監査役協会、「監査役等と内部監査部門との連携について」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 上 西 拓 也
本年1月13日、日本監査役協会は、「監査役等と内部監査部門との連携」をテーマとしたレポート(以下「本レポート」という。)を公表した。本レポートは、監査役等[1]と内部監査部門との連携強化のため、(1)内部監査部門から監査役等への報告、(2)内部監査部門への監査役等の指示・承認、(3)内部監査部門の人事への監査役等の関与、(4)内部監査部門と監査役等との協力・協働の各事項について提言するものである。
以下では、内部監査部門と他の監査機関の連携に係る法的議論等について概観する。
1 内部監査部門の位置づけ
内部監査部門とは、内部統制システムにおけるモニタリング機能を所管する部署であり(監査役監査基準37条1項)、社内の各部門において社内規則・ルールが遵守されていること等の調査を行うものである。かかる内部監査は、代表取締役の指揮命令系統下で行われる点において、代表取締役を含めた経営陣の業務執行を対象とし、独立の立場で行われる監査役監査とは性質が異なる。通常、内部監査部門による監査は、会計監査人による監査、監査役による監査とともに、いわゆる三様監査の一環として位置づけられる。
2 連携の重要性
三様監査は、いずれも監査の目的を異にしているものの、会計基準と企業経営を取り巻く環境が複雑化していることから、三様監査相互間の連携はますます重要となっている。コーポレート・ガバナンスコード補充原則4-13③本文が、「上場会社は、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである」と規定していることは、連携の確保の重要性ないし有用性を端的に裏付けるものである。
3 連携の方法等
会社法は、監査役が監査の実効性を確保するための手段として、情報収集権(会社法381条2項)[2]、費用等の請求権(会社法388条)[3]を規定しており、監査役監査基準37条1項は、かかる監査役が内部監査部門と緊密な連携を保ち、組織的かつ効率的な監査を実施すべき旨を定めている。
本レポートは、監査役等の権限を社内ルールによる具体化・明文化等を通じて強化すること等を提言しており、もって内部監査部門との連携を強化することを意図したものである(本レポートにおける具体的な提言内容の要旨は別表参照)。
4 本レポートを踏まえた内部統制体勢の見直し等
会社法上、監査役が内部監査部門に指示を出し、調査をさせ、報告を受けることは、もとより差支えなく、内部監査部門の人事、あるいは監査計画について承認することは、内部監査部門を取締役会や代表取締役の指揮・命令系統から切り離すものではなく、同様に差し支えないと論じられているところである[4]。かかる解釈に照らしても、別表記載の各提言はいずれも首肯し得るものと考えられるが、特に、内部監査部門の人事への監査役等の関与を、内部統制基本方針等に明記するとの提言(別表(3))は、監査役監査の実効性を人事制度の側面から担保するものであって示唆に富む。
会社における監査の体制は機関設計を含め各社各様ではあるものの、昨今の企業不祥事を巡る状況に鑑みれば監査の実効性強化は必須の取組みであり、本レポートは、各企業がかかる取組みを推進するうえで参考になると考えられることから、ここに取り上げる次第である。
以 上
提言事項 | 具体的提言内容の要旨 | |
(1) | 内部監査部門から監査役等への報告 |
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(2) |
内部監査部門への監査役等の指示・承認 |
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(3) |
内部監査部門の人事への監査役等の関与 |
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(4) |
内部監査部門と監査役等との協力・協働 |
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(本レポートの記載を要約したもの。詳細は原文を参照されたい。)
[1] 本レポートにおいて「監査役等」は、監査役、監査役会、監査等委員の総称として用いられている。
[2] 会社法381条2項は「監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め」ることができるとしている。監査役は、これを根拠に内部監査部門の職員(以下に述べる補助使用人に該当しない職員を含む。)から必要な報告を受けることが可能である。
[3] 会社法388条に基づくものであり、監査役はこれを根拠として、自己の職務を補助する使用人を雇用しその費用を会社に請求することもできる。もっとも、かかる補助使用人を設置している会社は現状多いとはいえない。
[4] 田中亘ほか「攻めのガバナンスと監査の実効性-監査制度間の比較も踏まえて」月刊監査役649号(2015年)28頁[田中亘発言]。