◇SH1862◇障害者雇用における差別禁止をめぐり注目判決相次ぐ 野村茂樹(2018/05/25)

未分類

障害者雇用における差別禁止をめぐり注目判決相次ぐ

  1. ① 学校法人がした視覚障害のある准教授に学科事務のみを担当させる旨の職務変更命令が無効とされた事例
  2. ② 高知県がした公共職業訓練の選考試験における不合格処分が発達障害を理由とする直接差別にあたり違法とされた事例

奧野総合法律事務所・外国法共同事業

弁護士 野村 茂樹

 

1 障害を理由とする差別の禁止

 平成28年4月1日から、改正「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「雇用促進法」という)および「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「差別解消法」という)(雇用、労働以外の分野に適用)が施行され、事業主(民間事業者)は、障害を理由とする不当な差別的取扱いが禁止され、障害の特性に応じた合理的配慮提供が義務づけられる(差別解消法では努力義務)に至っている。

 後述する本件職務変更命令や本件不合格処分は、上記法律施行前になされたものであるが、広島高裁平成30年3月29日判決(判決①)は採用後の待遇における、高知地裁平成30年4月10日判決(判決②)は採用における、障害を理由とする差別の認定について参考となるので、以下紹介する。

 

2 判決①(岡山短大事件)

 原告山口雪子は、平成11年、岡山短期大学を設置運営する学校法人である被告との間で大学教員契約を締結し、平成19年から幼児教育学科の専任准教授として授業・研究を行ってきた。その後、原告は、網膜色素変性症が進行し文字の判読が困難となってきたので、視覚補助のための補佐員を私費で付けて授業・研究活動をしてきた。ただし、補佐は自制的であった。

 しかるところ被告は、平成28年2月5日、原告に対し、授業を割り当てず、学科事務のみを担当させる旨の職務変更を命じた(以下「本件職務変更命令」という)。被告は、その理由の中で、原告が授業中における飲食、無断退出等の学生の問題行動を放置していたことも挙げていた。更に、被告は、同年2月22日、原告に対し、研究室を明け渡してキャリア支援室を使用するよう命じた(以下「本件研究室変更命令」という)。

 原告は本件職務変更命令等の無効確認や不法行為に基づく慰謝料請求等を求めて提訴(訴状:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/20160322_sojyou.pdf)。

 第一審判決(岡山地裁平成29年3月28日判決)は「被告が本件職務変更命令の必要性として指摘する点は、あったとしても」「補佐員による視覚補助により解決可能なものと考えられ、本件職務変更命令の必要性としては十分とはいえず、」本件職務変更命令は、「原告に著しい不利益を与えるもので、客観的に合理的と認められる理由を欠くといわざるを得ない」として、権利濫用であり無効と判示し、慰謝料請求も認めた(判決文:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/20170328_hanketsu.pdf)。被告控訴、原告附帯控訴。

 本判決①(判決文:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/20180329_hanketsu.pdf)は、本件職務変更命令は職務の内容を変更するものであり、本件研究室変更命令は本件職務変更命令を前提として勤務場所の変更を命じるものであるから、これらは全体として配転命令の性質を有するものとした上で、「実質的には、被控訴人を全ての担当職務から外し、研究室としては不適当なキャリア支援室での就業を命じるものであって、」配転命令である本件職務変更命令および本件研究室変更命令は、「業務上の必要性を欠いており、かつ、労働者に対する処遇としても合理性を欠くものであって、被控訴人に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える精神的苦痛を負わせるものであると認められるから」権利濫用に当たり、いずれも無効と結論づけ、実質的に第一審判決の内容を維持した。控訴人上告。

  1. ※ 本件の訴訟提起ならびに第一審判決についての筆者による解説は下記。
  2.   学校法人から学科事務への配転を命じられた視覚障害のある准教授が配転命令の無効確認等を求めて提訴
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=1304881
  3.   学校法人がした視覚障害のある准教授に学科事務のみを担当させる旨の職務変更命令が無効とされた事例
    https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=3503524

 

