◇SH0891◇経団連、「過重労働防止徹底のお願い」を公表 羽間弘善(2016/11/22)

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経団連、「過重労働防止徹底のお願い」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 羽 間 弘 善

 

 平成28年11月15日、経団連は、㈱電通において新入社員の過労自殺が発生したことを受けて、「過重労働防止徹底のお願い」を公表した。

 政府は、近年、厚生労働大臣を本部長とする長時間労働削減推進本部の設置や長時間労働に関する監督指導等の強化を実施するなど、過重労働の防止に向けて積極的に取り組んでおり、経団連もこのような取組みを受けて、今年を「働き方・休み方改革集中取り組み年」とするなど、過重労働の防止に向けた取組みを実施していた。このように過重労働防止に向けた取組みが行われていた中で、㈱電通において過労死が発生したことを受け、経団連は、改めて社員の過重労働防止対策の徹底を呼びかけた。

 近年、過重労働等を原因として、労働者が心筋梗塞や脳梗塞等の疾患を発症して死亡に至るケースやうつ病等の精神障害により自殺する過労自殺が社会的に問題となっているが、労働者が、業務に従事したことによって死亡等した場合に、その損害を回復する方法は、①労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく保険給付と②使用者等に対する民事上の損害賠償請求の2つがある。

 まず、①労災保険法に基づく保険給付については、労災保険法7条1項で「労働者の業務上の負傷、疾病、傷害又は死亡の場合」に保険給付を行う旨規定しており、労働者の負傷や死亡等に業務起因性(業務との相当因果関係)が認められる場合には、保険給付が行われる。もっとも、労災保険法に基づく保険給付の金額は、例えば休業補償給付については一日につき給付基礎日額(平均賃金相当額)の60%に相当する金額等と限定されており、被災労働者が被った損害の全てが補償されるわけではない(具体的な給付内容等については「労災保険給付の一覧」参照)。

 一方で、②使用者等に対する民事上の損害賠償請求、具体的には不法行為又は安全配慮義務違反等を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求については、上記労働者の負傷や死亡等に業務起因性(業務との相当因果関係)が認められることに加えて、損害の発生についての使用者の故意過失(又は債務不履行について責めに帰すべき事由)が認められる必要があるため労災保険給付よりも要件を充足しにくい。しかし、当該要件を満たした場合には、使用者の不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)と相当因果関係が認められる損害については全て損害賠償義務が認められるため、労災保険給付よりも広い範囲で損害の回復が認められることになる。

 ①労災保険法に基づく保険給付と②使用者等に対する民事上の損害賠償請求は、被災労働者又はその遺族の選択により、いずれか一方又は双方の請求をすることができるが、まずは、要件を充足しやすい労災保険法に基づく保険給付の請求が行われ、その後当該保険給付では填補されなかった損害の支払いを求めて、使用者に対して民事上の損害賠償請求がされる場合が一般的には多い。なお、労災保険法に基づく保険給付が行われた場合には、使用者は当該給付金額の限度において、民事上の損害賠償義務を免れることができる(労働基準法84条1項、2項)。

 今回㈱電通において新入社員の過労自殺が発生したことで、社会的にも過重労働の防止に向けた取組みの必要性が改めて認識される結果となった。使用者においては、このような社会の動向を踏まえて、改めて自社における労働時間管理や労働者のメンタルヘルスケアの方法について見直す必要があるだろう。

(厚生労働省東京労働局ホームページより抜粋:http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/ro-hyou.html

 

以 上

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