◇SH3827◇個人情報委、令和3年度上半期の活動実績を公表 藤田浩貴(2021/11/12)

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個人情報委、令和3年度上半期の活動実績を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 藤 田 浩 貴

 

1 個人情報保護委員会とは

 個人情報保護委員会(以下「委員会」という。)は、平成28年1月に個人情報保護法に基づき設置された合議制の機関であり、各主務大臣が有していた個人情報取扱事業者に対する監督権限が委員会に一元化されている。委員会は、個人情報保護法及び「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「マイナンバー法」という。)に基づき、個人情報の保護に関する基本方針の策定・推進、国際協力、監視・監督等の活動を行っており、個人情報保護において重要な役割を担っている。

 委員会の活動の概要を見ることで、個人情報保護法及びマイナンバー法を取り巻く状況について概観することができる。

 

2 令和3年度上半期の活動の概要

 令和3年度上半期(令和3年4月1日~同年9月30日)の委員会の活動は、大きく「個人情報保護法等に関する事務」、「マイナンバー法に関する事務」、「国際協力」、「新型コロナウイルス感染症に係る対応」及び「個人情報保護法、マイナンバー法等に共通する事務」の5つの分野に分けることができる。このうち、特に中心的な活動である「個人情報保護法等に関する事務」及び「マイナンバー法に関する事務」の概要は、下図のとおりである。

 

出典:委員会「【概要】令和3年度上半期における個人情報保護委員会の活動実績について」
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/11/R3_kamihanki_gaiyou.pdf

 以下では、「個人情報保護法等に関する事務」及び「マイナンバー法に関する事務」のうち、各種ガイドライン等の改正等とそれぞれの法律に基づく監督等について述べる。

 

3 「個人情報保護法等に関する事務」について

⑴ 各種ガイドライン及びQ&Aの改正・策定・公表

 個人情報保護法は、令和2年6月12日に公布された「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」(令和2年法律第44号)に基づき改正されることとなり、改正個人情報保護法は、令和4年4月1日からの施行が予定されている。

 委員会は、改正個人情報保護法の施行に向け、令和3年8月2日に、団体・事業者又は個人からの意見を踏まえ、以下の①~④のガイドラインの改正、及び、以下の⑤のガイドラインの策定を行った。

  1. ①:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)
  2. ②:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(外国にある第三者への提供編)
  3. ③:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)
  4. ④:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(匿名加工情報編)
  5. ⑤:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(認定個人情報保護団体編)

 また、委員会は、「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」の更新を行い、令和3年9月10日に公表した。

 例えば、個人情報保護法の改正により「仮名加工情報」や「個人関連情報」という新たな概念が導入されたことに伴い、①のガイドラインではこれらに関する取扱いが解説されており注目に値する。

⑵ 個人情報保護法等に基づく監督等

 委員会による個人情報保護法に基づく監督等に係る処理状況は、下表のとおりである。

 出典:委員会「令和3年度上半期における個人情報保護委員会の活動実績について」
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/11/R3_kamihanki.pdf

 個人情報取扱事業者は、漏えい等事案が発覚した場合は、その事実関係及び再発防止策等について、委員会等に対し、速やかに報告するよう努める必要がある(平成29年個人情報保護委員会告示第1号)[1]

 上記のとおり、令和3年度上半期に委員会に直接報告された個人データの漏えい等事案は517件であり、昨年よりもやや増加しているといえる。主な発生原因は、書類及び電子メールの誤送付、書類及び電子媒体の紛失であり、人為的なミスが多いようである。

 委員会は、漏えい等事案の報告を受けた場合、その事実関係及び再発防止策の確認等を行い、必要に応じて、指導等の対応を行うことになるが(個人情報保護法40条~42条)、令和3年度上半期の実績は上記の表のとおりであり、指導・助言が昨年よりも増加しているといえる。

 

