法務担当者のための『働き方改革』の解説(6)
法改正の概要
TMI総合法律事務所
弁護士 藤 巻 伍
Ⅱ 法改正の概要
3 差別的取扱いの禁止(非正規法9条)
非正規法9条 ※下線部分はパートタイム労働法からの改正部分 事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。 |
本条は、差別的取扱いの禁止を定めた規定であり、労働契約法には存在しない規定である。本条の規定を簡単に要約すれば、通常の労働者と①職務の内容が同一であって、かつ②雇用関係が終了するまでの全期間において人材活用の仕組みが同一であると見込まれるものについては、③短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いを禁止する規定である。
非正規法8条との違いは大きく分けて2つあり、1つ目は、「その他の事情」を一切考慮しないことである。労働契約法20条が適用された長澤運輸事件の最高裁判決(最判平成30年6月1日労判1179号34頁)は、職務の内容及び人材活用の仕組みが同一である無期雇用労働者と有期雇用労働者の間の待遇の格差に関して、定年後再雇用労働者であることを「その他の事情」として考慮し、複数の待遇の格差について不合理でないと判断した。今回の法改正により、無期雇用労働者と有期雇用労働者の間の待遇の格差に対しても、「その他の事情」を考慮しない非正規法9条が適用されることにより、長澤運輸事件と同様の事件における適法・違法の判断に影響を与える可能性がある。
2つ目は、「短時間・有期雇用労働者であることを理由とし」た差別的取扱いを禁止していることである。この点、職業経験・能力、業績・成果、勤続年数等を理由とする格差であれば「短時間・有期雇用労働者であることを理由とし」た差別的取扱いに当たらず、許容されうると考えられている。また、パートタイム労働法における差別的取扱いの禁止が争われた過去の裁判例(ニヤクコーポレーション事件(大分地判平成25年12月10日労判1090号44頁)、京都市立浴場運営財団事件(京都地判平成29年9月20日判例集未登載))においては、いずれも差別的取扱いをすることについて合理的理由がないことを認定した上で、「短時間労働者であることを理由とし」た差別的取扱いに該当すると判示している。逆に言えば、差別的取扱いをすることに合理的理由があれば、「短時間・有期雇用労働者であることを理由とし」た差別的取扱いに該当しないと判断される可能性が高い。したがって、非正規法9条の適用が問題となった場合、会社側としては、差別的取扱いをすることに合理的理由があることを主張・立証していくことになると考えられる。この点、定年後再雇用労働者であることが合理的理由に該当するかについては、引き続き検討を要する点である。
なお、非正規法8条と9条の関係性(9条の存在意義)は必ずしも明確とは言えず、今後様々な議論がなされることが予想される。