SH4335 ベトナム:不動産事業法改正草案(上)――外資企業にはより高い障壁か? 井上皓子(2023/03/01)

不動産法

ベトナム:不動産事業法改正草案(上)
――外資企業にはより高い障壁か?――

 

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

はじめに

 10月31日、不動産事業法改正草案(以下「改正草案」という。)が公表され、現在パブリックコメントが募集されている。順調にいけば、来年10月の国会を経て、2024年1月の施行が予定されている。

 不動産事業法は、建物・住宅等の不動産の取引に関する事業と、関連するサービスに関する事業について規制する法律である。ベトナムにおいては、日本と同様に、土地と建物は別個の資産として独立に取引の対象となる(ただし、土地は全て国有財産であり私人による所有は認められないため、土地使用権が取引対象となる)。土地使用権の取引が、その取得形態が国からの賃借・割当のいずれであっても厳格に制限されていることに比べれば、建物については、外資企業による所有・取引について比較的門戸は開かれている。ただ、依然として、外資企業が不動産事業を行おうとする場合には、一定の分野の事業しか認められないという外資規制や、事業にあたり最低資本金(200億ベトナムドン(約1億円))が要求される等の条件があり、不動産事業は、外資企業にとって参入するハードルが高い分野であった。一方で、経済発展を続けるベトナムでの不動産取引の需要は高く、外資企業としても、関連サービスを含む市場参入についての注目度は高い。

 そのような状況での改正草案の公開であり、どのような内容が規定されるのか、注目が集まっていた。なお、ベトナムでは、概ね10年を目処に法律の見直しが行われることが多く、現行不動産事業法(以下「現行法」という。)は、2015年7月1日に施行されていることから、定期的な見直しの一環と考えられ、特段大きな社会問題等を背景とした法改正ではない。

 もっとも、現行法は、昨年、新投資法の制定にあわせ、不動産事業会社の最低資本金制度が廃止される等、大きな改正が行われたばかりであった。また、この改正を受け、本年3月1日に政令02/2022/ND-CP号(以下「政令02号」という。)が施行され、不動産事業の実施にあたり新たな情報開示規制が求められた。これらの法令はまだ施行されたばかりであり、改正草案にもその内容が受け継がれている。

 改正草案は、現行法より17条多い全99条から成り改正内容も多岐に渡るが、以下、特に外資企業に影響があると思われる点について解説する。

1 不動産事業法の対象・範囲等

 ⑴ 対象不動産

 ベトナムでは、この数年、コンドテル(コンドミニアム+ホテルを合わせた造語)と呼ばれる、ホテル運営を目的としたコンドミニアムの建設・投資(コンドミニアムとして建設された建物を購入し、ホテル運営会社にホテルとしての運営を委託して賃料を得る)が活発化していた。

 しかし、コンドテルは、現行の不動産事業法・住宅法等に規定がなく、土地使用権や土地使用目的、適用される規制等が不明確な状態にあった。また、法令上根拠がないことから、物件所有者に対する権利証明書(レッドブック)も発行されず、取引が不安定になるおそれがあった。2020年に、土地を所轄する天然資源環境省が、コンドテル開発用地の土地使用目的を商業サービス用とし、土地使用権は最大50年(一部の経済開発が遅れている地方については70年)とすることを明記し、レッドブックの発行も可能とするガイドラインを発出したが、なお法令上の根拠はなかった。改正草案では、コンドテルを不動産事業法の対象とすることが明記され、法令上明確に位置付けられることとなり、適用される規制内容が明確になっている。

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(いのうえ・あきこ)

2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018~2020年、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。日本における人事労務対応、紛争・不祥事対応、ベトナムにおける日本企業の事業進出・人事労務問題等への法的アドバイス、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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