◇SH2249◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(125)雪印乳業㈱グループの事件を組織論的に考察する㉟岩倉秀雄(2018/12/14)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(125)

―雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉟―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、食中毒事件の発生時とは異なる牛肉偽装事件後の企業体質の変革と信頼回復の取組みについて述べた。

 雪印乳業(株)は、牛肉偽装事件後には、コンプライアンスを組織内に浸透・定着するために、仕組み(構造とプロセス)の改革だけではなく、組織成員の価値観(組織文化)の改革に注力した。

 有志による「雪印体質を変革する会」の活動を会社として正式な活動と位置づけ、信頼回復運動を全社的に強力に推進するために、信頼回復プロジェクトをスタートさせた。(筆者は、全酪連牛乳不正表示事件時に実施した組織風土改革運動の経験を雪印乳業(株)に伝えていた。)

 そして、「雪印の顔が見えない」との社会の批判に応え、運動の趣旨や改革された内容、信頼回復のテーマを効果的にコミュニケートするために、広告、広報、ホームページでの情報発信やメールマガジンの発行を行った。

 また、農家女性のネットワーク「田舎のヒロインわくわくネットワーク」の協力による酪農生産者との対話や、(社)女性職能集団WARPの提言を受けて消費者との対話及びお客様モニター制度の導入を行うとともに、工場開放デーを設定し、品質への取組み、事業改革、経営改革に対するステークホルダーの理解を得るように努めた。

 今回は、ガバナンス改革、コンプライアンス体制の再構築、行動基準等について考察する。

 

【雪印乳業(株)グループの事件を組織論的に考察する㉟:牛肉偽装事件後の経営再建⑥】(『雪印乳業史 第7巻』478頁~489頁より)

1. ガバナンスの改革(社外取締役の選任と企業倫理委員会の設置)

 2002年6月27日の株主総会を控えて、同年4月17日、株主オンブズマン(代表 関西大学森岡孝二教授)より「安全担当社外取締役の選任等に関する定款変更の件」が株主提案され、協議を重ねた結果、雪印乳業(株)は、社外取締役として、前全国消費者団体連絡会(略称 消団連)事務局長の日和佐信子の就任と、「社外の目」を取り入れた企業倫理委員会の設置を決定した。

 日和佐は、①自身の言動が制約されないこと、②消費者の目で経営をチェックしていくこと、③雪印にとってのデメリットの情報も開示すること、を条件に社外取締役を引き受け、6月4日、雪印乳業(株)と株主オンブズマンは最終確認を行って共同記者会見を開催、これに日和佐も同席した[1]

 企業倫理委員会は、2002年6月1日、倫理・品質委員会(仮称)の名で取締役会の諮問機関として、企業倫理及び品質等に関する提言・勧告並びに検証を継続的に行うべく設立(委員は日和佐委員長を含めた社外委員5名と社内委員2名)された。

 6月27日の株主総会で日和佐が正式に社外取締役に選任されてからは、社内委員の交代もあり、企業倫理委員会として新たな陣容で出発[2]した。

 また、専門性の高い課題を処理するために、委員会内に専門部会(品質に関する提言を行う品質部会、消費者重視経営に関する提言を行う消費者部会、表示の見直しと提言を行う表示部会)を設置した。

2. コンプライアンス推進体制

 雪印乳業(株)は、牛肉偽装事件後の2002年6月27日、コンプライアンスを社内に徹底させるための専門部署として、企業倫理室を総務部企業倫理室から独立させた。

 企業倫理室は、企業倫理委員会の事務局の他、雪印乳業行動基準の策定、社内通報相談制度の企業倫理ホットラインの窓口対応等を行った。

 食中毒事件後、雪印乳業(株)は、新生雪印乳業の企業理念、ビジョン、ブランドメッセージ、雪印企業行動憲章、企業行動指針を制定して信頼回復に取り組んできたが、それにもかかわらず牛肉偽装事件を発生させたことを改めて反省し、お客様モニター制度やお客様センターに寄せられた声、企業倫理委員会からの提言、全国消費者団体等の意見を踏まえ、2003年1月23日、新たな企業理念、ビジョン、コーポレートメッセージ、雪印乳業行動基準を制定した。

 雪印乳業行動基準の策定に当たっては、①企業理念に即した行動基準、②役員・社員がわかりやすく実践しやすい行動基準、③社会に公表できる行動基準であることに留意して、役員・社員全員が策定に参画して内容を決定し、全員で守る姿勢を重視した。[3]

 また、当時、内閣府国民生活審議会消費者政策部会の「自主行動基準検討委員会」の指針に、「自主行動基準の策定・公表により消費者は事業者の経営姿勢を評価することが可能となる」とあったことを踏まえ、雪印乳業行動基準[4]をホームページに掲載した。

 このように、牛肉偽装事件後の雪印乳業(株)は、高野瀬社長以下の経営陣(含社外取締役)と企業倫理委員が一体となって、ソフト面(意識や価値観)の改革に取り組んだ。

 次回は、企業倫理委員会の具体的役割について考察する。



[1] これにより、株主提案は取り下げられた。

[2] 委員長は日和佐信子、社外委員は畔柳達雄(弁護士)、田中宏司(経営倫理実践研究センター主任研究員)、鈴木紀子(前コープ東京理事、品質管理部長)、五十嵐英夫(元東京都衛生研究所参事研究員)、社内委員は篠塚勝夫(代表取締役副社長、経営全般・CS推進室長)、高原憲一(企業倫理室担当取締役)、小川澄男(商品安全監査室担当取締)事務局は、総務部から独立した企業倫理室が担当した。

[3] 当時、筆者は雪印、全農、全酪が合弁で設立した市乳会社である日本ミルクコミュニティ㈱の初代コンプライアンス部長で、雪印乳業企業倫理室と密接に連携していたことから、策定時の苦労を何度も聞いている。

[4] 雪印乳業行動基準は、「一人ひとりの意識と行動の改革」を目指してをサブタイトルとし、企業理念、社長メッセージ、7章の基準よりなる。企業倫理室は、その定着のために冊子を作成して全役職員に配布し、説明会、研修会を通じて定着を図った他、行動のチェックポイントをカード化して配布し、各職場にもポスターを掲示した。

 

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