◇SH2343◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第9回) 齋藤憲道(2019/02/18)

未分類

企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

第1部 管理をめぐる経営環境の変化

3.バブル経済崩壊~「日本再興戦略」へ 1990年(平成2年)~現在

(4) 監査の充実(監査役、会計監査人)

 近年、企業経営における遵法と透明性確保に関して、監査機関(監査役、会計監査人等)に対する期待が大きくなっている。

 このため、法律による監査機関の経営陣からの独立性の確保(選任方法、監査業務の実施方法、報酬額決定等)、任期の長期化、社外役員の増加等が進んでいる。

○ 近年行われた監査機関の機能の強化は、次の通りである。

  1. ・ 1993年(平成5年) バブル経済の余韻が一部に残る頃、商法と商法特例法が改正された。
    監査役の任期が3年(以前は、2年)に伸長された[1]
    「大会社」について、監査役3名以上(うち、1名以上は社外監査役。1名は常勤。)が義務化されるとともに、監査役会制度(個々の監査役の独任制を前提とする)が導入され、会計監査人の選任議案(株主総会)の提出に監査役会の同意を要し、また、監査役会が取締役に会計監査人選任議案の提出を請求できることとされた[2]
    株主代表訴訟の提起が容易化された[3]。以後、同訴訟件数の増加に伴って監査役の関連業務が増えた。
     
  2. ・ 2001年(平成13年)の商法改正において、監査役の機能はさらに強化された。
    (注) 2001年に、日本取締役協会が設立された。
    監査役の任期が4年(以前は、3年)とされた[5]
    監査役の取締役会への出席義務・意見陳述義務が規定され[6]、監査役(辞任した監査役本人を含む)の辞任について株主総会で意見陳述する権限が付与された[7]
    「大会社」については、監査役(3人以上)の半数以上を社外監査役とする[8]
    (注) このとき、社外監査役の定義が厳格化され、それまでの「就任の前5年間(略)取締役(略)その他の使用人」でなかった者から「5年間」の要件が外れ、「就任前に」となった。
    監査役選任議案に対する監査役会の同意権、監査役会の監査役選任議案の提案権を認めた[9]
     
  3. ・ 2002年(平成14年)には、「大会社(又は、みなし大会社)」が、定款で定めることにより、委員会等設置会社に移行することができることになった(従来の監査役設置会社との選択制)[10]
     
  4. ・ 2005年(平成17年)に、商法・有限会社法・商法特例法等を統合して「会社法」が制定された。
    全ての「大会社」の取締役について内部統制システム構築義務が規定された。また、「小会社」の監査役に業務監査権限が付与された。
    監査役の任期は原則として4年である。(公開会社でない会社は、定款で10年まで伸長が可能。)[11]
     
  5. ・ 2014年(平成26年)に、2005年(平成17年)の会社法制定時からの議論を踏まえて、監査・監視体制が次のように強化・充実された。
    社外監査役の要件に、親会社等の関係者でないこと等が追加され、社外監査役の独立性が強化された[12]
    (注) 社外取締役についても、同様に社外性要件が厳格化された。
    監査役会設置会社においては、監査役を3人以上とし、そのうち半数以上が社外監査役[13]でなければならない。
    (注) 社外取締役を置いていない監査役会設置会社(公開会社かつ大会社で、有価証券報告書提出会社の場合)は、定時株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならない[14]
    会計監査人の選任・解任等に関する株主総会議案を決定する機関を、取締役(会)から、監査役(会)に変更して、会計監査人の独立性を強化した[15]
    「監査等委員会設置会社[16]」制度が会社の機関設計の選択肢に追加された。
    企業グループ規律が整備され、(一定の条件のもとで)完全親会社の株主が、その完全子会社の取締役等の責任を追及する「多重代表訴訟制度」が創設された[17]
    (注) 東京証券取引所は、(1)上場会社に1名以上の「独立役員(社外取締役又は社外監査役)」を確保すべきことを義務付ける[18]とともに、(2)独立社外取締役を2名以上選任することを求め、1名以下の場合は、そのようにする理由を説明しなければならない[19]としている。

 

  1. 〔参考〕会社法制(企業統治関係)については、以下の法改正が議論されている(例)[20]
  2.       株主総会資料の電子提供、株主提案権の制限(議案数は10まで。名誉侵害目的等も制限)、役員報酬の透明化(取締役会が「報酬等の決定方針」等を決めて事業報告で開示)、社外取締役を義務化(監査役会設置の公開会社かつ大会社で有価証券報告書提出会社に義務)[21]

○ 2018年に監査基準が改訂され、監査人(公認会計士、監査法人)の監査報告書(金融商品取引法)に「監査上の主要な検討事項」を記載することになった[22]

 監査意見を簡潔明瞭に記載する従来の枠組みは基本的に維持しつつ、監査プロセスの透明性を向上させることを目的に、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項(通称、KAM)を監査報告書に記載するのが国際的な監査基準改訂の流れ[23]であり、日本もこれに連動する。