4 「マイナンバー法に関する事務」について

⑴ 各種ガイドライン及びQ&Aの改正・策定・公表

 マイナンバー法は、令和3年5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)に基づき改正されることとなり、改正マイナンバー法は、令和3年9月1日から施行されている。

 委員会は、マイナンバー法の改正を踏まえ、令和3年8月11日に、団体又は個人からの意見を踏まえ、以下の①、②のガイドラインの改正・公表を行った。

  1. ①:特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(行政機関等・地方公共団体等編)(平成26年特定個人情報保護委員会告示第6号)
  2. ②:特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)(平成26年特定個人情報保護委員会告示第5号。(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドラインを含む。)

 また、委員会は、「『特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)』及び『(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン』 に関するQ&A」の更新を行い、令和3年9月1日に公表した。

 例えば、同Q&AのQ15-1-5では、テレワーク等により自宅においてマイナンバーを取り扱う場合には、使用するPCや通信環境に十分なセキュリティ措置を施すとともに、特定個人情報等が記録された電子媒体等を持ち運ぶ際には、紛失・盗難等を防ぐための方策を講じるなど、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」で定める漏えい等を防止するための安全管理措置を講ずる必要があるとされており注目に値する。

⑵ マイナンバー法に基づく監督等

 委員会によるマイナンバー法に基づく監督等に係る処理状況は、下表のとおりである。

出典:委員会「令和3年度上半期における個人情報保護委員会の活動実績について」
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2021/11/R3_kamihanki.pdf

 個人番号利用事務等実施者は、個人番号又は特定個人情報の漏えい等の事案を把握した場合には、事実関係及び再発防止策等について、委員会に対し、速やかに報告するよう努める必要があり(平成27年特定個人情報保護委員会告示第2号)、また、特定個人情報の漏えいその他の特定個人情報の安全の確保に係る重大な事態が生じたときは、委員会に対し、報告する必要がある(マイナンバー法29条の4)。

 上記のとおり、令和3年度上半期に委員会が報告を受け付けた件数は92件(そのうち「重大な事態」に該当するものは6件)であり、昨年よりもやや増加しているといえる。主な発生原因は、地方公共団体においてマイナンバーが記載された書類を紛失したという事案であり、人為的なミスが多いようである。

 委員会は、漏えい等事案の報告を受けた場合、その事実関係及び再発防止策の確認等を行い、必要に応じて、指導等の対応を行うことになるが(マイナンバー法33条~35条)、令和3年度上半期の実績は上記の表のとおりであり、立入検査が30件と昨年よりも増加しているといえる。

 なお、上記30件の立入検査は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から電子媒体による資料徴求、電話・メール又はウェブ会議でのコミュニケーション等の手法を活用した検査だったようであり、オフサイトで検査することができる簡便さが件数の増加に寄与しているとも推測される。

 

5 まとめ

 上記のとおり、個人情報保護法及びマイナンバー法が改正されており、それに伴う委員会による各種ガイドライン及びQ&Aの改正が行われている。個人情報又はマイナンバーを保有する事業者としては、これらの改正に注意を払い、対応を検討する必要がある。

 また、上記のとおり、個人データの漏えい等の事案の報告及び特定個人情報の漏えい事案等の報告ともに、その件数が増加している。個人情報又はマイナンバーを保有する事業者としては、改めて漏えい等が生じないように安全管理措置を徹底するとともに、漏えい等が生じてしまった場合の対応についてもマニュアルを作成するなど対応を検討しておくことが重要であるといえる。

以 上



[1] なお、改正個人情報保護法では、漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがある場合に、委員会への報告及び本人への通知が義務化される(改正個人情報保護法22条の2)。


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(ふじた・ひろき)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2013年大阪大学法学部卒業。2015年京都大学法科大学院修了。2016年弁護士登録。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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〒100-6315 東京都千代田区丸の内二丁目4番1号丸の内ビルディング15階 電話 03-3214-6205(代表)

 

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