◇SH0998◇インド:カルテルに関し、リーニエンシーによる課徴金の減額が認められた初のケース 山本 匡(2017/02/03)

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インド:カルテルに関し、リーニエンシーによる課徴金の減額が
認められた初のケース

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 山 本   匡

 

 日本の独占禁止法を含め、世界主要各国の競争法においてリーニエンシー制度が定められているのと同様、インド競争法(Competition Act, 2002)においても同制度が定められている。すなわち、競争法違反行為が行われているという疎明がある場合、インド競争委員会(Competition Commission of India)はその事務局長(Director General)に調査を命じるが、事務局長が同委員会に調査報告を行う前に、カルテルの当事者が完全かつ真実の違反事実を申告し、当該申告が極めて重要なものである場合、所定の要件を充足すれば、同競争委員会は、申告のタイミングや申告された情報の内容等を考慮した上で、裁量により、課徴金を減免することができる。減免は、最初の申告者につき最大で全額を免除、2番目の申告者につき最大で50%減額、3番目の申告者につき最大で30%減額とされている。

 2009年にカルテルを含む反競争的協定に関するインド競争法の条文が施行された後、インド競争委員会によりリーニエンシーが認められて課徴金が減免されたケースは存在しなかったところ、2017年1月19日に同委員会が公表した命令において、初のリーニエンシーによる課徴金の減額が認められた(In Re: Cartelization in respect of tenders floated by Indian Railways for supply of Brushless DC Fans and other electrical items, Suo Moto Case No. 03 of 2014)。

 事案の概要は、Indian Railways及びBharat Earth Movers Limitedが行った電気機器の入札において、M/s Pyramid Electronics(Pyramid社)、M/s R. Kanwar Electricals(Kanwar社)及びM/s Western Electric and Trading Company(Western社)の3社がカルテルを行ったというものであり、他の汚職事件の捜査を行っていた中央捜査局(Central Bureau of Investigation)(日本における地検特捜部のような部局)からの情報により、インド競争委員会が職権により調査を命じていたというものである。上記3社のうち、Pyramid社が、事務局長が調査報告をインド競争委員会に行う前にカルテルについて申告し、リーニエンシーの申立てを行った。

 インド競争委員会は調査の結果、カルテルがあったと判断し、各当事者に対して課徴金を課した。すなわち、インド競争法上、カルテルの場合、当該カルテルが継続していた各年の利益の3倍又は当該カルテルが継続していた各年の売上高の10%のいずれか高い方を上限として、同委員会は課徴金を課すことができるところ、3社に対する課徴金を以下と算定した。

当事者 課徴金額
(ルピー*
算定基準 リーニエンシー
Pyramid社 6,236,634 2012~13年度**の純利益の100% 75%減額
Kanwar社 2,001,012 2012~13年度**の売上高の3% N/A
Western社 20,914,961 2012~13年度**の純利益の100% N/A

*   :2017年1月現在、1ルピー=約1.7円
** :カルテルが行われた期間

 

 インド競争委員会は、Pyramid社についてはリーニエンシーを認め、課徴金を75%減額し、1,559,159ルピーの課徴金納付命令を行った。

 インド競争法上のリーニエンシーに基づく課徴金減免は、日本の独占禁止法上のそれと異なり、インド競争委員会がその裁量により課徴金を減免することができるとされている。同委員会は、Pyramid社について、課徴金の全額免除ではなく75%の限度で減額を認めたところ、以下のような要素を考慮した上で減額を決定したようである。

  1.  •  同社が、カルテルの存在を認めた最初かつ唯一の当事者であり、これを裏付ける情報を提出したこと。
  2.  •  同社が提出した証拠が、中央捜査局が提供した証拠を補強し、カルテルの手口を明らかにする上で重大な役割を果たしたこと。
  3.  •  同社の提出した証拠やその協力が、カルテルの存在を確定する上で、同委員会の調査を強化したこと。
  4.  •  同社の提出した証拠等により、同委員会が有する証拠の裏付けができ、一連の出来事の関連を確立することができたこと。
  5.  •  同社が申告を行った時点で同委員会は既に中央捜査局から証拠(e-mail)の提出を受けており、これにより、カルテルが存在するとの一応の心証を抱いていたこと。
  6.  •  同社は最初に申告したものの、申告は調査の端緒の段階において行われたものではなく、後の段階になって行われており、その段階で同委員会は既に証拠を有していたこと。

 なお、本件においては、カルテルに関与した個人に対しても、直近3事業年度の平均収入の10%の課徴金が課されているが、カルテルを自供し、調査に協力したPyramid社(組合)のパートナーについては、同社と同様、課徴金が75%減額されている。

 インド競争委員会は、カルテルの摘発を積極的に行っており、また、セメント・カルテルに関して2012年に出された課徴金納付命令に見られるように、課徴金額は巨額化している。本件は、初のリーニエンシーにより課徴金の減額が認められたケースとして重要な意義を有する。特に、同委員会がどのような要素を考慮して課徴金の免除又は減額を決定するかについて示唆されている点は注目に値する。

 

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