 KAMの記載の目的は、「監査人が実施した監査の透明性の向上」と「監査報告書の情報価値を高めること」で、次の3つの効果が期待されている。

  1. ・ 財務諸表利用者に監査プロセスに関する情報が提供され、監査の信頼性が向上。
  2. ・ 財務諸表利用者の監査や財務諸表に対する理解が深まり、経営者との対話が促進。
  3. ・「監査人と監査役等の間のコミュニケーション」や「監査人と経営者の間の議論の充実」を通じ、コーポレート・ガバナンスの強化、様々なリスクに係る認識を共有して効果的な監査の実施、を実現。
     
  4. (注)「会社法監査」と「金融商品取引法監査」の見直し
     上場企業について、開示制度全体を抜本的に見直そうという意見がある。企業は1つの決算書を作り、それに対して1つの監査報告が行われる、というのが自然な発想だろう。
     定時株主総会を挟んで、その直前に公表される会社法の「事業報告」と、直後に公表される金融商品取引法の「有価証券報告書」の監査報告書の記載が、「KAM(監査上の主要な検討事項)」という重要な点において異なれば、投資家(株主を含む)は理解に苦しむ。
     この点について監査基準は会計監査人に対し、KAMの記載を有意義にするために監査の過程を通じて監査役等と連携を図ること、そして、KAMに企業の未公表情報を含めるときは経営者に追加情報の開示を促すとともに監査役等と協議すること、を求めている[24]
  5.  
  6. (筆者の見方)
     基本的には、両報告の開示項目を統一し、年度の開示を例えば「有価証券報告書」に一本化する等して、複数の種類の「決算書」(会社法、金融商品取引法)と「監査報告書」((会社法、金融商品取引法)×(監査役等、会計監査人))が併存する現在の複雑な状況を改めるのが望ましい。
     1951年に日本で証券取引法に基づく公認会計士監査が開始された当時は、公認会計士制度自体が未整備で、上場企業の会計監査を全て公認会計士に任せるのは非現実的だったが、現在は同制度の整備が進み、しかも会計監査には高度な専門知識が必要になっている。
     今般のKAMの導入を機に、会社法と金融商品取引法の2本立てになっている現在の「決算書」と「監査」の制度を原点に立ち返って見直し、簡素で効果的なものにすることを望む。


[1] 商法273条1項

[2] 商法特例法18条、18条の2、3条1項、3条2項

[3] 商法267条4項

[4] 商法266条1項5号、7項、17項~19項。280条1項。343条。責任を負うべき最低限の額は、報酬等を基準に定められ、代表取締役(6年分)、社内取締役(4年分)、社外取締役(2年分)、監査役(社内外とも2年分)である。

[5] 商法273条1項   

[6] 商法260条ノ3第1項

[7] 商法275条ノ3ノ2第1項~第3項

[8] 商法特例法18条1項

[9] 商法特例法3条2項、3項、18条3項

[10] 商法特例法1条の2第3項

[11] 会社法336条1項、2項

[12] 会社法2条16号ハ、ニ、ホ。取締役についても同様に社外性要件が厳格化された(会社法2条15号ハ、ニ、ホ)。

[13] 会社法2条16号、335条3項、911条3項18号

[14] 会社法327条の2

[15] 会社法344条1項、3項。監査等委員会設置会社においては、会計監査人の選任・解任等の株主総会議案の内容の決定権は、監査等委員会が有する(会社法399条の2第3項2号)。

[16] 会社法326条2項。3人以上の取締役からなり、かつ、その過半数を社外取締役とする「監査等委員会」が監査を担うとともに、業務執行者を含む取締役の人事に関して株主総会における意見陳述権を有する。

[17] 会社法847条の3第1項~3項

[18] 東京証券取引所上場規程436条の2

[19] 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(原則4-8)」はComply or Explainの原則を採用している。

[20] 2019年1月16日に「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」が法制審議会 会社法制(企業統治関係)部会で決定された。2019年度通常国会に提出、2020年度の施行を目指す。

[21] 東京証券取引所の上場会社における社外取締役の設置比率(平成29年)は既に約97%(一部上場は約100%)である。

[22] 2018年7月5日 企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」において「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)」を会計監査人の監査報告書に記載することとされた。KAMについては、改訂監査基準 「第四 報告基準」の「 二 監査報告書の記載区分(2)」及び「七 監査上の主要な検討事項」に規定され、平成33年(2021年)3月決算の監査から適用する。(前倒しで適用することは可能であり、KAM以外の事項は平成32年3月決算の監査から適用する。)

[23] 〔海外の導入状況〕英国(2012年)、オランダ(2014年)、EU・オーストラリア・ニュージーランド・シンガポール・北欧3カ国他(2016年)、米国(2019年)

[24] 2018年7月5日 企業会計審議会「監査基準の改訂について」の「二 主な改訂点とその考え方(3)、(5)」

 

タイトルとURLをコピーしました