我が国におけるライツ・オファリングの定着に向けて
岩田合同法律事務所
弁護士 深 沢 篤 嗣
平成26年7月25日、東京証券取引所上場制度整備懇談会により、「我が国におけるライツ・オファリングの定着に向けて」と題された報告書(以下「本報告書」という。)が公表された。
「ライツ・オファリング」とは、株式会社が、株主に対して、新たに払込みをさせないで当該株式会社の新株予約権の割当てを行う「新株予約権無償割当て」(会社法277条)を利用した増資手法である。割当てを受けた株主としては、新株予約権を行使して株式を取得することも可能であるし、市場で新株予約権を売却することも可能であるため、既存株主がこのような選択権を持つことから、希釈化により既存株主が被る不利益が限定的であり、他の増資手段に比べて既存株主に配慮した手法であると言われている。
ライツ・オファリングには、引受人となる証券会社との間で、未行使分の新株予約権の行使等を約束する契約を締結する「コミットメント型」と、そのような契約が締結されない「ノンコミットメント型」が存在する。平成26年6月末日までに我が国で公表された25件のライツ・オファリングのうち、コミットメント型ライツ・オファリングは3件のみで、残りの22件は、ノンコミットメント型ライツ・オファリングである。
公募増資やコミットメント型ライツ・オファリングであれば引受証券会社、第三者割当増資であれば割当先といった外部の第三者が、それぞれ増資の合理性を判断することとなるが、ノンコミットメント型ライツ・オファリングの場合、そのような第三者が存在しない。本報告書では、直前期に純損失を計上した会社、直前期又は直前四半期の時点で債務超過にある会社、直前期に無配の会社など、業績のすぐれない会社が多用していることから、他の増資手段では資金調達をすることが困難な会社がノンコミットメント型ライツ・オファリングを利用することで資金調達をしているという懸念が表明されている。下表は、それぞれの増資手段ごとに、これらの業績の類型に属する会社の比率を示したものである。
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純損失計上 |
債務超過 |
無配 |
ノンコミットメント型ライツ・オファリング |
63.6% |
18.2% |
63.6% |
公募増資 |
10.5% |
0% |
18.0% |
第三者割当増資 |
34.3% |
3.9% |
40.2% |
(注)本表記載の各割合は、ノンコミットメント型ライツ・オファリングについては、平成22年3月から平成26年6月末までに同増資を行った会社に占める割合を、公募増資及び第三者割当増資については平成23年から平成26年3月末までにこれら増資を行った会社に占める割合を示す。また、複数の業績類型に該当する会社も存在していることから、各増資手法の合計は100%を超えることもある。
このような懸念を踏まえ、本報告書は、増資の合理性を評価するプロセスを導入するため、ノンコミットメント型ライツ・オファリングに適用される上場基準に、後述の手続基準及び業績基準を追加すべきとの提言を行っている。
まず、手続基準については、「証券会社による審査」と「株主の承認」の2つの手段が提案されており、いずれかを満たすことが要請されている。
証券会社による審査の内容は、東京証券取引所の取引参加者となっている証券会社が、日本証券業協会の「有価証券の引受け等に関する規則」に定める項目に準じた事項の審査を行い、当該上場会社は審査を実施した証券会社名を開示することとされている。
次に、株主の承認については、株主総会決議など株主の意思確認を行って株主の承認を得ることをその内容としている。
業績基準については、公募増資やコミットメント型ライツ・オファリングの引受審査を通常通過できない水準と同程度とすべきとの考え方に基づき、平成23年から平成26年3月までの間に公表された我が国の東京証券取引所上場会社の公募増資の実例では、2期連続経常赤字の会社は7件(5.3%)、債務超過の会社が公募増資を行った例はないことから、2期連続経常赤字又は債務超過のいずれにも抵触しないことを業績基準とすべきと提言されている。
本報告書の提言内容が上場基準に追加された場合、ノンコミットメント型ライツ・オファリングを用いた増資の位置づけも変化せざるを得ないことから、今後の上場基準の改正に関する動向が注目されるところである。
以上
(ふかざわ・あつし)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2008年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2009年弁護士登録。2013年4月から2014年3月まで、金融庁証券取引等監視委員会取引調査課に出向、インサイダー取引、相場操縦行為等の調査に携わる。金融法務、企業法務等を専門とする。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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