◇SH3633◇ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第8回 コーポレートガバナンスの統括機能と取締役会事務局の役割 藤原幸一(2021/05/25)

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ガバナンスの現場――企業担当者の視点から
第8回 コーポレートガバナンスの統括機能と取締役会事務局の役割

TDK株式会社
コーポレートセクレタリーグループGM、兼 取締役会室長、秘書室長

藤 原 幸 一

 

1 はじめに

 本年は会社法の改正が行われ、それに続きコーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂、東証の新市場区分の上場制度への移行が行われる。これらのガバナンスに関わる新たな要請への対応や外部開示資料(有価券報告書や株主総会招集通知の記載)などの見直しの検討が求められている。また他方、SDGsやESGに対する社会や投資家の関心の高まりから、会社としての考えや姿勢が問われるようになってきている。

 ガバナンスに関わる課題は、ますます広がり続けており、これらに対する会社の考えを明確化しステークホルダーに説明することが求められている。これらのガバナンス課題は、社内のさまざまな部署に関わるものであり、対応には関連部署の連携が必須となる。その対応も、単なる改正条項等へのパッチワーク的な対処療法ではなく、会社の考え方や方針について統一性のある説明が求められる。

 

2 ガバナンス統括の必要性

 このようなさまざまなガバナンスの問題への対応は、その内容によって担当すべき部署(本社機能部門)がある程度決まるものだが、各部署とも現状業務で忙しく、新たなガバナンス問題への取組みには温度差がある。例えば、改正会社法で新たに規定された「会社補償」について検討するにしても、役員の保険/補償の面では総務部が、処遇/招聘条件の面では人事部が、利益相反や法務面では法務部が関与するなど複数の部署が関わるが、自らが主担当となってイニシアティブをとることには皆二の足を踏むことがある。このようなことは、ガバナンスに関する責任部署や役割が、社内で十分に整理されていない場合に起こると考えられる。

 ガバナンスに関する事柄は、その内容に応じてそれぞれの主管部署が担当することを基本にするにしても、全体を俯瞰して部署間の隙間の問題が無いかをみたり、各部署の情報をまとめて調整し、全体としての整合性を図る機能が必要となる。この点に関してCGSガイドライン[1]は、コーポレートガバナンスに関する所管部署が多岐にわたるため、内部の意思決定にも複数の部署での調整が必要になるとして、コーポレートガバナンス対応を一元的に統括する部署・担当者を配置することが考えられると指摘している。

 

3 ガバナンスの統括への取組み

 このようなガバナンスを統括する機能を設けるか、またどの部署がそれを担当するかについては、会社の考え方や実態によってそれぞれ異なる。

 会社によっては、ガバナンス専門部署(ガバナンス統括部、ガバナンス企画部、ガバナンス推進部等)を設けて、その役割を明確化している会社もある。

 しかし多くの会社では、そのような専門部署ではなく、特定の部署がリーダシップをとって情報のとりまとめを行う形態が多いように思われる。例えば、経営企画部門が全社企画機能の一環としてガバナンスの統括を担う会社や、総務部門が株式/総会業務機能を拡大してガバナンス全般をみようとする会社もあるだろう。また法務部門がマネジメント的な法務を志向する場合には、ガバナンスを統括する場合もあると思われる。

 また、特定の部署ではなく、委員会などの形態(ガバナンス委員会等)によってガバナンス統括機能を担う方法もある。

 どのタイプによっても、多くの部署に協力を要請し調整を図るには困難も伴うので、このガバナンス統括機能が効率的に活動をするためには、その建付け(組織的位置づけ、ミッションや権限の根拠となる社内規程等)や取締役や経営層の理解が欠かせないものと考える。

 

4 取締役会事務局の役割

 このガバナンスの統括という点では、取締役会事務局が果たすべき役割は大きいと考える。前述のどのタイプのガバナンス統括機能であっても、その主管部署や関係部署の中には、取締役会事務局を務める部署が含まれることが多いと思われる。

 コーポレートガバナンスに関する方針や課題・対応については、取締役会が審議すべき内容であり、取締役会事務局は、取締役会で示された方針や意見を執行側につなげる役割を負っている。取締役会事務局は、取締役会の情報と執行側(執行役員や各部署)の情報の双方を把握でき、それらをつなげるハブの役割を担える立場にあるので、ガバナンスの統括について大きな貢献ができるものと考える。

 当社では、取締役会事務局を務める取締役会室が、ガバナンス担当役員と各本社機能長から構成されるガバナンス委員会の事務局も務めることにより、同委員会を通じてガバナンスについての執行部署の統括を担う形をとっている。委員会という建付けにより、多くの部署の協力がより得やすくなった。

 組織的には、取締役会室を経営企画部門および広報部門と同じ本部内に設置し、また秘書室を取締役会室と統合する組織改編を行った。これにより全社戦略やIR・対外情報発信についての連携が進み、取締役への支援や情報交流も改善されてきた。

 しかしながらガバナンスの統括機能としての働きは未だ十分とは言えず、まだまだ取り組むべき内容は多く残されているのが現状である。
 

 ガバナンスに関わる課題は、今後も広がり続けると考えられ、会社の中でそれらを総合的に検討し各部署を統括していくガバナンス統括機能の重要性は更に高まるものと考える。そのような役割を担う部署は、過去の業務範囲に捕らわれることなく、広くガバナンス全般について進んで取り組んでいく姿勢が大切である。そのような取組みによって部署間の協働が図られ、ガバナンスの向上につながっていくものと考える。

以 上

 


[1] 経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」平成30年9月28日改訂(https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180928008/20180928008-1.pdf

 

(ふじわら・よしかず)

1984年弁理士登録。1985年中央大学法学部法律学科卒業、同年TDK株式会社入社。入社後は、知的財産部門(知財業務全般)、米国本社勤務(法務部門)を経て、知的財産センター長、法務部門長を担当。2017年取締役会室の新設に伴い取締役会室長。その後、2019年秘書室を統合してコーポレート セクレタリー グループを新設し、同GMに就任、取締役会室長および秘書室長を兼務、現在に至る。

 

取締役会事務局の実務
──コーポレート・ガバナンスの支援部門として

 

 

本欄の概要と趣旨

  1.   SH3555 ガバナンスの現場――企業担当者の視点から 第0回 連載開始に当たって 旬刊商事法務編集部(2021/03/30)

 

旬刊商事法務のご紹介

「取締役会事務局」をテーマとする掲載記事例

  1.   片倉直=竹安 将=南部昭浩=藤原幸一=倉橋雄作「〈座談会〉取締役会事務局のあり方と取組み」旬刊商事法務 2254号2255号2257号2258号
    ガバナンス改革を経たうえでの取締役会事務局のあり方と取組みについて、企業の取締役会事務局責任者が議論。4回にわたって掲載。

その他の直近掲載内容

  1.  • 編集部「2020年商事法務ハイライト」旬刊商事法務 2250号
    編集部による座談会形式で2020年の掲載内容と編集部の取組みを振り返る年末号の掲載記事です。すべてご覧いただけます。
  2.  • 2020年下期索引
  3.  • 2021年までの目次一覧

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