Legal Operationsの実践
――連載開始にあたって――
CLOC Japan
鈴 木 卓
門 永 真 紀
2022年5月9日から12日にかけて、CLOC(Corporate Legal Operations Consortium)のGlobal Institute 2022(以下「CGI」「CGI 2022」などと表現する。)が開催された。CLOCは、2022年3月末時点で、57か国にわたり、4,238名の会員を有する世界一のLegal Operationsの業界団体であるが、コロナ禍の影響で2020年および2021年は完全バーチャルでの開催となったため、実に3年ぶりの対面でのイベントであった。そのためもあってか、2,500名を超える参加者が一堂に会し、大変な盛り上がりを見せていた。
CLOC代表であるMike Haven氏(インテル)によるオープニングスピーチの様子
CLOCとしての今年のテーマは「Story Telling」(相手に伝えたいことを具体的なエピソードを伴う「ストーリー」を使って説明すること。Legal Operationsの文脈では、社内の関係者の理解を得るために、Story Tellingのスキルも重要である。)であり、また、昨今のESG重視の流れからダイバーシティのセッションも数多く見られた。もっとも、数の上で一番多かったのはCLM(Contract Lifecycle Management(契約ライフサイクル全体のデジタル化))をテーマとしたセッションであった。米国では既にCLMは「Nice to Have」から「Must Have」に変わってきていることを端的に示すものであったと感じる。
CLMを提供するIroncladによる「Recipe for Success」と題するセッションの様子
CGI内で開催されていた展示会も盛況を博しており、200を超える応募の中から選定された71のベンダーや法律事務所が展示スペースを設けていた。米国においては、CGIは、LegalTechのベンダー等にとって、重要な商機の一つとなっていることの表れであると感じる(CGI 2022のウェブサイト参照。)。
このように、米国を中心として、海外では、特にここ数年、Legal Operationsの議論が盛り上がって来ており、実務的な知見も多く蓄積されて来ている。
日本でも、2021年4月、NBL1191号に巻頭言「日本版リーガルオペレーションズのすゝめ」および「日本版リーガルオペレーションズの八つのコア」が掲載され、また、同年12月13日には商事法務主催で開催された「日本版Legal Operations Core 8 Event」が100名を超える参加者を得ており、徐々にLegal Operationsの議論がなされるようになって来ている。最近では、Legal Operationsをテーマにした(あるいは、一つのトピックとした)セミナーやイベントもまま見られるようになった。
筆者らは、2021年8月にCLOC Japanを組成し、現在まで1年ほど、CLOCの枠組みを活用しながら、日本におけるLegal Operationsを議論して来た(もっとも、本連載は、CLOC Japanのメンバーを中心としつつも、多様な視点からの議論がなされるよう、多様なバックグラウンドの方に筆をお執りいただく予定である。)。Legal Operationsは、必要に迫られて実務から生まれた分野であり、理論より実務における実践が重要である。そのため、本連載では、Legal Operationsの理論的な部分を紹介しつつも、各筆者が現場で実践しているところを支障のない範囲でできるだけ具体的に紹介し、読者諸氏の実際の実務で参考にしていただけるものとすることを目指したいと考えている。日本におけるLegal Operationsの議論は緒に就いたばかりであり、今後トライ&エラーを繰り返しながら徐々に改善していくことが想定される。本連載が、法務の現場でLegal Operationsを見直すきっかけとなったり、日本におけるLegal Operationsの議論が深掘りされることにつながるとすれば、望外の喜びである。ぜひとも、本連載を、読者諸氏とともに日本のLegal Operationsを考えるきっかけとできればと考えている。
本連載で議論する項目は今のところ以下の予定である。
No. | タイトル |
1 | Legal Operationsとは何か |
2 | Legal Operationsのコア |
3 | Business Intelligence |
4 | Financial Management |
5 | Firm and Vendor Management |
6 | Information Governance |
7 | Knowledge Management |
8 | Organization Optimization and Health |
9 | Practice Operations |
10 | Project / Program Management |
11 | Service Delivery Models |
12 | Strategic Planning |
13 | Technology |
14 | Training and Development |
15 | Legal Operationsに期待すること――法務責任者の視点から |
16 | Legal Risk ManagementとLegal Operationsの交錯 |
17 | LegalTechの導入――成功するプロジェクトの進め方 |
18 | 法務サービス提供モデルの変容――ALSPは日本にもやって来るのか? |
19 | Digital Contracting――契約プロセスの標準化 |
20 | Digital Contracting――契約データの活用 |
21 | Knowledge Management Advance |
22 | 企業の法務部門と法律事務所の関係-Vendor Managementを越えて |
23 | 最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(上) |
24 | 最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(下) |
(すずき・たかし)
2004年に慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。
(かどなが・まき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業弁護士。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2020年1月Chief Knowledge Officer就任、2022年1月パートナー就任。
外資系メーカー、大手総合商社など複数の出向経験を有し、2017年よりナレッジ・マネジメントを専門として、主に所内のナレッジ・マネジメント業務に従事する他、所外向けにもナレッジ・マネジメントに関するセミナーを多数行っている。最近の著書・論文として「ナレッジ・マネジメントとその仕組みづくり」ビジネス法務2022年6月号、『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』(商事法務、2020)他。