◇SH2431◇帝国電機製作所、中国所在子会社の不適切取引で社内調査委員会による調査報告書を公表 (2019/03/27)

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帝国電機製作所、中国所在子会社の不適切取引で社内調査委員会による調査報告書を公表

――特定部署への情報・権限の集中、現地コンプライアンス支援の必要性を指摘――

 

 キャンドモータポンプ製造・販売最大手の帝国電機製作所(兵庫県たつの市、東証第一部上場)は3月14日、中国にある同社の連結子会社およびその連結修理子会社3社において判明したと今年1月に発表していた不適切な取引行為を巡り、社内調査委員会による調査が終了し調査報告書を受領したとして、これを公表した。

 中国にある大連帝国キャンドモータポンプ有限公司(以下「大連帝国」という)等における不適切取引の可能性について同社が発表したのは1月18日。「大連帝国の修理子会社の一部取引について疑義があるとの内部通報に基づき内部調査を実施しましたところ、修理子会社において営業請負制度を利用した架空の費用計上等の不適切な取引行為が行われていたことが判明」したとするもので、この発表と併せて(a)同社代表取締役副社長執行役員を委員長とし、(b)社外の大手法律事務所の弁護士、(c)同社社外取締役監査等委員を務める弁護士を委員とする社内調査委員会の設置を公表していた。

 「調査報告書(公表版要旨)」によると、内部通報があったのは平成30年8月で、これを受け、同年9月下旬〜11月下旬の間、対象期間を29年1月〜30年6月末として内部調査を実施した。結果、判明したのは、営業部門を有しない修理子会社に代わり修理子会社と顧客との取引に関する営業活動を担当する大連帝国の営業担当者に対するインセンティブボーナスの支払いに関し、営業請負制度の名のもと架空取引を行っていたことであり、その後、26年度以降の期間を対象として調査を開始したところ、大連帝国において売上の早期計上、過去の時間外労働に対する賃金末払い、スクラップ売却代金の簿外処理、個人所得税還付金の簿外処理および不良在庫の簿外処理の行為が行われている疑義が生じたことから、社内調査委員会には次の7項目に関する調査が依頼された。(1)大連帝国営業請負制度および修理子会社営業請負制度に基づく架空の費用計上、架空取引等の不適切な取引および当該取引を利用した個人的な領得の有無ならびに上記に係る税務リスク、(2)売上の早期計上の有無、(3)時間外労働の賃金未払いの有無、(4)スクラップ売却代金の簿外処理の有無、(5)税金還付金の簿外処理の有無、(6)不良在庫の簿外処理の有無、(7)その他前各号と類似する不正の有無。

 社内調査委員会による調査対象期間は、原則として平成23年12月期〜30年12月期の長期に及ぶ。これは、帝国電機製作所執行役員中国事業本部長で大連帝国の総経理(担当は中国事業のみであり、同社の日常経営の責任者として中国に常駐)兼同社の営業本部長兼修理子会社の執行董事であったA氏の関与が推認されたことから、同人が総経理に就任した期間を対象としたため。ただし、同人は30年12月末に退職しており、本件調査において同人に対するインタビューは実施できなかったとされている。

 調査結果によると、たとえば上記(1)に絡み、①大連帝国において遅くとも平成18年ころから、営業請負制度という大連帝国の営業本部が一定の金額の枠内で必要な経費と営業奨励金(営業担当者へのインセンティブボーナス)を賄う制度が存在したこと、②当該制度では、一定期間 (通常半年)の大連帝国の製品ごとの売掛金の既回収額および回収見込み額に一定比率(19%または10%)を乗じた額を販売経費枠として設定し、当該販売経費枠の総額から、制度上、販売経費として計上できる費目のうち既発生および発生見込みの経費を控除した残額を営業奨励金として定め、当該営業奨励金を請負者と呼ばれる営業担当者にインセンティブボーナスとして支給していたこと、③当該営業奨励金の支払いに係る源泉所得税の税率については、営業奨励金が税金を控除した手取り額として制度設計されていることから、中国個人所得税法の実務上、通常の税率表とは異なる税率表に基づき源泉税額を計算する方式が採用されるべきとの考え方もありうるところ、大連帝国は通常の税率を乗じて源泉所得税を計算していたことなどに伴って、④かかる大連帝国による営業奨励金の税務処理について、今後、所管税務局との間で見解の相違が生じる可能性が完全には否定できず、仮に所管税務局が大連帝国の上記処理に関して追徴を行う場合には、適用法令上、追徴期限が5年とされているため、平成26年度以降の営業奨励金に係る源泉税が対象となり、その税務インパクトは2,831千元となる旨が明らかにされた。なお「関係者が個人的な領得を行っていることを示す証拠は発見されなかった」という。

