SH4148 Google Android第一審裁判所判決の要点 トム・スミス/亀岡悦子(2022/09/30)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

Google Android第一審裁判所判決の要点

GERADIN PARTNERS法律事務所

トム・スミス

亀 岡 悦 子

 

はじめに

 今年9月14日、欧州連合(EU)の第一審裁判所である一般裁判所は、米デジタル企業Googleに対して、2018年の欧州委員会の競争法違反の判断を概ね支持する判決を下した。この判決の要点を簡単に説明する。

  1.   背景
  2.   今年9月14日、欧州連合(EU)の第一審裁判所である一般裁判所は、米デジタル企業Googleに対して、2018年の欧州委員会の競争法違反の判断を概ね支持する判決を下した。数多くのスマートフォンやタブレットのメーカーがAndroidとGoogle製のアプリ・サービスをプリインストールしている状況を鑑み、欧州委員会は2015年に正式審査を開始していた。2018年7月、GoogleがAndroidを使って、自社の検索エンジンの優位性を強化し、競合事業者は技術革新と競争の機会を失い、健全な競争によって得られるはずの恩恵をEU加盟国の消費者が受けていないと欧州委は結論づけ、GoogleのEU競争法違反を認定し、43億4000万ユーロの制裁金支払いを命じた。 

 欧州委によると、Googleは、Google Playストアのアプリをプリインストールする複数のAndroid端末メーカーに対し、Google検索およびChromeモバイルウェブブラウザなど他のGoogleのアプリもプリインストールする義務を課した。2つ目の問題は、 検索アプリとGoogle Playストアの端末メーカーへのライセンシングを細分化禁止契約(Anti-Fragmentation Agreements)締結を条件にした点である。この契約は、Android端末メーカーがGoogle appsを自社のデバイスで使用する前に締結し、Googleによって承認されていないAndroidフォークの使用を禁止する。この違反行為は、Google製アプリを使わないAndroidデバイスのみを対象にしている。Google製アプリをプリインストールした場合には、GoogleがAndroidデバイスに制限を課すことは問題がない。3つ目は、収入分有契約(Revenue Sharing Agreement)により、GoogleはAndroid端末メーカーに 、一定のデバイスにGoogle検索アプリのみプリインストールことを条件として支払いをした点である。

 EU競争法上の分類としては、最初の2つの行為はタイイング、3つ目は排他的違法行為に該当する。IntelやQualcomm事件に見られるように、後者の違法行為類型に関する欧州委の決定は、一般裁判所に上訴されやすいのが最近の傾向である。本件でも、Googleが欧州経済地域(EEA)のAndroid端末について、公式アプリのライセンス条件変更すると共に、決定を一般裁判所に不服申し立てた。

 

9月14日の判決

 一般裁判所は、Googleによるライセンス方法変更を考慮し、制裁金を41億2500万ユーロに減額したものの、Googleは検索エンジンの支配的地位を確立するために、Android端末およびネットワークの企業に違法な制限を課したという欧州委決定を概ね認めた。EU競争法の制裁金としては減額後も依然、過去最高額となっている。 

 判決では、違法行為認定について、上記のタイイング行為の違法性は認めたものの、排他的行為は取り消している。タイイングについては、裁判所は、支配的地位にある企業のタイイングが競争法違反行為となる点を、実際の反競争的効果を示して確認した。また裁判所は、Googleエコシステムの観点からさまざまな契約書を合わせて検討し、プリインストールを巡る企業戦略の今後の判断にも参考となる議論を提示している。

 ブラッセルにおいては、欧州委決定への外部からの批判は、概して排他的行為の分析に限られ、今回の判決前からこの点についての裁判所の判決は一般に予想されていた感がある。欧州委は、支配的地位企業と最低でも同レベルの効率的なライバルを市場から締め出すことができるかという基準で、収入分有契約を審査した。この基準の判断は高度な技術を要し、他の事件でも使われていたが問題視されてきた。

