◇SH2676◇経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の展開・活用 関口彰正(2019/07/18)

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経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の展開・活用

岩田合同法律事務所

弁護士 関 口 彰 正

 

1 AI・データの利用に関する契約ガイドラインについて

 経産省は、昨年6月、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を公表した。ガイドラインの概要は以下のとおりである。

 ガイドラインは、大きく分けて、AI編とデータ編の2部からなる。

 AI編は、AI技術が実用化段階に入り、多くの企業がAI技術を利用したソフトウェアの開発・利用に取り組み始めていることを踏まえ、①AI技術の特性を当事者が理解していないこと、②AI技術を利用したソフトウェアの権利関係・責任関係等の法律関係が不明確であること、③ユーザがベンダに提供するデータに高い経済的価値や秘密性がある場合があること、④AI技術を利用したソフトウェアの開発・利用に関する契約プラクティスが確立していないこと等の問題点を解決することを目指して制定されたものである[1]

(経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-AI編-」より引用)

 

 ガイドラインでは、AI技術を利用したソフトウェアの実用化の過程について、上図のとおり、「学習段階[2]」と「利用段階[3]」の2つに分け[4]、学習段階については学習済みモデルの開発を目的とした「AI技術を利用したソフトウェアの開発契約」、利用段階についてはベンダが開発した学習済みモデルを提供し、ユーザがこれを利用するサービスについて規定した「AI技術の利用契約」について、それぞれ、契約の考え方や契約締結時の考慮要素等の解説を行っている。「AI技術を利用したソフトウェアの開発契約」についてはモデル契約条項が紹介されている。

 また、データ編では、いわゆるデータ契約(データの利用、加工、譲渡その他取扱いに関する契約)を、下図のように「データ提供型契約」、「データ創出型契約」、「データ共用型」契約の3つの類型に分け、その構造、主な法的論点、適切な契約の取決め方法等を説明しており、「データ提供型契約」及び「データ創出型契約」については、モデル契約条項も紹介されている。これは、データ契約が、契約段階では価値が不明確なデータの流通や利用を対象とするものであり、契約締結後に生じる事態を網羅していない契約になりやすかった実態に鑑み、契約条項例や条項作成時の考慮要素等を提供するために作成されたものである[5]

(経産省 商務情報政策局 情報経済課「『AI・データの利用に関する契約ガイドライン』の公表について」より引用)

 

2 ガイドラインの公表から1年が経過した現在の状況

 ガイドラインが公表されてから半年ほど経過した今年1月に行われたアンケートでは、総回答者のうち、ガイドラインの内容を読んだことがある者は約53%であり、実際に利用したことがある者は約32%にとどまっていた[6]。まだまだ認知度は高いとは言えない状況が現われている。

 他方で、ガイドラインが公表されて以降、産業分野別のガイドラインを制定する動きも見られる。具体的には、農水省は昨年12月「農業分野におけるデータ契約ガイドライン」を公表し、経産省も昨年4月「データの利用に関する契約ガイドライン 産業保安版」を公表し、今年4月には改訂も行われた。また、今年6月21日に開催された第29回未来投資会議において提示された成長戦略実行計画案には、AIやビッグデータの活用を含む第4次産業革命について「政府が、早期に、かつ、具体的に対応策を打ち出し、民間がこれに応えて具体的なアクションを起こせるかどうかが、日本が第4次産業革命をリードできるかどうかを決する。この1、2年が勝負である」と記載されるなど[7]、政府が危機感を持って第4次産業革命を推進していることから、AI及びデータの利用場面は今後急速に拡大し、一層ガイドラインの重要性が増すことが予測される。

 ガイドラインは、事業者の要望や利用実績を踏まえつつ今後改訂されるとのことであるため[8]、今後の改正に伴い、契約実務に与える影響を及ぼす可能性が高いことから、注意を要する。

 

3 ガイドラインの活用について

 実際にガイドラインを活用するにしても、AI技術を利用したソフトウェアの開発契約においては、責任の分配について、事業モデルに即し、契約上できるだけ明確化しておくことが望ましく[9]、また、データの利用に関する契約についても、データの保護は原則として利害関係者間の契約を通じて図られることになるため[10]、契約条項が、後の紛争防止または紛争解決にあたって極めて重要な指針になる。そのため、実際の契約書等の作成にあたっては、相当程度の専門的知見を要することになろう。

以上



[1] 経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-AI編-」2頁

[2] センサやカメラ等何等かの方法により収集・蓄積された生データから、最終的成果物としての学習済みモデルを生成する段階。

[3] 学習済みモデルに入力データを入力し、その出力として一定の結果(AI生成物)を得ることを目的とする段階。

[4] 経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-AI編-」11頁以下

[5] 経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-AI編-」2頁以下

[6] 経産省 商務情報政策局 情報経済課「『AI・データの利用に関する契約ガイドライン』の公表について」7頁以下

[7] 首相官邸「成長戦略実行計画案 令和元年6月21日」1頁

[8] SBIC「経済産業省より『AI・データの利用に関する契約ガイドラインの利用実態と今後の検討課題の把握に向けたアンケート調査』のご案内」(https://www.sbic.co.jp/news/detail12/

[9] 経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-AI編-」35頁

[10] 経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-データ編-」13頁

 

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