経産省、「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 工 藤 良 平
経済産業省は、平成28年2月8日、「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(以下「ハンドブック」)を公表した。
不正競争防止法上の「営業秘密」としての法的保護を受けられるために企業において行われるべき秘密管理措置の最低限の水準等、すなわち、法的要件として必要最低限の水準に関しては、平成27年1月に改訂された「営業秘密管理指針」において、既に示されていたところである。
今般のハンドブックにおいては、不正競争防止法上の「営業秘密」として法的保護を受けられるための最低限の水準を越える措置を行う場合における、「秘密情報」の漏えいを未然に防止するための対策に関するメニュー等が示されている。具体的には、企業の経営者・担当者に向けて、秘密情報を決定する際の基本的な考え方、漏えい防止対策、取引先などの秘密情報の侵害防止策、万が一情報の漏えいが起こってしまった時の対応方法等が紹介されている。なお、ハンドブックで紹介されている対策の全てを実施しなければ、不正競争防止法上の「営業秘密」として法的保護が受けられないわけではないということを明らかにするため、ハンドブックでは「秘密情報」という定義が用いられている。
ハンドブックでは、望ましい情報漏えい対策のあり方として、①まず自社が保有する情報の全体像を把握し、それを評価した上で、その中から秘密として保持すべき情報(秘密情報)を決定する際の考え方が説明され(第2章)、②秘密情報を同様の情報漏えい対策を講ずるものごとに分類する際の考え方と、具体的に講ずるべき対策・社内でのルール化の方法等が示されたうえ(第3章)、③秘密情報の管理に係る方策をより実効的なものとするための社内体制のあり方が、企業において執られることが想定される対策の流れに沿う形で紹介されている(第4章)。また、社内規程や秘密保持誓約書等の雛形・具体例についても紹介されている。
今般のハンドブックに関しては、「営業秘密」として法的保護を受けるために企業が行うべき必要最低限の措置を超えて、企業にとって価値のある秘密情報の漏えい未然に防止するためにいかなる必要十分な対策を行うことが考えられるかという点について、企業規模・人員・予算に応じ、具体的なメニューが示されたという点に意義がある。
なお、ハンドブックは、「営業秘密」として法的保護を受けるための水準を示したものではないと明記されているが、今後の営業秘密に関する裁判において、「秘密管理性」や「有用性」といった営業秘密該当性の要件事実に関して、ハンドブックを証拠として引用した主張立証活動が行われる可能性があるところ、ハンドブックに列挙されている考慮要素が「営業秘密」該当性との関係で裁判上いかなる評価を受けるのか、興味深いところである。
さらに、秘密情報の管理体制が不十分だった場合に問われ得る取締役の善管注意義務違反に関して、求められる管理体制の一つの指針として、ハンドブックが利用される可能性もあるものと考えられる。
以 上
【ハンドブックで示されている企業における情報漏えい対策の流れ】(ハンドブック4頁)