 さらに、裁判所は、初めてデジタルエコシステムの価値・重要性に明確な理解を示しており、欧州委だけでなく他の競争当局にとっても、排他的効果を生じる巨大デジタル企業のさまざまなエコシステムについての検討が容易になるであろう。他の欧州委が審査中のAppleやGoogleに関する事件に影響を及ぼすと思われる。市場画定については、AppleのiOSをGoogleのAndroidと区別した。市場画定は、支配的地位を占めるかの判断の基礎となるため、巨大デジタル企業の支配的地位濫用事件で重要な要素となる。この点についても、今後の他の審査で考慮されるであろう。

 また、本判決では、欧州委の保管書類へのアクセス権などの対象企業の手続き中の防御権についても言及している。

 Googleは一般裁判所判決を、EUの最高裁に当たる司法裁判所に上訴することができる。司法裁判所では、法律上の議論について検討されるため、上記の違法行為の認定について異なる判断が可能である。

以 上

 

 


(とむ・すみす)

英国競争当局でのリーガル・ダイレクターとして活躍後、ジェラディン・パートナーズのパートナーとなる。英国競争当局では、デジタル市場タスクフォースを指揮してデジタル広告市場調査を指導し、デジタル市場部門設立に携わった。ハイテク案件を審査した経験を活かし、Google、Apple、Facebook、Amazonなどの「デジタルゲートキーパー」規制についてのアドバイスを得意分野する。さらに、英国競争当局では、企業結合部門のダイレクターとして初期審査と欧州委員会との審査協力を主に担当し、Sainsbury’s/Asda、Illumina/PacBio、BT/EE(telecoms)などの企業結合詳細審査も扱った。ハイテク分野以外では、金融・製薬分野において豊富な経験を有する。英国当局に勤務する以前は、Hogan Lovellsにて英国弁護士として英国・EU競争法案件を扱い、ITV plcや英国競争当局へも派遣されていた。競争法会議での講演も多い。

 

(かめおか・えつこ)

慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、同大学法学研究科修士課程終了。同博士課程在籍中、パリ・ソルボンヌ大学修士課程、ニューヨーク大学ロースクール、欧州大学院(ブルージュ)にてEU競争法を研究した後、ブラッセルにある欧州委員会競争総局で修習。EU競争法における秘匿特権の研究で、ブラッセル自由大学から法学博士号を授与。フランス系、英国系法律事務所を経て、2001年からEU競争法弁護士としてブラッセルのバンバール・アンド・ベリスに勤務後、2022年、ジェラディン・パートナーズに入所。カルテル・支配的地位濫用審査での欧州委審査対応、企業結合届出、流通販売制度の設立、R&D・アライアンスなどの契約書の作成・見直し、知財ライセンス交渉などのEU競争法の全ての分野を扱い、コンプライアンスプログラムの作成とトレーニングや、競争法違反に基づく損害賠償請求訴訟についても豊富な経験を有する。EU競争法の講演や著作も多い。ニューヨーク弁護士会会員、ブラッセル弁護士会準会員。

 

ジェラディン・パートナーズ(GERADIN PARTNERS)https://www.geradinpartners.com/

ジェラディン・パートナーズは、ブラッセルとロンドンを拠点とする競争法専門の法律事務所。EUと加盟国競争法専門家を中心にした少数先鋭のチームにより高度な専門知識を活用し、あらゆるニーズに対応できる柔軟な体制と独立したアプローチで、効率的にご相談に応じる。英国競争当局出身者が3人所属し、英国競争法は特に経験豊富。デジタル市場法などのデジタル事業規制、支配的地位濫用や買収などの企業結合に関する欧州委審査、R&D契約、戦略的アライアンス、流通販売制度の構築などの競争法のアドバイスが中心となり、テクノロジー、通信、放送、メディア、エネルギーとその他の規制産業についても高度な専門知識と経験を有する。標準必須特許、ライセンス交渉など知的財産権に関するリーガルサービスも得意分野。審査対象企業だけでなく、反競争的な慣行によって被害を被る企業も代理した損害賠償訴訟も扱う。欧州委員会や英国を含む加盟国競争当局での審査では、クライアントを代理するだけでなく、複雑・高度に専門的な案件について、他の法律事務所の依頼により専門家としての観点からアドバイスもしている。

タイトルとURLをコピーしました