◇SH3756◇公取委、米アップル社の独占禁止法違反被疑事件に関する審査終了方針を発表――2016年10月審査開始、同社の申出による改善措置の実施の確認後に審査終了へ (2021/09/15)

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公取委、米アップル社の独占禁止法違反被疑事件に関する審査終了方針を発表

――2016年10月審査開始、同社の申出による改善措置の実施の確認後に審査終了へ――

 

 公正取引委員会は9月2日、アップル・インク(Apple Inc.  所在地・アメリカ合衆国カリフォルニア州クパチーノ市。以下「米アップル社」という)が同社のスマートフォン iPhone 向けのアプリケーション(以下「アプリ」という)を掲載する App Store(以下「アップストア」という)の運営に当たり、デジタルコンテンツの販売等につきアップストアを通じてアプリを提供する事業者(以下「デベロッパー」という)に対し、独占禁止法3条(私的独占)または19条(不公正な取引方法12項〔拘束条件付取引〕等)の規定に違反して事業活動を制限している疑いなどがあったことから2016年10月以降行ってきた審査について、今後、米アップル社が同社の申出による改善措置を実施したことを確認したうえで本件審査を終了すると発表した。

 公取委によると、(A)わが国におけるスマートフォンの出荷台数は年間3,000万台を超えているところ、米アップル社の日本法人である Apple Japan合同会社が出荷する iPhone の直近のシェアは46.5%を占める。また(B)インターネットを通じてデジタルコンテンツにより行われる音楽配信事業・電子書籍配信事業・動画配信事業(以下「音楽配信事業等」という)の各分野の市場規模は各々783億円・4,569億円・3,200億円にのぼるところ、スマートフォンへの音楽配信事業等にあっては著作権料等の負担が大きく、デベロッパーの努力によって費用を圧縮することが難しい状況があり、(C)デベロッパーによっては、ユーザーがウェブサイトで購入したデジタルコンテンツをもっぱら視聴等することに用いられるアプリ(以下「リーダーアプリ」という)を活用し、デジタルコンテンツをウェブサイトにおいてのみ販売するという。

 このような状況下、(D)iPhone はアップストアのみからアプリをダウンロードすることができるものとされており、米アップル社はアップストアに掲載するアプリが遵守すべき App Store Reviewガイドライン(以下「ガイドライン」という)を公表したうえで審査を行っているところ、(a)米アップル社がガイドラインを遵守していないと判断したアプリはアップストアへの掲載ができず(以下、ガイドラインを遵守していないと判断されることを「リジェクト」という)、一方(b)ガイドラインに基づき、デベロッパーがアプリ内でデジタルコンテンツの販売等をする場合、米アップル社が指定する課金方法(以下「IAP」という)の使用を義務付け、IAPを使用した売上の15%または30%を手数料として徴収する。なお、米アップル社は音楽配信事業等において自らが運営するアプリを提供し、自らもデジタルコンテンツの販売等を行っている。

 公取委が今般の審査の対象とした事実は、次の2点である。(1)「ガイドラインには、デベロッパーがアプリ内でデジタルコンテンツの販売等を行う場合、IAPを使用しなければならないことに加え、消費者を IAP以外の課金による購入に誘導するボタンや外部リンクをアプリに含める行為(以下「アウトリンク」という。)を禁止することが定められている。」(2)「多数のデベロッパーから、ガイドラインの記載やリジェクトの理由が不明確であるとの指摘がある。」

 公取委は、まず(1)IAPの使用に関して「 IAP以外の課金による販売方法という選択肢が存在することは、デジタルコンテンツ等の価格を引き下げる効果を持ち得、消費者の利益となり得る」こと、「アウトリンクを禁止する行為は、IAP以外の課金による販売方法を十分に機能しなくさせたり、デベロッパーが IAP以外の課金による販売方法を用意することを断念させたりするおそれがあ」ることを指摘、独占禁止法上問題となり得ると述べている。

 上記(2)に関しては、①米アップル社が特定のデベロッパーを排除するなど独占禁止法上不当な目的を達成するために、アップストアの運営事業者として、不透明な審査基準を用いるなどして当該デベロッパーのアプリをリジェクトする場合、独占禁止法上問題となり得るとするほか、②不当な目的でなくともアプリがリジェクトされることやアップストアから削除されることは、デベロッパーの事業活動に大きな影響を与えるものであり「ガイドラインの記述や、リジェクトの理由が不明確であることは、デベロッパーの事業活動上の予見可能性を損ない、新規参入や投資を制限する効果を与えるものであり、競争に悪影響を与える可能性がある」とする考え方を示した。

 米アップル社からは上記(1)に対し、音楽配信事業等におけるリーダーアプリについてアウトリンクを許容し、ガイドラインを改定することの申出があった。この対応により、デベロッパーとしてはリーダーアプリの活用により自らのウェブサイトへのリンクなどを表示できるようになることから、公取委は「 IAP以外の課金による販売方法の提供が妨げられる懸念が解消される。したがって、上記(編注・略)の申出は、音楽配信事業等における独占禁止法上の問題を解消するものと認められる」と評価した。

 また、上記(2)に対しては「今後、デベロッパーの予見可能性を高めるため、ガイドラインの明確化やアプリ審査の透明性の向上のための取組を進め、その取組状況について、3年間にわたって年1回、公正取引委員会に報告する」旨の申出があった。

 公取委においては、これらの申出を踏まえ、今後、米アップル社が申し出た「音楽配信事業等におけるリーダーアプリについてアウトリンクを許容することとし、ガイドラインを改定する」改善措置を実施したことを確認したうえで本件審査を終了することとしたものである。

 なお、公取委は今般の発表の後段に「第2 IT・デジタル関連分野における独占禁止法違反被疑行為に係る取組」を据え、(i)IT・デジタル関連分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報に接した場合には「IT・デジタルタスクフォース」において効率的に調査を行うこととしていること、(ii)専用の情報提供窓口を設置していることを改めて表明。また、本件に関しては「デジタル市場競争会議ワーキンググループ」(座長・依田高典京都大学大学院経済学研究科教授)の9月7日開催・第25回会合において公取委から報告がなされている。

 

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