厚労省が公表した長時間労働の実態と、労働基準法改正に向けた動き
岩田合同法律事務所
弁護士 深 沢 篤 嗣
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平成29年1月17日、厚生労働省(以下「厚労省」という。)は、平成28年4月から9月までに、長時間労働が疑われる10,059事業場に対して実施した、労働基準監督署による監督指導の実施結果を取りまとめ、公表した(以下「本監督指導結果」という。)。この監督指導は、月80時間を超える残業が疑われる事業場や、長時間労働による過労死などに関する労災請求があった事業場を対象とするものである。
この監督指導の対象事業場は、平成27年度は、月100時間を超える残業が疑われる事業場(4,861事業場)などであったところ、本年度においては、月80時間(10,059事業場)に拡大されている。なお、平成27年度の監督指導結果については、羽間弘善弁護士による解説(◇SH0627◇厚労省、長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表 羽間弘善(2016/04/13))を参照されたい。
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本監督指導結果では、対象となった事業場のうち、6,659事業場(66.2パーセント)において労働基準法などの法令違反が認められた。そして、そのうちの4,416事業場(43.9パーセント)は、違法な時間外・休日労働が認められたものであり、是正勧告書が交付されている。これら事業場において、時間外・休日労働時間が最長の者の実績(下表)を見ると、80時間を超えている事業場が、4416事業場のうち3450事業場に上っており、依然として長時間労働が多くの事業場において発生している実態が見て取れる。
45時間以下 |
45時間超 80時間以下 |
80時間超 100時間以下 |
100時間超 150時間以下 |
150時間超 200時間以下 |
200時間超 |
296 |
670 |
1,031 |
1,930 |
373 |
116 |
また労働時間の把握方法が不適切なため指導が行われた事業場も、1189事業場(11.8パーセント)に及んでおり、その中でも最も多かった指導事項は、「始業・終業時刻の確認・記録」で、691事業場に対して指導がなされた。
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昨今、長時間労働は大きな社会問題となっており、厚労省を初めとする労働当局は、違法な長時間労働に対して、厳しく対処する姿勢を示している。平成27年には大手広告代理店において従業員が自殺し、労働基準監督署から過労による自殺として労災認定がなされ、同社と幹部が書類送検されたことはその一例である。
政府においても、長時間労働の解消に向けた様々な取組みを進めており、労働基準法等の改正に向けた動きが報じられている。
労働時間については労働基準法等により規制がなされており、労働時間は原則として1日8時間、週40時間以内とされた上(労働基準法32条)、いわゆる「三六協定」を労働組合等と締結し、労働基準監督署に届けた場合には、当該協定の範囲内で、時間外労働や休日労働が可能となるが(同法36条)、三六協定で定め得る労働時間の延長の限度等については、「時間外労働の限度に関する基準」で制限がなされている。しかしながら、同基準では、「特別条項付き協定」も許容されており、これを用いれば同基準の限度時間を超える時間を延長時間とすることができることから、かかる特別条項付き協定により、実質的に労働時間が「青天井」になっており、長時間労働の温床になっているとの指摘がある。
このような状況を踏まえ、平成28年9月に安倍晋三内閣総理大臣を議長として設置された「働き方改革実現会議」では、現在、「働き方改革実行計画」の取りまとめに向けた議論が進められている。報道によれば、同会議で平成29年度内を目途に同計画を取りまとめ、厚労省はその内容を踏まえて、平成29年内に労働基準法等の改正法案を国会に提出し、その中では、上記特別条項付き協定制度を改正して、時間外労働時間に上限を導入することが検討されているとのことである。
同改正法案が成立し施行されれば、使用者は労働環境の大きな変革を求められることとなる。今後の動向を注視する必要があるだろう。
以上