◇SH1952◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(85)―スポーツ組織のコンプライアンス③ 岩倉秀雄(2018/07/06)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(85)

―スポーツ組織のコンプライアンス③―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、スポーツ組織の組織文化の特徴とリスクについて述べた。

 スポーツには、多くの人々をポジティブにし達成感や感動を共有化する素晴らしい面があるが、それを統括する組織は、マイナスの組織文化を持ちやすくそれによるリスクを発生しやすい。それは、①上下関係にこだわり自由な発言を許さず、人権侵害や情報隠蔽に傾きやすい内向きで外部の批判に過剰に反応し不祥事が発生した時の対応が後手に廻りやすい、③派閥中心の人事が行われ体質改善が進みにくい、④金銭問題と派閥争いがセットで発生し組織が混乱しやすい、⑤外部の利害関係者からの働きかけが多く組織が混乱しやすい等、である。

 今回からは、これまでの考察を踏まえ、一般のビジネス組織のコンプライアンスを参考に、スポーツ組織の改善の方向を考察する。

 

【スポーツ組織のコンプライアンス③:スポーツ組織の改善の方向1】

 不祥事を予防しスポーツ界の持続的発展を実現するために、組織論と一般のビジネス組織のコンプライアンスの視点から、以下の方向を考察・提言する。

 なお、スポーツ組織は、公益組織的性格が強いことから、スポーツ庁等監督官庁は、自らの役割を単にスポーツの振興だけではなく、(筆者がこれまで考察したように、スポーツ組織はリスクを発生させやすいことを踏まえ)、組織運営に対する管理・監督にもより注力するべきであると考える。

(1) 理念・ビジョン・行動規範の明確化と周知徹底

 多くの競技団体は、(場合により国際的な競技統括団体の指導に基づき)理念・ビジョン・行動規範を既に策定していると思われるが、それらを策定していない場合には、直ちに作成する必要がある。

 また、既に策定しているにも関わらず不祥事が発生するケースが見られるのは、その趣旨と内容が組織メンバーに周知徹底されていないことを示しているので、教育・研修等を徹底し、組織の役員・指導者・選手に浸透させなければならない。

 全てのスポーツ組織が、理念・ビジョン・行動規範を備え趣旨と内容を周知徹底するためには、スポーツ組織の監督官庁が、作成の有無を確認し、策定していなければ策定を指示すると同時に、競技団体は、関係者(役員、指導者、選手)に対する教育・研修を推進する必要がある。

 ビジネス組織ならば、理念・ビジョン・行動規範を作成し、職場に掲げ、あるいは冊子化して全役員・従業員に携帯させ、唱和し、その内容を討議し、時には遵守宣誓の署名を提出する等により、身につける努力をしているが、その方法は、スポーツ組織においても、役員・指導者・選手がスポーツ組織の理念・ビジョン・行動規範を身につける上で参考になると思われる。

 また、理念・ビジョン・行動規範に対する違反が発覚した場合には、当該選手だけではなく、必要により指導者やチーム全体に厳しい罰則を課し、ルールの重要性を認識させる必要がある。

 なぜならば、罰則をあいまいにすると、勝利至上主義に傾きやすいスポーツの世界では、罰則と勝利を天秤にかけて、あえて違反をする場合も想定されるからである。

(2) コンプライアンス担当役員の選任と実行組織の設定

 本気で組織内にコンプライアンスを浸透・定着させるためには、ビジネス組織と同様にスポーツ組織においても、責任を持って取り組む役員の選任と実行部隊を設置する必要がある。

 また、理事長を長とするコンプライアンス委員会のような全体的なコンプライアンス推進機関も必要である。

 担当役員や実行組織の長は、元競技者や法の専門家に加え、実際に組織にコンプライアンスを浸透させた経験者がふさわしいと考える。

 なぜなら、組織内にコンプライアンスを浸透・定着させる活動は非常に泥臭くストレスが多い活動なので、コンプライアンスを組織内に浸透・定着させるためには、組織のコンプライアンスに詳しくかつ当事者として実務経験のある者が、単なる肩書を持つ者や理論家よりも、組織実態を踏まえた有効な活動ができるからである。

 コンプライアンス担当役員は、一般のビジネス組織と同様に、上位の役員が担当するべきであり、コンプライアンスの実行組織の位置づけも組織全体に対する強い影響力を発揮できる位置にするべきである。

 また、中央の統括団体だけではなく、地方の組織にも同様の担当役員と推進組織を設置し、密接な連携のもとに推進するべきである。

 なお、筆者が本稿で想定するスポーツ組織のコンプライアンスの対象は、スポーツ競技そのもの、それを推進する組織、スポーツに携わる個々の指導者・選手全体であり、理念やビジョン・行動規範からは、当然、それを踏まえた競技ルールが生まれることから、コンプライアンスはスポーツの根幹をなす極めて重要なものであると考える。

 スポーツにおいて、競技ルールは最も重要な競技の核となる要素であるが、筆者が想定するコンプライアンスは、競技ルールだけではなくルールの根幹となる、スポーツの理念・ビジョン・行動規範を含む広い概念であることから、それを明確化し、周知徹底する担当役員や実行組織は重要であり、それを地方組織、役員、指導者、選手等、組織の隅々まで徹底する仕組みが必要なのは当然である。

 

 次回は、引き続き、一般組織のコンプライアンスを参考に、スポーツ組織の改善の方向について考察する。

 

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