 同様に(1)に絡む修理子会社の営業請負制度については、修理子会社が営業所および営業本部への配分を簿外で行っており、当該簿外処理を行うために「現金化」と呼ばれる架空の経費計上等を用いた処理を行っていたと認定。「架空取引により協力会社を通じて、協力会社の手数料を控除した金額を協力会社の銀行口座から総経理の個人口座に振り込むことによる方法」による場合には、修理子会社が第三者である協力会社との間で架空取引を作出し、労務費および部品・消耗費として架空の費用を計上して修理子会社の総経理の個人口座に現金を集約し、この一部を営業請負制度に基づき、大連帝国の営業本部および営業所への分配に充て、さらに残金をA氏の個人口座に送金していたという。このような簿外処理については「増値税、企業所得税、個人所得税等を追加納付する必要が生じ、その税務インパクトは、想定し得る最大金額を見積もって、101,602千元である」とされており、かかる資金の流れにおいて生じたA氏の個人口座への入金の合計額は平成28年、29年、30年の3年間で856万2,772.03元にのぼることから「少なくとも一部はA氏により個人的に領得されたものと疑わざるを得ない」と言及している。

 結果的に「かかる事実は確認されなかった」と表明される調査項目も存在するなか、調査報告書では原因分析として、①大連帝国の営業本部がブラックボックス化し、中国事業については社内でもごく限られた範囲に情報、権限が集中していったこと、②このため、帝国電機製作所はもとより、大連帝国社内においても営業本部やA氏の行為について詳細を関知できず、口出しもしづらくなったという事情が大きく寄与していると思料されること、③とりわけ営業請負制度そのものが営業本部に対して制度的構造的に社内の牽制機能が効きにくいという素地をもたらすものであったうえ、中国事業についての権限が特定のA氏らに集中し、また帝国電機製作所側からの管理監督責任者も固定された状況が長く続いたことを挙げた。

 帝国電機製作所では再発防止のために必須とし、すでに平成30年12月31日をもって大連帝国および修理子会社の営業請負制度を廃止。これに先立つ同年11月9日には、帝国電機製作所の中国事業本部を廃止し、大連帝国は帝国電機製作所の営業本部に帰属する組織としたうえ、大連帝国および修理子会社は帝国電機製作所営業本部長が管理責任者として統括することとした。さらに、修理子会社については会社清算を行い、現在の修理工場拠点については営業本部の管理下から生産本部の管理下に組織変更しているという。

 加えて、本件調査結果の分析に基づく再発防止策としては(ア)経営陣の意識改革、(イ)権限集中の排除、(ウ)各部門間の連携・監督、(エ)各海外子会社におけるコンプライアンス責任者の活動支援、(オ)内部通報制度の充実を掲げた。

 (ウ)では「海外子会社における日常業務の全てを親会社が適時に把握することには限界がある」ことを明記したうえ、(エ)においては、①本件調査事項に関する多くが海外子会社における法律の不知や簿外処理等会計処理に対する認識の甘さなどコンプライアンス意識の低さに起因しているものと思料されること、②子会社管理という観点から、役員として出向させる従業員に対し、各国特有の法的問題点に関する研修を実施し、具体的に留意すべきコンプライアンス上の問題点を認識させる体制を整えることを積極的に検討すべきこと、③海外子会社の役職員等のコンプライアンス意識が1人の責任者の孤軍奮闘によって短期間に改善できるものではないことを十分に認識し、諸外国所在の子会社のコンプライアンス管理担当者を親会社にも配置し、各海外子会社におけるコンプライアンス責任者の活動を支援する体制をとることも検討すべきことを指摘している。

 帝国電機製作所は調査報告書の公表と同日となる3月14日、「過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出及び過年度の決算短信等の訂正に関するお知らせ」を発表し、たとえば過年度の有価証券報告書については平成25年4月1日を始期とする第110期から30年3月31日に至る第114期まで5期分の訂正報告書を近畿財務局に同日提出したことを表明するとともに、過年度連結業績への影響を「別紙  訂正影響額」として一覧表の形式で明らかにした。

 また同日には、併せて「内部統制報告書の訂正報告書」を近畿財務局に提出したことを別途発表するほか、平成31年3月期の連結通期業績予想の修正に加えて、3月14日を期限として延長承認を受けていた第115期(31年3月期)第3四半期報告書を提出完了したと発表。

 翌15日には、不適切な会計処理および取引行為が長期にわたり発見・防止できなかったこと、上記・第3四半期報告書を期限内に提出できなかったことを重く受け止めるとし、役員5名・従業員2名に対する処分結果を公表した。

 

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