金融庁、金融審議会「資金決済ワーキング・グループ」報告書を公表
――AML/CFT業務の共同機関に対する業規制、電子的支払手段に関する規律のあり方など――
金融庁は1月11日、金融審議会「資金決済ワーキング・グループ」(座長・神作裕之東京大学大学院法学政治学研究科教授)が報告書を取りまとめたとし、これを公表した。今後開催予定となる金融審議会総会・金融分科会において報告される。
資金決済ワーキング・グループは第47回金融審議会総会・第35回金融分科会合同会合(2021年9月13日)における金融担当相の諮問「資金決済制度のあり方に関する検討」を受けて金融審に設置、10月13日に初会合が開かれた。諮問は、具体的には「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する国際的な要請やデジタル化の進展等を踏まえ、安定的かつ効率的な資金決済に関する制度のあり方について検討を行うこと」とするもので、12月28日までに計5回の会合を開催し、本報告書の取りまとめに至っている。
「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策」(以下「AML/CFT」という)については金融活動作業部会(FATF)による「第4次対日相互審査報告書」の公表(2021年8月30日)、当該報告書における評価結果も踏まえ「銀行業界においてAML/CFT業務の共同化による高度化・効率化(共同機関の設立)に向け、具体的な検討が進んで」いる状況にあるという。今般公表された資金決済ワーキング・グループ報告書では、第1章を「銀行等におけるAML/CFTの高度化・効率化に向けた対応」とし、AML/CFT業務の共同化に係る「3. 共同機関に対する業規制のあり方」「4. 個人情報の適正な取扱い」を主軸として構成した。
また、本報告書では「金融サービスのデジタル化への対応」を第2章とし、ここでは「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(座長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)の中間論点整理(2021年11月17日)を踏まえ「1. 電子的支払手段に関する規律のあり方」について示すとともに、「2. 前払式支払手段に関するAML/CFTの観点からの規律」のあり方について検討結果を織り込んでいる。
本報告書・第1章から「為替取引等に関し、AML/CFTとして、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」)において、取引時確認や疑わしい取引の届出等の履行義務が、また、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」)において、同法に基づく許可等を受けているかどうかの確認や本人確認の履行義務等が課されている」預金取扱等金融機関・資金移動業者(以下「銀行等」という)について、そのAML/CFT自体のあり方を確認すると、(ア)マネー・ローンダリングなどは一般にその対策が十分でない銀行等が狙われるといった観点から「銀行等が業界全体としてAML/CFTの底上げに取り組むことは意義がある」こととされ、(イ)その「実効性向上は、詐欺等の犯罪の未然防止や犯罪の関与者の捕捉に直結するほか、被害者の損害回復にも寄与するものであり、利用者保護の観点からも重要な意義を有する」とされている。
具体的な取組みとしては「各銀行等において、AML/CFTの基盤となる預金口座等に係る継続的な顧客管理を適切に行うこととあわせて、リスクベース・アプローチの考え方の下、一般にリスクが高いとされる為替取引に関する『取引フィルタリング』『取引モニタリング』について、システムを用いた高度化・効率化を図っていく必要」が指摘されており(編注・本報告書の引用箇所において注記を略する場合がある。以下同様)、このような業務の中核的な部分を共同化して実施する主体を「共同機関」とし、本報告書では当該機関に対する業規制のあり方を明らかにした。
第1章「3. 共同機関に対する業規制のあり方」によると、その具体的な内容は、①参入要件、②兼業規制、③個人情報の取扱いに係る体制整備義務等、④検査・監督の4つの観点から提示。①としては(a)一定の財産的基礎、(b)適切なガバナンス体制の確保や資金調達の容易性等の観点から株式会社形態(取締役会および監査役会、監査等委員会または指名委員会等を置くもの)とすること「が基本となるものと考えられる」こと、(c)情報システムの適切な管理・運用や個人情報の適正な取扱い、さらには実効的な取引フィルタリング・取引モニタリングの実施といった業務を的確に遂行できる体制の確保等について「重要となると考えられる」ことを挙げた。
また、上記③の個人情報の取扱いについては「銀行等と同様に、個人情報保護法の上乗せ規制として、以下の体制整備義務等の規律を法令において課すことが考えられる」とし、次の5点を掲げている。情報の安全管理措置、個人利用者情報の安全管理措置等、 非公開情報の取扱い、目的外利用の禁止、秘密保持義務。
なお、第2章「1. 電子的支払手段に関する規律のあり方」では具体的な電子的支払手段とし、ステーブルコイン、電子的支払手段を用いた送金・決済サービスを取り上げて「(6) 「発行者」及び「仲介者」に求められる規律」のあり方、仲介者に関する業規制の具体的内容などを示すほか、「(8) 発行者の提供する機能と金融システムへの影響等」では、デジタルマネーとなる中央銀行デジタル通貨(CBDC)について検討が必要な論点を示すなどした。
「2. 前払式支払手段に関するAML/CFTの観点からの規律」においては、諸サービスを類型化したうえで「(2) 番号通知型の電子移転可能型前払式支払手段に関する体制整備義務等」として不正利用への対応など、必要な取組みを指摘。「(3) 前払式支払手段を巡るAML/CFTに関する環境変化」では検討の視点を明確化するなどしている。適宜参考とされたい。