1 有価証券届出書の財務計算に関する書類に係る部分に虚偽記載等がある場合に当該有価証券の募集に係る発行者等と元引受契約を締結した金融商品取引業者等が金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任につき同条2項3号による免責を受けるための要件
2 株式の上場に当たり提出された有価証券届出書のうち当該上場の最近事業年度及びその直前事業年度の財務諸表に虚偽記載があった場合において当該株式の発行者等と元引受契約を締結した金融商品取引業者の金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任につき同条2項3号による免責が否定された事例
1 有価証券届出書の金融商品取引法193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類に係る部分のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合に、当該有価証券の募集に係る発行者又は売出しに係る所有者と元引受契約を締結した金融商品取引業者又は登録金融機関が、引受審査に際して、当該財務計算に関する書類につき監査証明を行った公認会計士又は監査法人による監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたときには、当該金融商品取引業者等は、当該疑義の内容等に応じて、当該監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ、同法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることはできない。
2 株式の上場に当たり提出された有価証券届出書のうち当該上場の最近事業年度及びその直前事業年度の財務諸表の売上高欄に虚偽記載があった場合に、次の⑴~⑹など判示の事情の下においては、当該株式の発行者である会社等と元引受契約を締結した金融商品取引業者は、金融商品取引法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることはできない。
- ⑴ 上記金融商品取引業者は、上記会社の引受審査に際して、2回にわたり、上記会社の売上げの大半が架空計上によるものであることを指摘する投書を受け取っていた。
- ⑵ 上記各投書は、上記会社が売上高の粉飾の典型的兆候といえる複数の事象が継続してみられる状況にあったこととよく符合する内容のものであり、上記会社の売上高等について上記金融商品取引業者の把握している事実関係と合致する記載がされ、粉飾決算の手法等を具体的かつ詳細に指摘するものであった。
- ⑶ 上記金融商品取引業者は、上記会社の主幹事会社としてその引受審査に当たってきたものであった。
- ⑷ 上記金融商品取引業者は、1回目の投書の受取の後、当該投書において上記粉飾決算を主導している旨指摘されていた上記会社の役員に対して直ちに当該投書の内容を伝え、その作成者と思われる者が上記会社の内部監査室長を務めていた者であったにもかかわらず、2回目の投書の受取の後も、その者から事情を聴取するなどの調査確認を行わなかった。
- ⑸ 上記金融商品取引業者が上記財務諸表につき監査証明を行った公認会計士から聴取した監査手続は上記各投書の指摘する手法による粉飾決算の可能性に対応したものではなく、また、上記金融商品取引業者は、当該監査手続において証ひょう類の原本確認が行われたか否かすら具体的に確認しなかった。
- ⑹ 上記金融商品取引業者が引受審査において実施した調査は、上記会社の提案に従い選定された取引先の訪問調査及び売上げに関する証ひょう類の写しの相互に矛盾がないことの確認等にとどまるものであった。
金融商品取引法21条1項4号、2項3号、193条の2第1項
平成30年(受)第1961号 最高裁令和2年12月22日第三小法廷判決 損害賠償請求事件 一部破棄差戻し、一部棄却 民集74巻9号登載予定
原 審:平成29年(ネ)第1110号 東京高裁平成30年3月23日判決
第1審:平成22年(ワ)第36767号・第44717号、平成23年(ワ)第10504号・第37139号、平成24年(ワ)第34885号 東京地裁平成28年12月20日判決
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本件は、架空売上げの計上による虚偽記載のある有価証券届出書を提出して東証マザーズに上場された株式会社エフオーアイ(以下「本件会社」という。)の株式の取得者又はその承継人であるXらが、本件会社と元引受契約を締結していた金融商品取引業者のうち主幹事会社であったYに対し、上記株式のうち募集又は売出しに応じて取得したものにつき金融商品取引法(以下「金商法」という。)21条1項4号に基づく損害賠償を請求するなどした事案である。
2 事実関係の概要
⑴ 本件会社は半導体製造装置の製造販売等を主たる事業とする株式会社であり、その代表取締役及び取締役のうち2名(以下「本件役員ら」という。)は、平成16年3月期以降、架空売上げの計上による粉飾決算を行うようになった。その手法は、注文書等を偽造し、出荷を装って実際に装置を倉庫から搬出した上で、当該装置の納入書類等を偽造して架空売上げを計上し、ペーパーカンパニーへの仕入代金を装った送金により簿外資金を作出して本件会社に還流させ、預金通帳の印字を改ざんして売掛金の回収を装うなどというものであった。
