◇SH3231◇経済産業省、特許庁、研究開発型スタートアップと大企業等の連携促進のため、共同研究契約等を交渉する際の留意点を解説した『モデル契約書ver1.0』を策定 羽間弘善(2020/07/10)

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経済産業省、特許庁、研究開発型スタートアップと大企業等の連携促進のため、共同研究契約等を交渉する際の留意点を解説した『モデル契約書ver1.0』を策定

 

岩田合同法律事務所

弁護士 羽 間 弘 善

 

 オープンイノベーションとは、企業外部に存在するアイデアの企業内部での活用と、企業内部で活用されていないアイデアの企業外部での活用を意味する用語であるが、近年、大企業がスタートアップと連携し、新たな価値を創造するオープンイノベーションが重要視されている。

 オープンイノベーションにおいて重要なことは、いかに「次も一緒に協業したい」と思わせるような関係を構築することができるかという点にあるが、公正取引委員会が、令和元年11月から「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」(以下「本調査」という。)の一環として、スタートアップを対象としたアンケート調査を実施したところによれば、スタートアップと大企業等が連携するにあたり、大企業等から取引や契約において納得できない行為を受けた経験のあるスタートアップが約15%であり、そのうち約75%が納得できない行為を受け入れていた(納得できない行為を「受け入れた。」及び「一部受け入れた。」の回答の合計値)。

 納得できない行為の具体的な例としては、①秘密保持契約においてスタートアップ側だけが秘密情報を開示するなど、大企業だけに一方的に有利な条項となっていたこと、②技術検証(PoC)後の契約締結をほのめかされて、無償でPoCを実施していたが、その後契約を締結してもらえなかったこと、③共同研究契約において、知的財産権が全て大企業に帰属する条件になっていたことや、④ライセンス契約の締結時に、製造や販売に関して、不利益を被るような独占契約を結ぶように、何度もしつこく迫られるなどの行為が挙げられている。

 

(参照:公正取引委員会「スタートアップの取引慣行に関する実態調査 中間報告(概要)」
(URL:https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/07/200630_3.pdf))

 

 令和2年6月30日、経済産業省と特許庁は、本調査の中間報告において明らかになったスタートアップの実態や上記問題を踏まえて、オープンイノベーションを促進するために『モデル契約書ver1.0』(以下「本モデル契約書」という。)を策定した。

 一般的に、スタートアップと大企業との提携が行われる場合には、連携する相手を選定し、①秘密保持契約を締結した上で連携についての協議を実施し、②技術検証(PoC)を行い、③共同研究、又は④ライセンスの付与を行うというフローとなる。本モデル契約書では、かかる提携のフローに沿って必要となる、①秘密保持契約、②技術検証(PoC)契約、③共同研究開発契約、④ライセンス契約、のモデル契約書を提示している。

(参照:令和2年6月30日付「モデル契約書ver1.0の公表について」
(「オープンイノベーションを促進するための技術分野別 契約ガイドラインに関する調査研究」委員会))

 

 また、本モデル契約書は、契約書のひな形を示すだけでなく、当該契約書に規定されている各条項の解説や契約交渉上の留意点や対応策等についても示している。スタートアップは大企業等とは異なり、専属の法務担当者が不在の場合も多く、法務・知財に関する知識・ノウハウや大企業等との交渉経験が不足している傾向にあるが、かかるスタートアップ側の法的な知見の不足が、オープンイノベーションが進みにくい理由のひとつとして挙げられていた。本モデル契約書は、スタートアップと大企業との間に法務・知財に係るリソースのギャップが存在することを前提に、そのギャップを補うことを目的とされたものであり、本モデル契約書をベースとして交渉を行うことで、双方のスムーズな交渉と協業が実現されることが期待される。

以上

 

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