◇SH1314◇オランダ子会社の内部通報制度が満たすべき要件について(5・完) 岡野・ハイマンス 謙次(2017/07/28)

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オランダ子会社の内部通報制度が満たすべき要件について 

-オランダ公益通報者保護法、EU一般個人データ保護規則及びオランダ労働法を中心に-

Buren法律事務所

オランダ王国弁護士 岡野・ハイマンス 謙次

 

第五回「オランダ労働法上の要件について」 

 第一回から第四回にわたり、オランダ子会社の内部通報制度が満たすべきオランダ公益通報者保護法及びEU一般データ保護規則上の要件を解説した。最後に、オランダ労働法上の要件について解説する。 

 

1. 労働評議会(ondernemingsraad, works council)の同意を得る義務 

 労働評議会に関する法律(de Wet op de ondernemingsraad、以下「労働評議会」又は「WOR」)によると、ある事業者は、その事業の中で、少なくとも50名が労働を行っているならば、労働評議会(ondernemingsraad、以下「労働評議会」)を設置する義務がある[1]。また、事業者は、事業者において一定の事項(例:年金保険、財形貯蓄等に関する規則、就業及び休憩時間に関する規則又は有給休暇に関する規則)を決定、変更又は撤回しようとする場合、労働評議会から事前に同意を得なくてはならない[2]。この点、オランダ公益通報者保護法の施行により、内部通報制度が労働評議会の事前の同意を必要とする事項に追記された[3]。従って、オランダ子会社内に内部通報制度を設ける場合、もし同社内に労働評議会が設置されているならば、オランダ子会社において事前に決定しようとする同制度の案を書面で労働評議会に提示し、その同意を取り付ける必要がある[4]。もし事業者において労働評議会の同意を得ることができなかったならば、事業者は裁判官に同意を付与するよう請求することができる[5]。事業者において労働評議会又は裁判官の同意なくして上記事項に関する決定を行った場合、もし労働評議会が当該決定から一ヵ月以内にその無効を書面で主張するならば、当該決定は無効となる[6]。また、事業者には、少なくとも年1回、労働評議会に対して、事業者がその従業員のために実施した労働環境等に関する施策について、情報を提供する義務がある[7]。これには内部通報制度の運用状況に関する情報も含まれる[8]。従って、オランダ子会社内に労働評議会が設置されているならば、少なくとも年1回、労働評議会に内部通報制度の運用状況に関する情報を提供するよう、注意しなくてはならない。

 

2.     通報者たる労働者保護について 

 オランダの労働法に関する規定は民法典の債権各論に含まれている[9]。オランダ公益通報者保護法が施行されたことにより、ここに通報者を保護するための条文が新たに追加された。すなわち、労働者が①善意で且つ②合理的疑いに基づき、③オランダ公益通報者保護法にいう不正行為の疑いを、④使用者又は特別院に通報したならば、不正行為の疑いの調査中、使用者は労働者を不利に扱ってはならない[10]。既にオランダ公益通報者保護法の要件のところで説明したとおり、同法によると、内部通報制度にこれを明記しておかなくてはならない。 

 

2. おわりに  

 使用者組織内で生じた不正行為の外部通報の問題は、オランダの労働法の文脈においては、使用者によって提起される雇用契約解約申立事件[11]で語られる。すなわち、オランダの最高裁判例によると、例え労働者において使用者の社内で不正行為を発見したといっても、労働者は原則として使用者に対して忠実義務を負っていることに変わりは無い[12]。従って、労働者において社内の不正行為を外部通報した場合には、一義的には使用者に対する忠実義務違反を構成し得る。但し、もし労働者において法令及び使用者の社内で適用される規則から生じる義務を果たしたことにより、労働者の行為が正当化される場合はこの限りではない[13]。この判断基準に照らすと、当地の法令を可能な限り遵守する形で内部通報制度を構築しておけば、労働者においてはまず内部通報をせざるをえなくなる。従って、オランダ公益通報者保護法にいう内部通報制度の要件を可能な限り遵守する形でオランダ子会社の内部通報制度を構築することは、現地従業員による外部通報から生じるリスク(例えば信用の低下、株価の低下のおそれ、報道機関による報道など)の低減に繋がると思われる。



[1] Art. 2 WOR.

[2] Art. 27 lid 1 WOR.

[3] Art. 27 lid 1 sub m WOR.

[4] Art. 27 lid 2 WOR.

[5] Art. 27 lid 4 WOR.

[6] Art. 27 lid 5 WOR.

[7] Art. 31b WOR.

[8] Art. 31b lid 1 jo. art. 27 lid 1 sub m WOR.

[9] Art. 7:610 e.v. BW.

[10] Art. 7:658c BW.

[11] オランダでは、裁判官は、使用者の申立により、雇用契約を解約することができる(Art. 7:671b lid 1 BW)。

[12] HR 26 Oktober 2012, ECLI:NL:HR:2012:BW9244, r.o. 3.5.1.

[13] Idem.

 

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