◇SH0640◇法のかたち-所有と不法行為 第十二話-3「有限性・不可逆性・経済外部性」 平井 進(2016/04/22)

未分類

法のかたち-所有と不法行為

第十二話  有限性・不可逆性・経済外部性

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

3  作用と状態の変化

 ここで、上記の地表の水流について人間が工作し、それが降雨や工作の不備などによって壊され、その利用状態の低下(損害)が生ずる、あるいは企業が有害物質を環境に放出し、住民の生活状態が悪化するというような状況について、自己の状態がある作用によって低下し、それが他者の行為(作為・不作為)に起因するという事態を考えてみる。

 これらは、作用が発生する時点によって次のように4種類に分類される。

  1. ⑴ 作用が過去に起きており、それにより状態の変化が過去に生じている。
  2. ⑵ 作用が過去から現在に継続して起きており、それにより状態の変化が過去から現在に継続して生じている。
  3. ⑶ 作用が現在起きており、それにより状態の変化が現在生じている。
  4. ⑷ 作用が将来起きようとしており、それにより状態の変化が将来生じようとしている。

 ⑴の過去の状態変化に対応しているのは不法行為である。この作用の現象が可逆的であればその状態を回復することができるが、不可逆的であればその対応は代替するものによる損害の賠償という形式になる。物の所有の場合であって可逆的であれば、その所有権による返還請求となる。

 の過去から現在の状態変化の場合も、過去についてはの場合と同様である。現在の作用については、それを停止させ、将来の状態変化を含めて止めるという対応がある。これが不可逆的な現象であれば、状態の変化は過去から蓄積しており、現在までの分について損害賠償とすることもの場合と同様である。作用の停止は、物の所有の場合はその所有権による侵害停止となる。不可逆的な現象である場合、停止しなければその損害は増加し続ける。

 の現在の状態変化は、の場合の現在に対することと同様であり、その作用を停止させるという対応がある。

 の将来の状態変化は、その作用を起こさないようにするという対応があり、物の所有の場合にはその所有権による侵害予防となる。それが不可逆的な現象である場合、その作用を起こさないようにしなければ、回復不可能な損害が生ずる。

 これらをまとめると、次のような構図となる。ここでは、返還を原状回復に含める。

  可逆的 不可逆的
 過去の作用と状態変化 原状回復 損害賠償
 過去から現在の作用と状態の変化 原状回復 過去: 損害賠償
現在: 侵害停止
 現在の作用と状態変化 原状回復 侵害停止
 将来の作用と状態変化   侵害予防

 このようにしてみると、不法行為法と所有権法における現象とそれに対する法機能は、統一的に見ることができ、そのように見る方が自然である。現行法制とその運用では、作用する現象が可逆的であれ不可逆的であれ、所有権の場合は物の返還、侵害の排除として対応できるが、不法行為の場合は原状回復や差止の実現に解釈上の議論がある。しかし、上記の構図のように、これらは統一的な規範により、統一的な法理として規律すべきものである。

 

タイトルとURLをコピーしました