法務省、法制審議会民法(相続関係)部会第1回会議の議事録を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 笹 川 豪 介
1.相続法改正の検討状況
相続法に関しては、昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げや寄与分制度の導入等の改正がなされて以来大きな見直しはされていないが、高齢化社会の進展に伴う配偶者の生活保障の必要性の高まりや、要介護高齢者の増加、高齢者の再婚の増加など、相続を取り巻く社会情勢の変化から相続法制の見直しが検討されている。相続法の改正については、昨年1月から1年間に渡るワーキングチームでの検討を経て今年2月に法務大臣から法制審議会に諮問され、4月に法制審議会民法(相続関係)部会の第1回会議が開催された。
2.相続法改正の論点
相続法改正の検討課題としては、配偶者の居住権の保護・その貢献に応じた遺産分割の実現や、寄与分・遺留分制度等の見直し、預貯金等の可分債権の取扱いなどが挙げられる。以下では、このうち、特に企業実務に関係し得る寄与分・遺留分制度等の見直し、預貯金等の可分債権の取扱いについて、その背景事情・考え方や検討事項のポイントを紹介する。
検討課題 | 背景事情・考え方 | 検討事項 |
寄与分制度等の見直し |
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寄与分の要件緩和や、相続人以外の者への遺産の分配の是非、内容 |
遺留分制度の見直し |
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遺留分制度の在り方 |
預貯金等の可分債権の取扱い |
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預金債権等の可分債権を遺産分割の対象とするかどうか等 |
3.実務への影響
相続法の改正に関しては、主として金融実務や事業承継等の場面で影響があるものと考えられる。 金融実務においては、これまで預金債権等の可分債権を相続人毎に払い戻すという手続もとられていたものの、相続法の改正の内容によってはこの点について変更がなされることがあり得る。また、寄与分制度の見直しの内容によっては、相続手続時の確認事項の変更なども考えられる。 事業承継に関しては、これまでも、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に基づき、一定の要件のもとに遺留分の主張を排除することができるものとされていた。しかしながら、同法に基づく場合、推定相続人の合意や経産省・家庭裁判所への手続が必要であり、また、対象となる企業についても一定の範囲に限られるなどの制限があった。この点、遺留分制度の見直しがなされることにより、これらの制限が緩和・撤廃され、より円滑な事業承継が可能となることも考えられる。 今後法制審議会は1年程度かけて答申をまとめる予定で、早ければ来年の通常国会で相続に関する民法改正法案が成立することになる。相続法の改正の内容によっては、実務上の影響が生じる可能性もあるため、その動向や改正による影響の有無・内容についても注視していくのが望ましいものと考えられる。
(ささがわ・ごうすけ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2004年慶應義塾大学総合政策学部卒業、大手信託銀行勤務(不動産流動化部門・不動産鑑定部門・法務部門)。2011年弁護士登録。『実務にとどく 相続の基礎と実践』(連載、金融法務事情1994号~)、『銀行窓口の法務対策4500講』(共著、金融財政事情研究会、2013年)、『Q&A 信託業務ハンドブック[第3版]』(共著、金融財政事情研究会、2008年)等著作・論文多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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