⑵ 本件会社と監査契約を締結していた公認会計士ら(以下「本件会計士」という。)は、売掛先への残高確認書の送付による売掛金の実在性確認を行っていたが、本件役員らは、売上げを偽装した取引先に協力者を確保し、本件会計士から送付された残高確認書を回収して偽造印を押捺するなどして、本件会計士に返送していた。また、本件役員らは、本件会計士が実施した売掛先の訪問調査においても上記協力者に応対させ、半導体製造装置の納入等につき虚偽の事実を述べさせていた。本件会計士は、監査において、本件役員らから証ひょう類の写しの提示を受けた場合であっても原本の提示を求めなかったため、当該証ひょう類に偽造されたものが含まれていることに気付かなかった。
⑶ Yは、平成19年8月、本件会社の主幹事会社としてその引受審査を開始した。本件会社は、平成16年頃以降、計算書類等において、売上高の急増、売上げの計上時期の偏り、売掛金期末残高の著しい増加、売上債権回転期間の顕著な長期化、営業活動によるキャッシュ・フローのマイナスの連続計上等、売上高の粉飾の典型的な兆候といえる事象が継続してみられる状況にあった。また、Y及び東証は、本件会社の最初の上場申請後である平成20年2月、本件会社の粉飾決算を指摘する詳細かつ具体的な内容の匿名投書(以下「第1投書」という。)を受領し、さらに、本件会社の3度目の上場申請後である平成21年10月にも、ほぼ同内容の匿名投書(以下「第2投書」といい、第1投書と併せて「本件各投書」という。)を受領していた。しかし、Yは、追加調査等の結果、本件各投書には信ぴょう性がなく、本件会社の上場手続を進めることに問題はないものと判断していた。
⑷ 本件会社は2度の上場申請及びその取下げを経て、平成21年11月、東証マザーズに上場した。上記上場に当たり提出した有価証券届出書(以下「本件有価証券届出書」という。)中の平成20年3月期及び平成21年3月期の財務諸表には、本件会計士が無限定適正意見を記載した監査報告書が添付されていたが、上記財務諸表のうち連結損益計算書の売上高欄の記載は、その約97%が架空売上げの計上による虚偽のものであった。
⑸ 本件会社は、平成22年5月、本件有価証券届出書の虚偽記載の事実を認める旨を公表し、同年6月、上場廃止となった。
3 原審の判断の概要
原審は、上記事実関係の下、金商法21条2項3号につき、有価証券の募集に係る発行者等と元引受契約を締結した金融商品取引業者等(以下「元引受業者」という。)は、有価証券届出書の金商法193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類に係る部分(以下「財務計算部分」という。)に虚偽記載等があった場合、このことを知らなかったことさえ証明すれば、金商法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることができると判断し、Yは本件有価証券届出書の虚偽記載の事実を知らなかったなどとしてYの同号による免責を認めた。
4 本判決の概要
本判決は、まず、金商法21条2項3号につき、有価証券届出書の財務計算部分に虚偽記載等があった場合、元引受業者が引受審査に際して財務計算に関する書類(最近事業年度及びその直前事業年度の財務諸表等。金商法193条の2第1項、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令1条)につき監査証明を行った公認会計士又は監査法人の監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたときには、当該元引受業者は、当該疑義の内容等に応じて、当該監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ、金商法21条1項4号の損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を受けることはできないと解するのが相当であるとした。
その上で、本判決は、本件各投書がYの把握していた事実関係等とよく符合する詳細かつ具体的なものであったことなどから、Yはこれを受領したことにより本件会社の財務諸表等についての本件会計士による監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接したものというべきであるとした。そして、Yが本件会社の主幹事会社として引受審査に当たってきたものであること、Yの第1投書の受領後の対応が不適切であり、本件各投書の信ぴょう性の評価を大きく誤ったと思われること、Yは、本件会計士から本件会社につき実施した監査手続について聴取しているものの、原本確認がされたか否かすら確認しておらず、上記監査手続が本件各投書の指摘する手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りるものか否かを確認したとはいえないこと、Yが引受審査において実施した調査も証ひょう類の写しの相互に矛盾がないことの確認等にとどまるものであり、上記手法による粉飾決算の可能性を否定するに足りるものとはいえないことを挙げ、本件会計士の監査がその信頼性を欠くものではないことにつき本件各投書による疑義の内容等に応じて調査確認を行ったとはいえないとして、Yの金商法21条1項4号による損害賠償責任につき、同条2項3号による免責を否定し、原判決中、募集等に応じて取得された株式についての損害賠償請求を棄却した部分を破棄し、損害額について更に審理を尽くさせるため、上記部分を原審に差し戻した。
