内閣官房デジタル市場競争本部事務局、「デジタル広告市場の競争評価の中間報告」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 工 藤 良 平
内閣官房デジタル市場競争本部事務局は、令和2年6月16日、「デジタル広告市場の競争評価の中間報告」(以下「本中間報告」という)を公表した。
「デジタル広告市場」とは、⾃らのWebサイト等の広告枠を販売する「パブリッシャー」と、広告枠を買って広告を出稿する「広告主」、両者を仲介する「プラットフォーム事業者(以下「PF事業者」という)」等からなる市場である。
ここ数年、デジタル広告市場は、一部のPF事業者による世界的な寡占化が進行しているといわれており、デジタル広告市場における透明性・公正性に関する懸念や、競争制限行為等の懸念が指摘されている。
このような状況を踏まえ、デジタル広告市場の課題と今後の対応の方向性について、透明性、データ利活用、手続公正性、消費者保護等の観点から整理した本中間報告が公表された。
本中間報告ではデジタル広告市場の課題について多様な観点からの整理が試みられているが、以下、一例として、一部のPF事業者による世界的な寡占化の事例として挙げられている、Googleが提供する動画共有サービスYouTube上の広告へのGoogleによるアクセス制限の問題について紹介する。YouTube上の広告については、以前はGoogle以外のDemand Side Platform (DSP広告:枠購入の入札を行うためのツール又はそのツールを提供する事業者をいう。)を介して広告枠を購入することができたが、2016年以降、Googleは、Google以外のDSPからの購入ルートを遮断した。このことにより、Google 以外のアドテク事業者からは、YouTube 上での広告掲載を希望する広告主・広告代理店からの注文を仲介することができなくなった旨の不満が上がったとされる。
本中間報告では、上記課題への対応方針として、今後GoogleがYouTubeへのアクセスを制限することとした理由が明確にされ、それが正当なものであるかについての検証が求められる旨が記載されている。
つまり、GoogleによるYouTube広告枠の他の事業者への供給拒否にかかる独占禁止法上の評価に関しては、①YouTube と他の広告枠の代替性の程度といった要素(広告主にとって、他の広告枠が十分にYouTube に代替可能でなければ、市場閉鎖効果が生じるおそれがある)、②供給拒否の理由に正当性が認められるか(近年デジタル広告市場における動画広告費が全体として拡大しており特にYouTubeの利用者数増加が顕著であるという状況で、以前は他事業者にも開放していたYouTube広告へのアクセスにつき2016年になって制限を行った理由が正当なものといえるか)、といった観点から私的独占や単独の取引拒絶の該当性が判断されることになるものと考えられる。
また、PF事業者による一方的なシステム変更やルール変更という課題については、対応方針として、独占禁⽌法上の問題となる疑いがある場合には公正取引委員会において的確な対処を判断する旨記載されている。
すなわち、PF事業者によるシステム変更やルール変更にかかる独占禁止法上の評価に関しては、①優越的地位の濫用があったか(例えば、取引先において、システム変更によって不利益が生じ得る状況であったとしても今後の取引に与える影響等を懸念してこれを受け入れざるを得ないようなものだったか)、②私的独占や単独の取引拒絶があったか(例えば、PF事業者が保有するメディアへの配信について自らのアドテクサービス経由に限定するなどのルール変更が競争者を市場から排除するものといえるか)、といった観点から判断されることになるものと考えられる。
今後、本中間報告への意⾒募集とともに、引き続き、関係事業者、有識者等からのヒアリングや海外当局等との意⾒交換が継続され、今冬に最終報告を取りまとめ、公表される予定である。Googleを含めたPF事業者の行為に関して、独占禁止法上どのような評価が行われるか引き続き着目していく必要があろう。
【図:デジタル広告市場構造の概観】
※ 第4回 デジタル市場競争会議 配布資料
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi/dai4/siryou1.pdfより抜粋
以 上
(くどう・りょうへい)
岩田合同法律事務所パートナー。日本及び米国(NY州)弁護士。
2006年コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。20
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
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1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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