◇SH2722◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第54回) 齋藤憲道(2019/08/19)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 経理の基準(規程等)

(1) 経理の業務

⑥ 決算等の公表

 決算情報は株価(企業価値)に影響するので、厳正に法令・上場規則等(情報の内容、正確性の担保、公表時期等を定める)に従って公表する。

  例 事業報告書、有価証券報告書、決算短信、四半期決算短信

 会社の決算関係情報の開示は次の要領で行う。

1) 法定開示

 会社(上場会社を含む)は、会社法・金融商品取引法等の法令が定める要件および手続きに従って、情報を開示することが義務づけられている。

  1. ・ 会社法関係[1] :株主・債権者等の利害関係者に提供する。
  2.   株式会社及び持分会社の会計の原則は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う[2]
    会社法施行規則[3]および会社計算規則に基づいて、計算書類(貸借対照表、損益計算書等)・その附属明細書・連結計算書類を作成・開示し、会計監査人・監査役(会)の監査報告書を付す。
    (注) 中小企業については一定の場合に、会計処理の簡便化や法人税法で規定する処理の適用が認められる[4]
     
  3. ・ 金融商品取引法関係 :上場会社等の投資者全体(顕在、潜在)に提供する。金融機関が行う与信審査に有用。
  4.   有価証券届出書・有価証券報告書等には財務諸表等規則に基づいて作成された貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書等を記載し、独立監査人(監査法人、公認会計士)の監査報告書および内部統制監査報告書を添付する[5]

    1. (注1) 連結財務諸表を国際財務報告基準[6]に基づいて作成する企業が世界的に増加している。
    2. (注2) 上場株券等の保有割合が5%超となった「大量保有者」は、「大量保有報告書」を内閣総理大臣(実務は、財務局)に提出しなければならない[7]
    3. (注3) 市場外で株券等を大量に買い集める「公開買付者」は、「公開買付届出書」を内閣総理大臣(実務は、財務局)に提出しなければならない[8]

2) 証券取引所の適時開示

 証券取引所の「適時開示」制度に基づいて、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務・運営・業績等に係る情報(決算短信等を含む)を報道機関・インターネット等を通じて又は直接に公表することが義務化されている[9]

  1. (注) 決算短信等には、監査等が不要[10]
  2.  「監査」や「四半期レビュー」の手続きの終了は、証券取引所が求める適時開示の要件ではない。
    ただし、開示した内容に変更・訂正が生じた場合は、「決算発表資料の訂正」として開示することが義務付けられる。決算短信等には、事業報告等や有価証券報告書等の法定開示に先立って決算の内容を迅速に開示する速報の役割が求められており、決算短信等における決算内容の客観性は、監査等により確定した決算内容が法定開示として後から開示されることで担保される。
  3.  〔参考〕
    「事業年度」又は「連結会計年度」に係る決算については、遅くとも、原則として、決算期末後45日以内に内容をまとめて開示する。決算期末後30日以内の開示が、より望ましい。 

⑦ 税務申告、納税 

 企業は、法人税等の国税、事業税等の地方税、及び源泉所得税を法律に基づいて計算し、法定の手続きにより当局に正しく申告して、指定された方法で納付する。

  1. 〔法人税の納税〕
  2.   法人税法・法人税法施行令・法人税法施行規則等に基づいて納税額を計算し、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、税務署長に対して確定申告書[11](貸借対照表・損益計算書・事業概況書等を添付)を提出する[12]
  1. ・ 帳簿への虚偽記載や二重帳簿の作成には刑事罰を科す[13]
  2. ・ 源泉徴収を漏れなく行う。
    給与・利子・配当・報酬等を支払う企業は、支払金額から所得税を源泉徴収して国に納付する[14]
  3. ・ 近年、タックス・ヘイブン(低税率国)を利用して行われる租税回避が各国で問題になり、対策が検討されている。
    日本は、外国子会社合算税制[15]を設けて規制している。

 



[1] 会社法435条(計算書類等の作成・保存)、436条(計算書類等の監査等)、437条(計算書類等の株主への提供)、438条(計算書類等の定時株主総会への提出等)、439条(会計監査人設置会社の特則)、440条(計算書類等の公告)、442条(計算書類等の備置き・閲覧等)、444条(会計監査人設置会社の連結計算書類)

[2] 会社法431条(株式会社の会計の原則)、614条(持分会社の会計の原則)

[3] 会社法施行規則第2編第5章1節、2節

[4] 「中小企業の会計に関する指針(平成28年1月26日)日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、日本商工会議所、企業会計基準委員会」の「本指針の作成に当たっての方針」より。一般的な中小企業の実務においては、法人税法で定める処理が会計処理として容認されるケースが多い。

[5] 金融商品取引法24条の4の4、193条の2第1項・第2項

[6] International Financial Reporting Standards(通称、“IFRS”) なお、全ての国際的会計基準を総称するときは“IFRS”と総称される。

[7] 金融商品取引法27条の23~27条の30

[8] 金融商品取引法27条の3

[9] 株式会社東京証券取引所・有価証券上場規程404条「上場会社は、事業年度若しくは四半期累計期間又は連結会計年度若しくは四半期連結累計期間に係る決算の内容が定まった場合は、直ちにその内容を開示しなければならない。」

[10] 「決算短信・四半期決算短信作成要領等(2017年2月版 株式会社東京証券取引所)」より。

[11] 確定申告書の作成においては、一般に、国税庁の法人税基本通達が参照される。

[12] 法人税法74条1項、3項。法人税法施行規則35条

[13] 法人税法159条1項

[14] 国税通則法2条5号、36条1項2号。所得税法220条~223条

[15] 租税特別措置法66条の6第1項

 

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