5 説明
⑴ 金商法21条2項3号の解釈について
ア 金商法21条2項3号は、元引受業者が、有価証券届出書に虚偽記載等があった場合における同条1項4号の損害賠償責任を免れるために証明すべき事項(免責事由)について、虚偽記載等が財務計算部分以外の部分にある場合には、「相当な注意」を用いたにもかかわらず当該虚偽記載等を知ることができなかったことを証明すべきものとする一方、虚偽記載等が財務計算部分にある場合には、当該虚偽記載等につき知らなかったことを証明すべきものとする旨規定する。これは、証券取引法において昭和46年法律第4号による改正により追加された規定を金商法において引き継いだものである。上記改正は、財務計算部分については公認会計士等の監査証明が付されることから、金融商品取引業者等は引受審査において公認会計士等の監査結果を信頼することが許容されるべきであるとの考えに基づくものであり、元引受業者に財務計算部分についてまで過失がなかったことを求めるのは行き過ぎであるからその審査義務を軽減したものである旨の説明がされている(第65回国会参議院大蔵委員会会議録第6号〔昭和46年2月18日〕4頁志場証券局長発言)。加えて、上記改正が、上記の免責のためには金融商品取引業者等において上記財務諸表の記載の正確性を信ずるにつき正当な根拠を有することを要するものとすべき旨の神崎克郎教授の提案を不採用にしてされたものであるという立法経緯等もあり、上記改正当初は、財務計算部分に虚偽記載等がある場合の元引受業者の免責事由に関し、元引受業者は財務計算部分については審査義務を負わず、財務計算部分の虚偽記載等について単に主観的に善意であれば免責されると解する見解が採られていた(商事法務研究会編『改正証券取引法の解説』69頁(商事法務研究会、1971)〔奥村光夫〕)。
イ しかし、上記見解によれば、引受審査に当たる金融商品取引業者等は、有価証券届出書における開示情報の信頼性の確保のため果たすべき役割の重大性にもかかわらず、財務計算部分については監査証明が付されていることさえ確認すれば足りることとなり、審査姿勢の消極化を招きかねない。また、単なるセリング・グループすら目論見書使用者として財務計算部分につき「相当な注意」を用いるべき義務を負うこと(金商法17条ただし書)との整合性を説明し難い。これらのことから、引受審査における金融商品取引業者等の財務計算部分についての審査義務ないし注意義務を何らかの形で肯定すべきとの見解が多数述べられてきた。具体的には、①法の理念、ないし単なる目論見書使用者すら金商法17条により財務計算部分につき「相当な注意」を用いるべき義務を負うこと等からの「もちろん解釈」として、引受審査を行う金融商品取引業者等は財務計算部分につき「相当な注意」を用いるべき義務を負うとするもの(神崎克郎「証券取引法上の民事責任」大森先生還暦記念『商法・保険法の諸問題』(有斐閣、1972)233頁、志村治美「証券取引法上の民事責任」河本一郎先生還暦記念『証券取引法大系』(商事法務研究会、1986)557頁ほか)、②金商法21条2項3号については文言どおりに解釈しつつ、金商法17条の目論見書使用者としての審査義務の援用により引受審査における金融商品取引業者等の審査義務が補完されるとするもの(河本一郎「証券取引法の基本問題―民事責任を中心として」神戸(1972)21巻3・4号ほか)、③法21条2項3号の解釈として、財務計算部分に虚偽記載等がないと信ずることにつき合理的理由の立証を要するとするもの(黒沼悦郎「有価証券届出書に対する元引受証券会社の審査義務」岩原紳作ほか編集代表『会社・金融・法〔下巻〕』(商事法務、2013)335頁ほか)などが挙げられる。
上記②の見解(17条補完説)が多数説であり、本件の原審もこれを採用したものである。もっとも、この見解に対しては、目論見書使用者としての責任をもって引受審査における注意義務を根拠付けることの理由付けが困難である等として批判があった。
ウ 本判決は、財務計算部分に虚偽記載等がある場合についての金商法21条の規定は、財務計算部分につき、重い責任の下で監査証明を行うこととされている公認会計士等と引受審査を行う金融商品取引業者等との合理的な役割分担の観点から、金融商品取引業者等において公認会計士等による監査を信頼して引受審査を行うことを許容したものであるとして、金融商品取引業者等が財務計算部分につき同条に基づき積極的審査義務を負うことについては否定した。他方で、本判決は、原審とは異なり、財務計算部分に虚偽記載等がある場合、金融商品取引業者は、引受審査に際して上記監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接していたときには、その疑義の内容等に応じて上記監査が信頼性の基礎を欠くものではないことにつき調査確認を行ったものでなければ金商法21条2項3号の免責を受けることはできないとして、上記情報に接した場合における金融商品取引業者等の同号に基づく調査確認義務を肯定した。これは、同条が金融商品取引業者等に有価証券届出書における開示情報の信頼性を担保させる趣旨でその損害賠償責任について定めたものであることを重視したものと解される。すなわち、同号については、上記③の見解に加え、金融商品取引業者等と公認会計士等との相互の役割分担への信頼を前提とする規定であって、その前提条件が満たされない場合(すなわち、公認会計士等の監査結果に対する信頼性についての疑義が強い場合)には、金融商品取引業者等が、そのゲートキーパーとしての役割に照らし、開示情報の正確性についての調査義務を果たすべきであるとする見解(遠藤元一「有価証券届出書の虚偽記載と主幹事元引受証券会社の民事責任」法研(2018)91巻10号117頁)があったところ、本判決はこれらに親和的な立場を採ったものと理解することができよう。
