◇SH1837◇厚労省、「働き方改革」の実現に向けて 佐藤修二(2018/05/15)

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厚労省、「働き方改革」の実現に向けて

岩田合同法律事務所

弁護士 佐 藤 修 二

 

 厚生労働省は、「働き方改革」について、政策の概要を解説するウェブサイトを開設した。その中核は、国会にいよいよ提出されて審議も始まった、いわゆる働き方改革関連法案であろう。

 法案の概要は、以下のとおりである(上記ウェブサイト掲載資料《https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/196-31.pdf》を元に作成)。

 

Ⅰ 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等

  1. 1. 労働時間に関する制度の見直し
  2. 2. 勤務間インターバル制度の普及促進等
  3. 3. 産業医・産業保健機能の強化

Ⅱ 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

  1. 1. 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
  2. 2. 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  3. 3. 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

 

 働き方改革関連法案については、当初は併せて導入予定であった「裁量労働制の拡大」が、かかる政策導入の根拠とされた厚生労働省作成のデータに不備があったことから、法案から削除された。その結果、提出法案においては、①長時間労働の是正(時間外労働の上限設定)、②同一労働同一賃金制度の導入(雇用形態による不合理な待遇差の解消)、③いわゆる高度プロフェッショナル制度の導入(一定の専門職について時間外労働規制の対象外とする)、の3点がその中心となっている。このうち高度プロフェッショナル制度については、「定額働かせ放題」につながるという批判も根強く、同制度の導入が、長時間労働の是正や同一労働同一賃金制度の導入という、労働者保護色の強い規制導入案と「セット」になっていることが、労働側を代弁する野党各党の対応に悩ましさをもたらしているとの報道も見られる。労働法制においては、労働側と経営側の利害対立は常であるが、野村不動産における裁量労働制の違法な適用事例の存在等に鑑みれば、高度プロフェッショナル制度が導入された場合、その運用は、法規制及びその趣旨に従って厳格に行うことが求められよう。なお、同一労働同一賃金制度導入の理論的支柱であった、東京大学の水町勇一郎教授著『「同一労働同一賃金」のすべて』は、発行元の有斐閣によれば、法案成立前にもかかわらず売れ行き好調との由である。既に産業界では、一昨年の痛ましい電通事件を踏まえ、長時間労働是正や多様な働き方推進といった働き方改革が進展しつつあり、法案の精神は、基本的に世の中の潮流に沿うものなのであろう。

 ところで、働き方改革関連法案の成立は、国会情勢により、見通せないと言われている。その背景の一つに、財務省において発覚したセクハラ問題があることも否めない。セクハラ問題に関する財務省の対応については様々な議論があるが、セクハラ被害者への配慮が十分ではなかったという指摘は、特に民間企業におけるここ10数年の実務対応に照らせば、少なくとも、根拠がないとは言い切れないだろう。財務省の推進する消費税率引上げは重要な政策課題であり、それ自体の是非について論じるべきところ、冷静な議論ができにくい環境を招くことにもなってしまっている。

 近時、企業を取り巻く法制環境においては、労働法制のみならず、経営の領域でも、コーポレートガバナンス・コードにより、多様性や透明性を一層重んじる施策の遂行が求められている。本年予定される同コードの改訂においては、女性や外国人の取締役選任をより強く求め、また、いわゆる持合い株式(政策保有株式)について「縮減」という語を用いて持合い解消の方向性が示唆されるなど、旧来の日本的経営に反省を迫る動きは止まるところを知らない。民の動きの速さに比べれば官の変化が緩やかであることは間々あるとはいえ、働き方改革も含め、官が推進する社会の変化の方向性に、官自らも歩調を合わせていくことを期待したい。

 

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