◇SH0943◇実学・企業法務(第12回) 齋藤憲道(2016/12/22)

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実学・企業法務(第12回)

第1章 企業の一生

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

2) 業務の外部委託

 現在のグローバル化した市場では、原材料生産・部品生産・組立・ソフトウェア制作・運送・その他の役務等の国際分業化が進み、単独の企業(又は企業グループ)が商品を全て1国内で生産して消費者に提供することはほとんどない。企業は常にコスト・性能・品質等の面でより市場競争力のある商品を開発・製造・販売することを指向するので、グローバルに最適な材料・部品・役務等を求めるとともに、人材の面でも、優秀な技術者・デザイナーや低コストの労働力等を求めて、開発・調達・製造等の機能の一部又は全部を世界最適拠点に置くことを考える。

〔外部委託(アウト・ソーシング)〕
 景気変動への量的対応・原価低減・技術開発等を行いつつ市場競争力を維持・強化するために、自社の競争力の核心ではない業務または自社で技能が不足している業務の一部(又は全部)を外部委託する企業[1]もある。
 外部委託契約では、自社の存立基盤(強味)を社内で十分に確認したうえで、取引の目的及び業務遂行の基本的な仕組み及び契約当事者の役割・責任を明確に定めることが重要である。
 なお、一定の業務を長期にわたって外部委託する場合は、その業務の水準や生産性が市場競争力を有するか否かを評価できる人材を社内に確保しなければ、いずれ、生産性が下がって企業全体の競争力を失う可能性が大きい。

〔受託ビジネスの例〕
 自社の経営資源を最大限有効に活用する観点から、他社に自社ブランド製品の製造を委託することも多く行なわれる。これをOEM(Original Equipment Manufacturing)といい、他社からのOEM受注を事業の柱にする企業もある。
 人材派遣会社は、人材を一定期間派遣することを業とし、本来は派遣を依頼した会社の固定費となるはずの人件費を変動費化する。
 また、通信販売会社(インターネット店舗を含む)は、展示・販売・物流等の営業機能を代行する。

3) 事業再編時の留意事項

 企業では、事業環境や市場競争の変化に対応するために、生産・販売体制の拡大・縮小や事業拠点の移転、事業の売却・廃止等を行うことがある。その際に、大幅な給与カットや従業員数削減が生じる場合は、深刻な労働問題が生じる可能性があり、合法的かつ適切な施策を講じることが必要になる。

  1. ① 事業譲渡の場合
     事業譲渡は、事業に関する個々の権利・義務(債権・債務、さまざまな資産)の承継を譲渡者と譲受者の間の契約で定め、原則として株主総会の特別決議によって行う[2]
     このとき、労働契約の承継も同様に両社間の契約で行うが、異動(転籍)については労働者の個別の同意を必要とする(民法625条1項)。労働者は「残る」ことを選択できるので、企業は通常、転籍すること及び転籍先の労働条件について同時に同意を求める。
     異動(転籍)が想定範囲内であり、かつ労働条件が悪化しない場合は、譲渡会社から出向することを命じても問題は生じない。労働条件が悪化する場合は、一定期間の賃金の差額補填等を考慮する。
     事業の譲渡者と譲受者は、労働契約を承継する社員を選別できる(即ち「残す」ことができる)が、公序良俗違反(民法90条)・差別的取扱い(労働基準法、男女雇用機会均等法)・不当労働行為(労働組合法)等の問題があれば労働者保護を優先して労働契約が承継される可能性がある。
  2. ② 会社分割の場合
     会社分割の場合は、労働者保護の観点から労働契約承継法[3]が制定され、a.労働者及び労働組合への通知(2条)、b.労働契約の承継についての会社法の特例(労働者の書面による異議申出。5条1項、3項)、c.労働協約の承継についての会社法の特例(労働組合との合意による変更。6条)、d.会社分割にあたっての労働者の理解と協力を得る手続(7条[4])、を遵守しなければならない。
  3. ③ グループ経営企業の親会社が行う子会社の事業再編の場合
     事業単位ごとに子会社を設置してグループ経営を行う企業において、親会社が子会社(販売・生産・開発等の機能を持ち、かつ、人材・資金を独立して雇用・調達・運用する)を対象として行う事業再編は、その子会社の株式の全部または一部を第三者に譲渡することにより、労働問題の発生を懸念することなく行うことができる。コングロマリット[5]はグループ経営の代表例である。


[1] 受託企業の例として、電子機器の鴻海精密工業・船井電機、コンピュータ・システムのIBM、自動車のダイハツ。

[2] 会社法467条1項、309条2項11号。なお、468条1項(特別支配会社の特例)及び2項(譲受会社の資産総額の1/5以下の対価による譲受)の場合は、承認が不要である。

事業譲渡では債権者保護手続きは必要とされていないが、債務の承継には債務引受の手続が必要となり、その債務の債権者の同意が必要になる。

[3] 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(通称、労働契約承継法)

[4] 労働契約承継法施行規則4条に手続きの詳細が規定されている。

[5] 米国のGEは事業の売却と取得を繰り返して長期的に好業績を維持したコングロマリット(conglomerate)として知られている。電機分野の発明王エジソンらが創立した企業だが、2012年の家電・産業機器分野の売上構成比は6%(金融31%、エネルギー・インフラ30%、航空エンジン13%、医療機器12%)。同社は2016年6月に家電事業分野(従業員約12,000人を含む)を中国の海爾(Haier)集団に56億ドル(約6,000億円)で売却したと発表した。

 

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