは任官希望者だけでした(司法試験の結果がよいと裁判官に勧誘されやすいためですが、実際には、裁判官としてのキャリアにとっては、司法試験ではなく、二回試験の結果が重要であると言われています)。

 弁護士のキャリアにとっては、「年配者は、修行に長い年月を要する渉外は向かない」とか「若年で独立しても客の信頼を得られない」という傾向はありましたが、合格順位で、弁護士としての優劣を見極めようという発想はありませんでした。

 司法制度改革を経て、就活で「順位」が注目を集めるようになったのは、採用側から「合格人数が増えて、合格者の質が下がったのではないか?」という懸念を抱かれるようになったことも影響しているのかもしれませんが、それ以上に大きいのが、就活の仕組みが「縁故」から「公募」に切り替わってきた手続面です。人気のある法律事務所が「公募」で100人以上の申込みを得た場合に、面接に呼ばれるだけでも、倍率10倍以上の書類選考を通過しなければなりません。書類選考の足切りで、もっとも効率的で形式的に平等な選考基準は、合格順位です。そのため、合格順位の低い者の中に「どこの法律事務所を受けても、いつも書類選考で落ちてしまう」という無限ループに陥る人が出て来てしまいます。その無限ループを解消する術はあるのでしょうか。

 

2 対応指針

 司法試験の高成績が弁護士としての優秀さを担保するものではありません(実際、通常の訴訟業務は「事実認定」が中心であり、法解釈ではありません)。司法試験の順位が重視されるのは、就活(第二新卒を含む)までであり、それ以降は、「弁護士としての経験」が最重視されます(クライアントが顧問弁護士を選ぶのに「合格順位」を尋ねることもありません)。

 就活において「書類選考落ちの無限ループ」に陥ってしまうのは、「合格順位で劣後するだけでなく、それ以外にも『面接に呼んで会ってみたい』と思わせる材料が何も見当たらない」からです。司法試験の合格順位が低い者は、「合格順位は低くても、こういう経験・能力・人脈があります」という点を自ら主張立証する責任を負っていると考えるべきです。または、「自分よりも合格順位が高い人が応募していない先で、良い経験が積める職場はどこか?」というポジショニングに頭を使うべきです。

 

3 解説

(1) 「合格順位」と「弁護士としての資質」

 司法試験の合格順位は、合格発表後の法律事務所への就活のエントリーシートでは、ほぼ毎回記入させられることになりますし、第二新卒の採用(弁護士登録3年以内程度)でも尋ねられることが多いです。そのため、「合格順位を隠したままで法律事務所に就活する」という方法を模索するのは賢い選択ではありません。

 ただ、弁護士になった後で、訴訟や交渉等の場で「合格順位」が仕事に影響することはまったくありません。クライアントは「弁護士としての案件の経験」を重視するだけです(弁護士の中には、稀に、自らの司法試験の高順位をアピールする人も存在しますが、クライアントからは「自信家なんだな」として理解されるだけです)。「よい弁護士になれるかどうか?」は、どのような経験を積めるか(どういう案件に携われるか、その中でどれだけ主導的な役割を果たすことができるか)に依存します。転職活動においても、シニア・アソシエイト以降の採用選考では(もはや合格順位ではなく)「職務経歴書」が重視されるようになります。

 そのため、「どうすれば、良い経験を積める職場(修行の場)に潜り込むことができるか?」が就活の最大の目標になります。

(2) 「書類選考落ち」を回避する工夫

 普通の法律事務所は、人事専従のスタッフを抱えていません。基本的に、採用選考は、弁護士が「本業(弁護士業務)の片手間」に担当せざるを得ません。そのため、本音では「応募者全員に会ってあげたい」と思っても「20人、30人もの応募者と面接している時間的余裕はない」という現実的制約が存在します。そのため、「応募者が多い人気事務所ほど、書類選考の倍率が高い」という傾向があります。そして、採用担当者が「応募者を平等に審査しなければならない」と考えれば、書類選考の足切りの指標に「合格順位」を用いるのは、ある意味では、もっとも公平で効率的な手法となります。

 そのため、司法試験の合格順位が低い応募者は、デフォルト設定として「他に何も見るべき要素がなければ、書類落ちする」ことが確定します。ここで応募者としては「では、どうすれば面接に呼んでもらえるか?」「成績以外に会ってみたいと思わせる要素を提示できないか?」「書類で落とすわけにはいかないと思わせるような『ご縁』を感じさせられないか?」に創意工夫を凝らさなければなりません(応募先の事務所(及び所属弁護士)について、できる限りの情報を集めて、地縁・血縁まで駆使してエントリーシートに盛り込める材料を探すことになります)。すでに何度も落ちている履歴書を、別の事務所にも使い回しているだけでは、「無限ループ」から逃れることはできません(挙句の果てに、問題のある事務所の採用に引っかかって入所してしまうこともあります)。

(3) ポジショニング

 最近の傾向として、「企業法務に興味がある」「しかし、企業法務系の事務所に採用されるほどは成績がよくない」という合格者に、企業への就活も広がっています(司法試験合格者を対象としないポストへの応募も含めて)。確かに、法律事務所と企業では、採用選考の基準も手続も異なります。特に、企業では、「司法試験は合格していれば十分であり、順位は問わない」「むしろ、語学力(TOEIC、TOEFL等)が高いほうが望ましい」とみなす傾向があります。そのため、法律事務所の採用選考では書類落ちでも、企業で高く評価されることがあるだけでなく、その逆もまたあります(つまり、法律事務所が「上」で、企業が「下」というわけではありません。求める人物像が異なっています)。

 法科大学院卒業生の中には「自分は弁護士になりたくて大学院に進学したのであり、企業に入るならば、学部卒で就職していた」と語る人もいます。ただ、将来的に企業から法律事務所に転職・出向できる可能性もあります。「過去に自分が頭の中に思い描いていた弁護士像」を一旦は忘れて、「もし自分がこの企業に入れてもらえたならば、どういう貢献ができるだろうか?」という方向に想像力を働かせてみることも、就活での足踏み状態から抜け出すための頭の使い方としては有益です(就活時に「将来の法律事務所への転職目的」を隠して仮面浪人的に企業に就職した人の中には、計画通りに法律事務所に転職した事例もありますが、結果的に企業内でのキャリアに適性を見出してビジネスパーソンとしてのスキルアップを目指して働き続けている事例も存在します)。

以上

 

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