3  判決 ②

 広汎性発達障害を有する原告が、国が設置する公共職業安定所を通じ、被告高知県が国から委託を受けて実施する職業能力開発促進法4条2項に基づく離職者職業訓練(本件では介護職)の受講を申し込み、その受講のための選考を受験(筆記・面接)したところ、被告県が原告に対して平成26年5月1日、不合格とする処分をした。

 原告は不合格処分は発達障害を理由とする差別で違法であるとして、慰謝料請求(国賠法1条1項)等を求めて提訴。

 本判決②(判決文:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/20180410_hanketsu.pdf)は、下記ⅰ~ⅴの間接事実を認定し、本件不合格は原告の発達障害を理由とした直接差別であり、国家賠償法上違法であるとして、慰謝料等の支払を命じた。被告県控訴。

  ⅰ 原告は発達障害を有する障害者であること、ⅱ 原告は本件職業訓練に応募して本件選考に臨んだこと、ⅲ 原告がその受講に必要な資格要件を満たしていたこと、ⅳ 原告は、本件職業訓練について不合格とされたこと、ⅴ 本件職業訓練の定員は15名であったところ、申込者は14名であり、受講者枠が空いていたこと。

 

4 解説

 (1) 雇用促進法や差別解消法は障害を理由とする差別(不当な差別的取扱い、合理的配慮の不提供)があった場合の効果規定を置いていないが、差別が認定された場合、権利濫用法理が適用されたり、不法行為法上の違法性が基礎付けられたりすることになる。

 (2) 雇用促進法においては、募集および採用の場面と採用後の待遇の場面に分けて、不当な差別的取扱いの禁止規定(法34条、35条)および合理的配慮の提供義務規定(法36条の2、36条の3)を置いている。また、その具体的な内容については、厚生労働大臣が定める障害者差別禁止指針・合理的配慮指針で示されている(両指針を含む関係法令・資料:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html)。

 採用や職種の変更における不当な差別的取扱いについて、障害者差別禁止指針2項(2)、8項(2)イは、障害者であることを理由として、「その対象から障害者を排除すること」を挙げている。同指針14項ロでは、「合理的配慮を提供し、労働能力等を適正に評価した結果として障害者でない者と異なる取扱いをすること」は、不当な差別的取扱いに当たらないとしている。つまり、事業主が障害の特性に配慮した合理的配慮提供を前提とする労働能力等の適正評価をしないまま、発達障害者を不採用とすることや授業を行う職種から視覚障害者を排除することは、不当な差別的取扱いにあたることになる。

 (3) 判決②が認定した間接事実のうち、前述3ⅰⅱⅳⅴは発達障害者に不利益な取扱いになったことに関する、同ⅲは選考に関するものと解される。ⅲの資格要件の充足性について、門戸とも言うべき職業訓練の受講・修了に支障がないと認定し、「雇用契約における採用時のように、本来的に契約自由の原則に基づき採用の自由が尊重されるべき場面とは異なる」としている。しかし、同判決は他方で、差別解消法(本件は雇用・労働以外の分野であるので差別解消法の適用分野となる)が施行された後の時点での選考であれば、「職業訓練の過程で合理的配慮の提供が行われることを想定して資格要件を判定することはありうるところであり、直接差別の判断枠組みが変容を迫られる可能性も否定できない。」と指摘した。採用の場面においては、面接等における合理的配慮の提供が求められる他、選考における採用後の合理的配慮提供を前提とする労働能力等の適正評価が求められることになる。

 (4) 判決①は、本件職務変更命令等が権利濫用として無効と結論づけたが、業務上の必要性が欠けるとの判断に至る過程において、幼児教育学科内で「学生の問題行動につき、全体としてどのように指導していくか、あるいは、原告に対する視覚補助の在り方をどのように改善すれば、学生の問題行動を防止することができるかといった点について正面から議論、検討された形跡は見当たらず、むしろ、望ましい視覚補助の在り方を本件学科全体で検討、模索することこそが障害者に対する合理的配慮の観点からも望ましいものと解される」とする第一審判決部分を引用している。

 (5) 雇用促進法施行後である今日においては、採用場面においても、採用後の待遇の場面においても、障害の特性に応じた合理的配慮提供を前提として労働能力等の適正評価を行うべきであることに、留意が必要である。

以上

 

タイトルとURLをコピーしました