企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
第2章 「経営管理システム」の中に「規範」を遵守する仕組みを組み込む
本章では、まず、企業に属する者が遵守することを求められる「企業規範」と、企業を取り囲む「社会規範」について理解する。
本稿では、人が判断・評価・行動する際に準拠する基準や規定を「規範」という。
「企業規範」は、抽象的な経営理念から極めて具体的な現場の作業指図まで、多種多様である。
「社会規範」には、法令だけでなく、JIS/ISO等の技術的な製品規格及びマネジメントシステム規格、及び、企業が事業活動で遵守すべきルール全般が含まれる。
- (注) 本稿の「規範」には、「・・しなければならない」あるいは「・・してはならない」という法規範だけでなく、技術の基準・規格も技術規範として含むので留意されたい。
企業には、社会の一員として、自らの「企業規範」を「社会規範」に適合させる義務がある。
第1部 企業規範の構造と社会規範への適合
1. 企業規範の4つの層 各層の内容と制定責任者
企業が事業を行うために構築する「経営管理システム」は、頂点の第1層(経営理念)、第2層(方針)、第3層(標準)、そして業務の現場の具体的な作業ルールを定める第4層(ガイドライン、マニュアル、作業指図等)のピラミッド構造になっている。
この4つの層の中に「企業規範」が組み込まれ、システムを運用すると自動的に規範を遵守することになるのが望ましい。
次に、第1層~第4層の内容を記す。
(1) 第1層(経営理念)
企業における経営の基本的な理念・考え方を示すものであり、社是・社訓・綱領・社員行動基準、創業者語録等が含まれる。
社是・社訓・創業者語録は、経営幹部が事業方針を決めるときや重要な経営判断を行うときに、心の拠り所になる。
経営理念は、企業のトップ(取締役会を含む)が定めることが多い。
- (注) 創業者没後に創業家が企業の方針決定に影響力を持つ場合、現在の経営陣との間で経営理念を巡る紛争が生じることがある。
現在、多くの企業の社員行動基準が公表されている。その中に見られる共通的な事項[1]を次に示す。
〔社員行動基準の記載事項(例)〕
- ① 会社と、社員の関係
- ・ 経営の目的[2]
- ・ 明るい職場、健康・安全な職場、従業員の力を発揮、コミュニケーション、正直な報告
- ・ 社員の責任(法令・社内規程の遵守等)、トップの責任、自主責任経営
- ・ 規範に反する行為(自分、他者)を認識した場合は、上司又は内部通報窓口に相談・通報
-
(注) 内部通報については、司法取引との関係を整理して示す必要がある。
- ② 会社における社員の行動のあり方
-
・ 法令・社内規程・企業倫理の遵守
公正な雇用・労働
人権・多様性の尊重(差別・ハラスメントの禁止等)
環境の尊重
財務・会計に関する記録・報告を、合法・正確・適時に行う
貿易ルール・各国法令を遵守
公正かつ自由な競争、接待・贈答の考え方
利益相反の防止(相反は開示する)
機密情報の取扱い、個人情報の適切な取扱い
インサイダー取引の禁止 -
・ 資産・情報の利用・管理
誤用・浪費の禁止、ブランド管理、知的財産保護、正確な情報の作成・管理 - ・ 商品の安全性・利便性の追求
-
・ 業務上の留意事項
研究開発、調達、生産、物流、営業、海外事業、収益性向上活動 -
・ 危機管理
- ③ 社会と会社・社員の関係
- ・ 適切かつ透明性の高い経営(適切なディスクロージャー)
- ・ 広報活動(事実に基づく情報発信)
- ・ 社会貢献、地域社会との関係、株主との関係、官公庁との関係、政治・宗教との関係
- ・ 反社会的勢力に対する姿勢
[1] トヨタ、パナソニック、ソニー、日立製作所、東京海上日動、三菱商事、IBM、テキサス・インスツルメンツの行動基準・行動規範に共通的に記載されている事項を筆者がグループ分けしてまとめたもの。(2018年8月20日時点)
[2] 例えば、〔トヨタ〕クリーンで安全な商品の提供、〔パナソニック〕社会生活の改善と向上を図り、世界文化の進展に寄与、〔ソニー〕ユーザーの皆さまに感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社、〔日立製作所〕優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献。