エ もっとも、本判決は、飽くまで、公認会計士等の監査証明に対する信頼性の基礎に重大な疑義が生ずるという例外的な状況の下における金融商品取引業者等の調査確認義務を肯定したものにとどまる上、上記調査確認義務の内容を「上記疑義の内容等に応じ」て、「上記監査が信頼性の基礎を欠くものではない」ことについての調査確認を行うという消極的義務に限定していることについては留意を要しよう。金融商品取引業者等が原則として公認会計士等による監査の結果を信頼して引受審査を行い得ることは本判決も前提としていることが明らかである。金融商品取引業者等の引受審査に関しては、日本証券業協会の定める「財務諸表等に対する引受審査ガイドライン」において、(金商法17条による補完を前提とするものであるが、)財務計算部分の監査証明の信頼性につき疑わしい事象の有無の確認等が求められているのであって、本判決が、金融商品取引業者等の引受審査における調査義務を、現在の実務を超えて一般的に加重するものとは直ちに解し難いというべきである。
⑵ 本件における当てはめについて
ア 本判決は、本件各投書が本件会社の上場申請の最近事業年度及びその直前事業年度の財務諸表の売上高欄の記載の大半が虚偽であることを相当の信ぴょう性をもって指摘するものであったとして、本件各投書は「監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報」に当たるとした。上記情報に当たり得るものとしては、監査結果自体に疑義を生じさせるもの(監査において見落とされている不正ないし虚偽記載の存在を示唆するもの等)のほか、監査証明を付した公認会計士等の監査体制、監査手法等に疑義を生じさせるもの(公認会計士等が買収等により適性を欠く状態になっていること、人員ないし時間の不足等により監査体制が不適切な状態となっていること、監査手続が監査基準に適合しないものであることを指摘するもの等)などが考え得るが、これらに関する情報が、「監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる」とまでいい得るか否かは、これらにより生ずる疑義の定性的、定量的な重大性の程度や信ぴょう性の程度等を、その内容や客観的状況との整合性の有無等から検討して判断することになると思われる。本件各投書については、その指摘する内容自体、多額の架空売上げの計上による売上高欄の虚偽記載という質的にも量的にも重大なものであったことに加え、その記載内容がYの把握していた客観的事実関係とよく符合するなど信ぴょう性が高いものであったことから、上記情報に当たるとの認定が比較的容易にできたものと考えられる。
イ 本判決は、その上で、本件各投書に対するYの調査について、①本件各投書自体への対応(本件各投書の信ぴょう性の確認・評価)の点、②本件会計士の実施した監査手続の確認・評価の点、③Yが自ら実施した調査の内容等の点の3点から分析を行い、Yが本件各投書による疑義の内容等に応じた調査確認を行ったとはいえないとの結論を導いた。上記調査確認として求められる内容等はもとより具体的事実関係に即して検討されるべきものであり、一定の調査確認を行えば足りるという性質のものではない。Yは、元引受業者が実証的方法により調査確認を行うことは求められていないと主張していたところ、本判決は、実証的方法による調査確認の要否について言及していないが、これは、その要否は一律に決すべきものではなく、どのような調査確認をどの程度まで行うべきであるか等は、疑義の内容、その重大性の程度等に応じて個別に検討されるべきであるとの考えによるものと理解することができよう。
ウ なお、本件では、主幹事会社ではない元引受業者も被告とされていたが、その責任を否定した原審判決が不受理決定により確定している。これは、上記元引受業者が本件各投書を受け取っていなかったばかりか、その存在すら知らされていなかったという事実関係の違いによるところが大きいと思われる。本判決は、Yが主幹事会社であり、本件会計士による監査の信頼性に関する種々の調査を行い得る立場にあったことを挙げているが、主幹事会社以外の元引受業者であっても引受審査において果たすべき役割において本質的には違いがないと考えられる。もっとも、主幹事会社以外の元引受業者は、主幹事会社からその審査結果の提供を受け、必要に応じて主幹事会社に対して質問を行うなどして引受審査を行うという実情にあるため、接し得る情報に限定があり得るところ、その結果、行うべき調査確認の内容等に主幹事会社と違いが生ずることは当然にあり得るといえよう。
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本件は、有価証券届出書の財務計算部分に虚偽記載等があった場合における元引受業者の金商法21条1項4号の損害賠償責任に関し、同条2項3号の定める免責事由の解釈適用に関する判断を最高裁判所として初めて示したものであり、実務上重要な意義を有するものと思われる。