法務省、親子会社間の法律事務の取扱いについて(弁護士法第72条関係)
岩田合同法律事務所
弁護士 大 浦 貴 史
法務省は、平成28年6月30日、親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条との関係について、同省内における検討結果(以下「本報告」という。)を公表した。
弁護士法72条(以下「本条」という。)は、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とすることができない旨を定めている。この点に関し、従前より法務省は、親子会社間であっても法人格が別である以上、親会社が子会社の法律事務を取り扱うことには、本条の適用余地がある旨の見解を示してきた。これに対して経団連は、グループ全体でリスク管理を考えるべき時代であるから、親子会社間で行われる法律事務は「他人性」の要件を欠くものとして、本条の適用はないと解するべきと主張してきた。こうした中、平成28年6月2日に閣議決定された「規制改革実施計画」において、政府は法務省に対し、この論点についての検討を行うことを求め、これを受け本報告が公表されたものである。
本報告でも、親子会社間で行われる法律事務は「他人性」の要件を欠き本条の適用はないとの解釈は示されなかった。一方、あくまで個別具体的に判断されるべきものとの留保はされつつも、親子会社間で行われる法律事務で、反復的かつ有償[1]で行われるものであっても、原則として本条違反とならないとされる具体例が示された。大要、以下のとおりである。
- ① 契約書、約款、定款、社内規則・規程(就業規則、取締役会規則、内部統制システム・リスク管理体制・各種行政規制の対応ルールを定めた社内規程等)について、ひな形を提供し、子会社が作成したものをチェックすること
- ②(ア)子会社の通常の業務に関連する法令やその改正についての情報提供、(イ)コンプライアンス推進のための社内ガイドラインの提供、社内教育の実施
- ③(ア)子会社の通常の業務に伴う契約、(イ)子会社の通常の業務に関連する法令やその改正、(ウ)定款や社内規則・規程、(エ)株主総会等の準備事務や議事運営等について、一般的な法的意見を述べること
- ④ 業務の適正が監督官庁による有効な監督規制を受けること等を通じて確保されている完全親会社が、その完全親会社及び完全子会社から成る企業集団の業務における法的リスクの適正な管理を担っている場合において、その管理に必要な範囲で、当該完全親会社及び完全子会社の通常の業務に伴う契約や同業務に伴い生じた権利義務について、一般的な法的意見にとどまらない法的助言をし、他の法令に従いその法律事務を処理すること
上記のとおり、例えばひな形の提供や子会社が作成したものをチェックすることなどは原則として本条違反とならないことが明らかとなった。一方、法的助言については、原則として「一般的な法的意見」を述べることまでが許され、例外的に④の場合のみ、それにとどまらない法的助言をすることが認められるというものになっているが、「一般的な法的意見」の範囲については、なお疑義が残るところである。
本報告書をもとに、必要に応じてグループ内の法務管理態勢の見直しを図るとともに、今後の議論の進展や他社動向について注視していくことが必要である。
[1] 例えば、子会社が人件費を負担するような場合が、これに該当し得るとされている。