◇SH1791◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(65)―中小企業・ベンチャー企業のコンプライアンス⑧ 岩倉秀雄(2018/04/24)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(65)

―中小企業・ベンチャー企業のコンプライアンス⑧―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、コンプライアンス体制について述べた。

 大企業の課題は、いかにして組織の隅々までコンプライアンスを浸透させるかである。

 一般に、大企業は、全社的なコンプライアンス推進組織を本社に、部署ごとのコンプライアンス推進体制を現場に構築する。

 重要なことは、コンプライアンス部門が、現場と密接な情報交換を行い、質の高い信頼される情報をタイムリーかつ計画的に提供することや、一定程度仕組みができても、経営者がコンプライアンス部門の戦力削減を図らないことである。

 中小企業・ベンチャー企業の場合には、経営トップが強力にコミットして外部の専門家を活用して、一気に体制を構築することが考えられる。

 また、コンプライアンス強化週間・月間を設けて、トップが様々なメッセージを発信するとともに自組織のコンプライアンス課題に集中的に取り組むことが、従業員の意識を喚起するために役に立つ。

 今回は、コンプライアンス担当部門(者)の専門能力の育成と研修について考察する。

 

【中小企業・ベンチャー企業のコンプライアンス⑧:専門能力の育成と研修】

 コンプライアンスを組織に浸透・定着させるためには、まず、コンプライアンス担当者が他部門から信頼される専門能力を身につける必要がある。

 また、コンプライアンス研修は、大企業にとっても中小企業・ベンチャー企業にとっても極めて重要な活動である。

 

3. コンプライアンス担当者の専門能力の育成

(1) 大企業

 大企業の場合には、人的・資金的余裕があることから、コンプライアンスに関する団体に企業として加入し、複数の担当者が手分けをして様々な研究会に出席し学習するほか、外部コンサルタント会社・専門機関等の有料の研修に参加し専門能力を向上させる機会が得られやすい。

 場合によっては、コンプライアンスや経営倫理に関する学会に参加し、より高度な研究をすることも考えられる。

 

(2) 中小企業・ベンチャー企業

 一方、中小企業・ベンチャー企業の場合には、時間的・資金的余裕が大企業に比べて少ないので、日常の業務遂行の中で業務経験を通して能力を高める努力が必要である。

 たとえば、顧問弁護士など法の専門家の協力により自社向けのテキストを作成することにより自らも学び専門性を身につけることや、公的機関や団体の主催する無料または安価な研修会・講習会に参加する、書籍等により学習する、通信教育を受ける、業界の勉強会に参加する等が考えられる。

 なお、大企業の担当者にとっても中小企業の担当者にとっても、学習したことを組織内にフィードバックすることが、自らの理解を助け、生きた知識として身に付ける上で役立つ。

 また、コンプライアンスに関するいくつかの資格試験があるので、これにチャレンジすることを一つの目標にしても良い。資格取得が一定レベルの能力を有する証明になり、本人の自信や他部門からの信頼獲得につながる。

 

4. 研修の進め方

 人間は関心のないことは忘れやすい。

 コンプライアンス研修は楽しいエンターテインメントではないので、忘れられやすいかもしれないが、嫌がられても飽きられても、くどいくらいに何度も実施する必要がある。

 ただし、マンネリ化を防ぐために、グループディスカッション等の参加型研修、Q&Aによる双方向研修、ソクラテス・メソッドによる質問を軸とした研修、市販のコンプライアンス教育用VTRの活用等、やり方を工夫する必要がある。

 また、研修終了後のアンケート調査は、受講者の反応や興味を把握し次回に向けて研修内容の改善を図る上で有効である。

 研修参加者名簿の作成は、後で不参加者をフォローする場合や、組織がコンプライアンスを重視している姿勢を、従業員に認識させる上で効果がある。

 (1) 大企業

 一般に、大企業で実施される研修の類型は、経営トップや幹部社員を対象とした社外の有識者(顧問弁護士や学者、コンサルタント等)による研修、現場のコンプライアンス責任者やリーダーを対象とした業務に関連する具体的な研修、一般職を対象にした具体的で解りやすい研修、人事部門の主催する階層別研修でのコンプライアンスアワーの確保、子会社を対象とした子会社の実体を踏まえた研修、各部署の要請を受けて実施する研修、問題発生部署のリスク削減を目的とした集中的な研修等がある。

 方法としては、コンプライアンス部門が現場に行って実施する場合(筆者はコンプライアンス部門が現場の実態を把握し隠れたリスクを把握するのに役立つのでこれを勧める)や、本社や研修所における集合研修、Eラーニングを活用した全社的な研修、研修資料を配布して現場のコンプライアンス組織単位でコンプライアンスリーダーが中心になって行う部署ごとの研修等、企業の置かれた状況により、様々なパターンが考えられる。

(2) 中小企業・ベンチャー企業

 中小企業では、グループ会社の場合には、社長以下幹部社員を対象とした親会社のコンプライアンス部門による研修や、日常業務で取引関係のある社外の専門家を活用した企業独自の研修、地域の警察、消防、保健所等の協力を得て行う安全や衛生等に関連する研修、地域の商工会議所等、所属する団体や業界の専門家に依頼して行う研修等が考えられる。

 

 次回は、行動規範や従業員相談窓口について考察する。

 

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