金融庁、清流監査法人に業務改善命令
――会計処理の誤りの見落とし、連結範囲の検討不足など重要な不備ほか広範かつ多数の不備を指摘――
金融庁は10月25日、清流監査法人(東京都千代田区、平成22年設立・24年上場会社監査事務所登録)に対して業務管理態勢の整備などを求める業務改善命令を発出した。
公認会計士・監査審査会が検査の結果、運営が著しく不当であるとして7月5日、金融庁に対し、行政処分等の措置を講じるよう勧告していた。審査会による同様の勧告は平成26年中に4件、27年中に4件、28年中に3件と推移していたが、近年は29年6月28日付・監査法人アリアに対する1件、30年5月18日付・監査法人アヴァンティアに対する1件と年1件にとどまっており、清流監査法人に関する勧告も本年初の事案。監査法人アヴァンティアについては30年9月26日、金融庁が業務改善命令を行っているのに対し、監査法人アリアについては事実誤認を理由とする同法人側の提訴を経て今なお金融庁の処分は発出されていない。なお、29年9月22日には金融庁がアスカ監査法人に対して「重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽のないものとして証明した」とし、同法人に係る契約の新規締結に関する業務を3か月にわたり停止するとともに業務改善命令を行った事案がある。
清流監査法人は近年、東証市場第二部上場2社(住宅工事・機器製造、建築土木)、東証JASDAQスタンダード上場1社(通信販売)の監査を担当してきたが、金融庁の認定によると「設立以来、特定の個人により実質的に支配されている企業グループを主な被監査会社とし、その監査報酬は当監査法人の業務収入の大部分を占めている」とされており、ここにある「被監査会社」は東証二部上場の住宅工事・機器製造会社を指すものとみられる。金融庁は、同監査法人の業務態勢の特徴として(ア)社員5名、非常勤職員を中心とした監査補助者等により構成され、総括代表社員を除く社員は各人の個人事務所等の業務を主としており、同法人の業務への関与は低く、総括代表社員が品質管理担当責任者を兼務していること、(イ)監査業務は社員2名がそれぞれ審査または定期的な検証の専任であることから総括代表社員を含む3名の社員を中心に実施されていること、(ウ)監査補助者は主に非常勤職員で構成され、業務執行社員が主査を担当する監査業務もあることを挙げたうえで、「監査実施態勢は十分ではない」と認定。同法人の総括代表社員によれば「経験を積んだ公認会計士を基本に監査チームを編成していること」を法人の強みとしている点についても、金融庁は、社員・職員のこれまでの経験に依存した運営を継続しているとして「品質管理態勢を十分に整備する必要性を認識していない」ものと認定した。
品質管理態勢に関しては監査法人アヴァンティアに対する認定時と同様、仔細に5項目を掲げるかたちを採っており、清流監査法人に対して(a)前回審査会検査および品質管理レビューでの指摘事項に対する改善状況、(b)監査契約の新規の締結および更新、(c)監査実施者の教育・訓練、(d)監査業務に係る審査、(e)品質管理のシステムの監視の5項目を指摘。たとえば、(a)では「いずれの取組も不十分であることから、今回審査会検査で検証した個別監査業務の全てにおいて、これまでの品質管理レビュー等での指摘事項と同様の不備が繰り返されている」とするほか、(b)では、諸手続・検討の不足・不十分に加えて「限定事項付き結論となった平成29年度品質管理レビューの結果を会計監査人の選任議案の決定権限を有する監査役等に書面で伝達していない」こと、(c)では、前回審査会検査および平成29年度品質管理レビューにおいて指摘された不備には「社員及び職員の会計基準及び監査の基準の理解不足に起因するものがある」と総括代表社員が認識しているにもかかわらず、今回審査会検査においても会計基準および監査の基準の理解不足に起因した不備が多数生じており、法人の教育・訓練は実効性のあるものとなっていないことを縷々挙げている。
結果、個別の監査業務に関しても、①固定資産の減損会計における兆候判定の誤りや株式移転の会計処理の誤りを見落としている事例、関連当事者取引の開示や連結財務諸表に関する会計基準に従った連結範囲の検討が不足している事例などの重要な不備が認められること、②主な被監査会社は特定の個人により実質的に支配されていて関連当事者間で多様な取引が行われている状況にあるところ、当該特定の個人との通例ではない重要な取引を批判的に検討していない事例、工事進行基準の適用における会計上の見積りの検討が不足している事例などの重要な不備が認められること、③これらの重要な不備は今回審査会検査で検証対象とした個別監査業務のすべてにみられること、そのほか重要な不備ではないものの、被監査会社が作成した情報の信頼性を評価していない事例、経営者が利用する専門家の適性・能力および客観性の評価が不足している事例、不正リスクを識別している売上高の実証手続が不足している事例、監査報告書日後に実施した手続を監査報告書日前に実施したように監査調書に記載している事例など、不備が広範かつ多数認められることを列記。「当監査法人の個別監査業務の実施は著しく不十分なものとなっている」と結論付けている。